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忘れ物屋さん  作者: 野々宮可憐
桜編
5/9

第5話 桜

私、宮城桜は昔から自分の特性に苦しめられていた。その特性とは、『 忘れ事はしないけど忘れ物をしまくる』というもの。幼い頃から、1度読んだ絵本を暗唱したり、漢字を覚えて新聞を読んだりした。



お母さんはそんなに私を見て「とんでもねぇ天才だ…」と恐れたらしい。だがしかし、幼稚園に入ると少しずつ忘れ物が増えていった。


最初はお箸、その次にお弁当、そのまた次にはカバン一式。忘れる場所は家だけじゃない。あちこちに忘れてくるから取り戻せなくなった物も数多くある。もちろん対策もした。首からメモ帳をぶら下げてみたり、物の定位置を決めてみたり。できることは全てやったはずだ。お母さんがそう言った。なのに無駄だった。何をどうやっても忘れるのだ。忘れ事はしない癖に。



最初はお母さんも私が忘れ物をした時にはいちいち怒って注意してた。でも何度言っても改善しないため、これはなにかあるぞと疑ったお母さんは小学校入学前に私を病院に連れてった。そこで言われた一言は、多分私の記憶力がなくたって忘れられない。


9年前の3月28日、白い壁に掛かった時計は2時を指していて、おじいちゃん先生が私のIQとかなんだかんだの数値を見ながら言った。


「いやぁ、君不思議だねぇ。カメラアイっぽいのに忘れ物が激しいなんて面白いなぁ。部屋は綺麗で集中もできるときた。忘れ物以外に困ったことは特になし。そして1度見た光景を決して忘れない。君なんなんだろうねぇ。おじちゃん初めて見たよ。ふっしぎぃ。」


ほんとにこう言った。私もお母さんもしばらく愕然としてた。いや、もちろんお医者さんにだって分からないことはある。それは理解してる。だけれどもこの私の特性に名前が欲しかった私達はしばらくの間何も言えなかった。



その頃くらいからだったと思う。お母さんが私の忘れ物について怒らなくなったのは。怒るよりも挽回した方がいいと考えたらしい。そのお母さんの配慮で、私の生活はかなり楽になった。「幼いから仕方ない」と周囲が許してくれたからでもあった。ただ、段々と成長するうちに、私はもっと大きくて重大な物も忘れてしまうようになっていった。


それが、今私がこの壇上に立っている理由。第一学園に来た理由。第1志望の第五高等学校に、落ちた理由。



忘れてしまったのだ。筆記用具と受験票、そして色んな人達がくれた、お母さんと椿がくれた合格祈願のお守り。逆に何を持っていったのかを問いただしたくなるくらい忘れ物をした。


緊張していたのだ。途方もないくらいの努力が私をそうさせた。この努力が実らなかったらどうしようと1回考えちゃったら頭にこびりついてしまって、忘れられなかった。



受験票と筆記用具はなんとかなった。試験官の方に


すごく変な顔をされたけど、受験票は再発行してくれたし、筆記用具も貸してくれた。でも私のメンタルはブレブレだった。もともとの緊張に加え、今までしでかしたことの無いくらいの忘れ物に動揺した。絶対落ちたと思っちゃったら忘れられなくて、思考の邪魔をして。1時間目の苦手科目である国語は、多分半分も取れなかったんじゃないかと思う。 お守りのひとつでも握りしめていたら、結果は変わっていたんじゃないかとも思う。


他の教科で落ち着きを取り戻して挽回したとは言え、国語での失点が大きかった。


結果は不合格。


お母さんは私を叱らなかった。結果を伝えた時、大笑いして一緒に泣いてくれた。


正直怒って欲しかった。「あんたの心が弱いせいだ。どうして忘れ物をするんだ」って言われて当然だと思ってた。でも結果はもう仕方ないからと言って一緒にケーキを食べてくれた。


優しさが痛くて痛くて罪悪感が重たくてケーキがしょっぱかったのをよく覚えてる。椿の家にも行った。


報告した時、椿はまず初めに顔をクシャッとさせて、私に「お馬鹿!おんぽんたん!」と叫んで私にチョップをした。その後すぐ抱きついてきて、「大丈夫、大丈夫だよ。私が桜の学校生活を楽しくさせてみせるから。だから絶対大丈夫。一緒に青春しちゃおうね。」って言ってくれた。


優しい人達に囲まれたから、努力は無駄だったのだと絶望することはなかった。みんな私の努力を見てくれたから。



椿に大丈夫と言われたものの、しかしやはり不安は残る。私は学力が一番近かったからここを受けたけど、渋々であった。来る気もなかった。絶対公立受かると確信してたし。


学校調べをしたときに、あらゆる口コミサイトで「忘れ物に異様に厳しい」と書いてあったのを発見していた。それは実際のようで、学校ホームページにも流石に誇張だろうけど、停学やら留年やら恐ろしいワードが連なっていてびっくりした。


「まぁ追い込まれた方がやる気出るし、いっか」

この勢いでこの学校を受けたことを酷く後悔してる。








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