仲良しトリオ
「どこだよここ…。」
講堂を目指していたはずにに気づけば広い廊下に立っていた。この学園の敷地はとても広いため音声案内付きの専用マップアプリをインストールすることを義務付けられている。その音声案内に従って歩いてきたはずが全然関係の無いところに来たのである。
「ディオ大丈夫って言った。」
「うっ。アプリがあるから大丈夫だと思ったんだよ。」
「でも迷った…もうすく入学式なんでしょ?」
「あー」
間違っても入学初日遅れてくる奴だと思われたくない。これから5年間そんなレッテルを貼られて過ごせるほど鋼のメンタルを持ち合わせていない。
とはいえ現状は変わらず,あたりに人がいないか見渡すも気配すらない。
はぁとため息をつく。やはり遅れて行くしかないのか。そもそも入学式が終わるまでに講堂に行けるかも分からない。
うんうん唸っていると声をかけられる。
「ディオ…?…それにテラか?」
名前を呼ばれる。
この声は間違えるはずがない。
「兄さん!」「セイ!」
テラと一緒に兄さん-セイ・アーテルに駆け寄る。
「ディオどうしてここに?もうすぐ入学式だぞ?」
「迷った。」
「ちょっテラ。」
ディオが考えあぐねているうちにテラに即答されてしまった…。
いさぎよく認めよう。迷った。
「そうなのか?」
「あーうん。」
「そう落ち込むな。俺も生徒会長として用事があるから一緒に行こう。」
兄さんはこの学園の生徒会長している優等生だ。ちょっと(かなり)天然だかとても尊敬できる兄なのだ。
「そうと決まればさっそく…「あっ!弟くーん!」」
兄さんの声に被さるように語尾にハートマークがつきそうな声が後ろから聞こえてくる。
この声にも聞き覚えがある。
別に意味で忘れようがないのだ。
思わず身構えると声の主はするりと肩に手を回してきた。
「大きくなったねー弟くん。」
「…弟くんと言うのはやめて下さいよ。ロア先輩。あと近いです。」
ロアと呼ばれた男はふふと笑って首を傾けた。
耳につけた十字架のピアスがしゃらっと音を立てる。サラサラとしたぎんの髪の1部は耳にかけられていて…なんというかこう…色っぽさがある。その上顔も整っているとくればそりゃあもうモテる。
泣かされた女性の涙で海ができるとかできないとか…
「久しぶりだねー。元気してた?」
あぁ。こっちの意を介さずにグイグイくる感じ…以前会った時から変わっていないなと思う。
「ロア。やめたげて。弟くんが迷惑してるでしょ。」
凛とした声がまたもや後ろから聞こえる。
「良いじゃん別にー。迷惑なんてしてないよね?ね?」
現在進行形で迷惑してます。離して…
「ほらそんなこと言ってないでどいたげて。」
「うーリゼひどーい。可愛いから許して?」
「鏡を見てからもう一度言ってみなさい。」
リゼと呼ばれた女性は茶髪の髪を肩ぐらいで切り揃え,編み込みにしている。陽の光を浴びてキラキラと瞬いている。可愛いらしい感じの女性だ。それなりモテる人なんじゃないだろうか。
「ねぇセイ,俺って可愛いよね?」
「?ロアは可愛いよりかっこいい方だと思うが?」
「「「…………」」」
無自覚爆弾攻撃(精神的な)が投下される。
「セイってさー。無自覚なのがタチ悪いんだよねー。」
これにはテラとリゼと同意しておく。
「リゼ先輩もお久しぶりです。」
「久しぶりだね。2人とも元気そうでなによりだよ。」
「リゼー。」
テラがリゼに抱きつく。
ふたりとは兄さんを通して何度か会ったことがあり,その時から可愛がられて(からかわれているとも言う)いたのだ。
特にテラはリゼによく懐いていた。
「ところで弟くん達はなんでここに?」
「確かにー。入学式のある講堂は真反対じゃん?」
「えっーと「迷ったらしい」」
ちょっ!兄さん待ってくれロア先輩の前では…!
「へぇ〜そうなんだ〜。」
ロアにはキラキラした目で見つめられる。
絶対におもしろがっている…!
この人は人をからかうのが好きなのだ。
「迷ったんならお兄さんが案内してあげよっか?」
「嫌いいです。」
もし頼もうものなら講堂につくまで最悪次に会った時までからかわれ続ける。それはごめんこうむりたい。
「貴方はそんなことしてる暇ないわよ。あなたに用があるって女の子?が正門前に来てるわよ?」
見てわかるくらいリゼのこめかみには青筋が浮かんでいる。あんまり怖くないなと思う。言わないけど。
さすがの兄さんも呆れて困り顔だ。
まぁこの先輩にやめろ言ったところで「自制」の2文字が存在しないので無駄になるのだが。
「ほら行くわよ。」
そう言うとリゼはロアを引きずって行った。
ロアはリゼにあーだこーだ言っているが無視されている。
「ロアのことはリゼに任せて。行くか。」
「ん。行こ。」
歩き始めようとすると,また後ろからロアの大きな声がかかる。
「言い忘れたんだけどー,入学式おめでと〜。」
「あっ忘れてた。2人ともおめでとう!」
後ろを見ると廊下の角に消えていくところだった。
何となく。何となく兄さんがあの二人と一緒にいる理由が少し分かった気がする。
「ふふ。気を取り直して行こう。ディオ,テラ入学おめでとう。」
柔らかな笑みとともにお祝いの言葉を言われる。
「あぁ。ありがとう兄さん。」
「ありがとセイ。」
今度こそ講堂へ歩いていった。
俺はロア先輩を許さない。
あの時話しかけられなければ間に合ったかも知らないのに…!
結局3人は仲良く入学式に遅刻したのだった。