表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れ物屋さん  作者: 野々宮可憐
桜編
3/9

第3話 桜


「桜…?いくらなんでも早すぎじゃない?どうやったの?」




お母さんが私の顔を腕時計を何度も確認しながら鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。いつも私をからかうお母さんの驚き顔はかなりレアだ。僥倖である。




「えへへん。ちょっと企業秘密ですな。」




あの不思議なお店のことは秘密にすることにした。だって不正を許さず不明を許さない理系ウーマンのお母さんだ。あの不思議体験を言ってみろ。原理やら理論やらを並べて「実際に行ってみよう!」ってなって折角戻ってきた意味がなくなってしまう。あかん。それにあの体験はなんだか魔法のようで人に言いたくない。特別にしたい。


お母さんは私の顔をじぃっと眺めて怪しむような視線を送りながら言った。




「まぁ後で教えてもらうけどさ。とりあえず行こっか。職員室だっけ。」




保留にさせることには成功したけど、保留は保留だ。追求は免れないらしい。どうやって誤魔化そうか考えながら私とお母さんは校門をくぐった。





「ねぇ、ねぇねぇ桜。弓道場ってどこにあるの?」




「弓道場はあっち方面。ほら、地図見てよ。これ。端っこ。一旦外に出ないと行けないよ。」




「えぇ、不便だなぁ。そういえば桜は何部に入るの?お母さんのおすすめは」




「弓道部でしょ!」




簡単に予測できたので遮った。




「あったり〜。なんでそんな不満そうな顔するの。かっこいいじゃんあの袴。放課後に袴姿の弓道部員とすれ違ってみなよ。惚れちゃうよ。」




「惚れない。というか部活に入る気ない。めんどくさいし懲り懲り。」




「またあんたはそうやって。中学校と高校では全く違うよ?雰囲気がらりと変わるって。楽しいよ。」




私は中学校でバドミントン部に所属していた。そこは正直言って地獄だった。大して練習に参加しないのに後輩に厳しい先輩に、上手い人を虐める同級生。部活に全く顔を出さない顧問などなど、ブラック部活そのもので、他部活に1人か2人いる退部者と幽霊部員を続々と輩出する名門であった。


そんな名門部活は部員同士でなんやかんや事件が起きて私が中二になった頃に活動停止となった。そこからはもう勉強ばっかりしていたから、私は今ここにいるんだけども。第五落ちたけども。




「青春は人それぞれだけど、部活はやっといた方がいいってば。お友達少ないんだし。」




「部活に入らずとも友達百人くらい作ってみますぅ。」




「ほお?やってご覧なさいよ。イマジナリーとか非人間とかはカウントしないでね。」




「言われなくともやってやんよ。」




軽くお母さんを睨む。お母さんは私の目を見て嘲笑して返した。こんなやり取りをしているうちに職員室前に到着した。




「じゃ、お母さん行くから。立派な姿見せてよね。」




地図として見ていた学校紹介パンフレットを私に手渡し、ひらりと踵を返す。




「涙を拭くハンカチの準備しときなよ!」


遠のいていく背中にそう叫んだ。お母さんが手を高々をあげて手を左右にスライドさせる。「いらんいらん」の仕草だ。ちくしょう。




「このパンフレットどうしよ…あっそうだ。胸ポケットにしまっちゃお。」









「……この学び舎に誇りを持って、心身共に成長していくことを誓います。」




私は職員室でバタバタと動く先生方を横目に代表挨拶の練習をしていた。




「おお、よくこんな短い練習期間でそれっぽいの書けたな。流石は首席だよ。」




私の前に仁王立ちをして無い髭を触る仕草をする筋骨隆々の男性は藤先生と言うらしい。体育教師かと思いきや、筋トレが趣味の現国教師だそうだ。私の新しいクラスの担任になると言っていた。さっき「健康的ですね。」と言ったら「俺の筋肉も喜んでるよ。ほらほら」と上腕二頭筋をぴょこぴょこさせていてちょっと引いた。




「まぁ、校長の前でこの原稿読んで渡して来るだけだから失敗は少ないと思うが、ゆっくり落ち着いて読むんだぞ。」




藤先生が腕を組んで言う。目がメラメラと燃えている。ちょっと怖い。




「わかりました。ところでこの後って私どうすればいいんですか?」




「あぁ、教室に帰ってくれて構わない。1年7組だ。職員室に1番近い階段を下ればすぐそこだから、分かると思う。」




「わかりました。では失礼します。」




かららと職員室の扉を閉めた。




「さっくっらぁぁぁあ!おっはようううう!」




廊下で私を見つけた椿が突進してくる。私よりも身長がちょっとだけ高いので受け止め切れずによろけた。




「もうまじで教室気まずすぎるんだけど!同中出身の人とばっかり話してるのみんな!無理無理!話しかけたらどう思われるかが怖くて無理!」




椿があるだけの力で私を抱き絞める。苦しい。




「おはよう椿…。そういえば椿何組だったの?掲示板張り出されてたけど見てないんだよね。」




「え!?まじ?見た方がいいよ。というか私写真撮ったけど、後で一緒に行こ!私自分の番号より先に桜の番号見つけちゃった。私の学籍番号1732で、桜は1733だよ!同じクラス!私今日なら神様に土下座して感謝できる」




「え!?まじ?同クラ?やったね」




「んね。でも教科書の貸し借りが出来ないのがちょっと残念。桜には必須なのにね」




「うるさいよ椿。おだまり」




ふひひと特徴的な笑い声を出す。世界一可愛い。




「行くぞ桜!もうすぐ先生来るらしいから!担任の先生どんな人かなぁ。落ち着いた人がいいなぁ。」




「どんな人がいいの?」




「マッチョじゃなくてひょろ長で文芸部の顧問をしてるような先生かな!物静かな!」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ