天使の見える少年
―――ガタンッ。
車の揺れに思わず読んでいた本から顔を上げた。
「ディオ,大丈夫?」
床につきそうなほど長い白髪に,薄い水色の瞳をもった幼女が顔を覗き込んできた。
「あぁ。大丈夫だ。テラは?」
「ん。私もなんともない。」
そう言ってテラは手元のスナック菓子を口に含んだ。
普通に見れば可愛い幼女だが彼女には普通の人と違うところがある。
純白に輝く羽と頭の上に淡く光る輪があるのだ。
彼女は俺の天使なのだ。
天使。
この世界には誰しも天使が1人ついている。
しかし,ある時まで天使は人には見えなかった。
今から数百年前――。
俺がいる国,小国アフデルに1人の男児が産まれた。
その男児は天使を見て,会話をすることができた。
彼は人と天使の架け橋となろうと,天使の力を使い様々な道具を使った。
その道具は彼の死後である今もアフデルの繁栄を支え続けている。
その男児はアーテル家出身で俺の遠い先祖にあたる。
その影響なのかアーテル家の男児は代々,天使を視認し,会話することができる。
今,この国で道具なしに天使と交流できるのは俺と兄と父親の3人だけなのだ。
「ねぇ。ディオ。これから行く学校って美味しいの?」
「いや。どう考えたって学校は食えねぇよ。」
思わずつっこむ。
「そっか。残念。」
こいつ食えないと分かった途端,興味無くしやがったな。
テラはよく食べる。俺よりも食べる。
天使に食事は必要ないのに。
「その体のどこにそんな量入るんだよ···」
車の床に散らばった様々なスナック菓子の空袋を見てつぶやく。
「お菓子は別腹だよ?」
「朝食ん時,飯も味噌汁も3杯おかわりしたじゃねぇか。」
「美味しから仕方がない」
と言いつつまた新しい袋を開けて,美味しそうに中身をほうばっている。
まぁ,いいか。
もうこいつの食について考えるのはやめた。
テラに少し菓子を分けてもらったり,本の続きを読んでいるうちにブレーキ音がした。
どうやら学校に着いたらしい。
「坊っちゃま。着きましたよ。」
「あぁ。分かった。ありがとう。行くぞテラ。」
「ん。待って。もう少し食べてから…」
テラの手から菓子の袋を取り上げた。
「んーん。」
「今日は俺の入学祝いで夕飯はご馳走らしいぞ。」
そう言うと普段感情が顔に出にくいテラが分かりやすく目を輝かせた。
「ディオ。行こう。早く学校終わらせて帰ろう。」
「そうだな。」
車を降りて2人で学校の敷居を跨ぐのであった。