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忘れ物屋さん  作者: 野々宮可憐
桜編
2/9

第2話 桜

カクヨム






前のエピソード――第1話 桜

第2話 桜


視界がぼやけて前がよく見えない。光だけが目に飛び込んでくる。あの路地から出られたのかと安堵したけれど、ここがどこだか検討もつかなくてまた不安になった。どこからか息をつく音が聞こえる。




「危なかった危なかった。えーと、あなた、大丈夫ですか?」




低い声が上から聞こえた。腰が抜けて座り込んでいるから、余計に高いところから声が出ているように感じる。その声の出処を見ようとしても、涙が邪魔で見えなくて。だから目を擦った。すると、


「あぁちょっとちょっと、擦っちゃいけません。目が赤くなりますよ。多分あなたこれから入学式なんでしょう?華のJK…?JC…?JS…?小学生ではないですね。まぁともかく可愛い顔が勿体ないので。」




と言ってピンク色のハンカチを差し出してくれた。桜の刺繍がついている。




「怖かったでしょう。あの暗いの。もう大丈夫ですよ。」




背中をさすられる。惚れてまうやろ。視界がクリアになって、背中をさすってくれた人の顔をようやく見ることができた。




抜けた腰がまた抜けるぐらいのイケメンだった。すごい、すごいすごい。椿に見せてもらった雑誌のモデルよりもかっこいい。メガネをかけていても分かるくらい二重幅くっきり。まつ毛に爪楊枝5本くらい乗りそう。鼻筋が美しい。そして若い。20歳くらいだろうか。少なくとも私よりは年上だろう。ふんわりとした触ってみたくなる髪の毛をのせた顔はにこりと微笑んだ。




「よし、目は赤くなってないですね。んじゃ本題にいきますか。」




エプロンを身につけている青年は立ち上がりながら言う。しゃがんでくれていたから分からなかった。私よりも30センチ以上背が高い。私は150cm位だから180cm以上…?本当に日本人…?




青年はカウンターの奥に行く。そういえばここはどこなのか。たぶん何かのお店だとは推測できるけど、なにで商売しているのか検討もつかない。左右にある棚には透明な地球儀や難しそうな本などが置いてある。上を見あげると裸電球が吊るされていた。吊るされていると言っても吊るしているはずの糸が見えない。正面には木製の何も置かれていないカウンターがあって、またその奥には暖簾に隠されたどこかへの入口がある。




「ふふ、不思議そうな顔してますね。さぁ、小さな可愛いお客様。あなたは何をお忘れですか?」




青年が微笑みながら口を開く。


………???なんて言った??えっ、小さいって言われた。気にしてるのに。いや違う待って。お忘れ…?忘れ…?


頭の上にいっぱい?を展開する。




「頭の上にいっぱい?が乗っかってますね。何を忘れたのかを忘れちゃったんですか?困るなぁ。」




青年はまたくすくすと笑った。




「え、あのお忘れって、私が最近で忘れたものですか?」




「そうですそうです。説明が足りませんでしたかね。失礼しました。あなたがやらかした忘れ物を教えてください。それを持ってきますから。」




何を言われているのか全く分からない。そりゃそうだ。鞄を忘れて家に帰ってる途中で道草食って路地に入ったらなんか怖い目にあって助けてくれたイケメンに忘れ物を聞かれている。こんな状況理解できるはずがない。




あっそうだ鞄を忘れたんだった。とりあえずよくわかんないから答えろと言われたことに応えることにしよう。




「私っ、鞄を忘れたんです。第一学園高等学校っていうところの…。鞄の中に代表挨拶の原稿が入っているからとても困ってて、家に帰ろうとしてる途中で、道草食って路地入っちゃって…。」




あれ、別に言わなくてもいいこと喋ってる気がする。青年はまた、くすくす笑って言った。




「落ち着いてください。第一学園の鞄ですね。分かりました。ちょっと待っていてください。」




青年は暖簾をくぐって奥に入ってきたと思ったらすぐ帰ってきた。私の椿から貰ったお守りをつけた鞄を持って。




「これですかね?第一学園の校章ついてますし。いやぁ、かっこいいなぁ。このデザイン。僕もこんなかっこいい鞄背負って高校生活を送ってみたかった。」




私の鞄を高々と掲げる。どうして?家の玄関に忘れたはずなのに。なぜここにある?




青年はカウンターから出て私に鞄を手渡した。




「まぁ、なんでここに鞄があるかとかの話はすると長くなるので、魔法だとでも思ってください。ほら、代表挨拶をする予定の生徒が遅刻なんて大変だ。」




代表挨拶!そうだった。私急いでいるんだった。




「あの!鞄本当にありがとうございました!本当に本当に助かりました!またお礼に来ます!失礼します!」




借りたハンカチを青年の手に置きながら一呼吸でお礼を言ってドアノブを捻った。




「あっ、お客様まっ」




青年が何か言おうとしていた気がするが、本当に申し訳ないことに時間が無い。今日の午後に入学式が終わった後にまた来るとして、今はとりあえず学校に戻ろう。


後ろでカランと扉が閉まる音がした。明るい方にひたすら走る。暗闇に背を向けておけば引っ張られることも無いらしい。背中を押されているみたいに体が軽い。不思議も、恐怖もいったんこの路地に置いていこう。路地を抜けると、そこはもとの桜並木の下であった。





「お代、貰うの忘れちゃったなぁ...。」


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