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育成好きのスケルトンさん  作者: bukocharu
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ようこそ

「ああ、こんな終わりなんて……」


底の見えない奈落に吸い込まれるかのように私は落下していた。


手を伸ばす先に視えるダンジョンの明かりがどんどん小さくなっていく。


背中から迫りくる濃厚な死の気配を感じながら、私は静かに目を閉じた。

 

間もなく私は硬い地面に叩きつけられ、確実なる死を迎えるであろう。


まさかダンジョンの壁が崩れるなんて。


どういう仕組みなのかさっぱりだが、ダンジョンの壁はどれだけ攻撃を加えても傷一つ付けることができない。


ドラゴンの突進ですらびくともしないダンジョンの壁。


それがまさか私が壁に叩きつけられた程度の衝撃で崩れるなんて。


それでこのざま。


まったくツイてない。


いや、むしろツイているのかも。


予期せぬオークの群れとの襲撃で仲間は壊滅。


一人残された私にあの状況を打開できる術があっただろうか?


オークのこん棒のフルスイングをガードした左腕に目をやると、見るも無残にひしゃげ、皮を突き破って至る所から骨が飛び出ている。


アドレナリンのせいで感覚が麻痺しているのか、そこまで痛みを感じないのがありがたい。


あのとき壁が崩れなかったら今ごろ私はオークのこん棒の餌食になってダンジョンの染みになっていたことだろう。


それと比べたら落下死のほうが少しはましかもしれない。


でも、あそこで死んだ仲間たちと違って、誰も私の痕跡は見つけてくれないだろうな。


誰にも気付かれることのないダンジョンの深く暗い地下底で、哀れに横たわる私の死体。


想像するとなんだか寂しくなってきて、思わず涙が込み上げてきた。


冒険者として名声を得るために、心配する両親を尻目に村を飛び出した私。


自分の選択に後悔はないし、冒険者稼業には常に死の危険があることも覚悟の上だ。


でも、こんな結末はやっぱり辛い。


ああ、お母さんお父さん。


親不孝ものでごめんなさい。


私は私の人生を精一杯生きました。


どことなく長かったように感じる落下も間もなく終わることが背中越しの気配でわかる。


痛いのはヤダな、即死がいいな。


既に生存を諦めながらも、激突の衝撃に備えて私はぐっと閉じる瞼に力を込めた。



……むにゅうう、ぽよん。


しかし、衝撃の代わりに私を襲ったのはなにか巨大で柔らかいものの感触だった。


私はその柔らかな感触に深く沈み込み、そして優しく弾き出される。


弾き出された私はその柔らかいなにかの上で数回弾み、そして静寂が訪れた。


私はなにがなんだかわからず、しばらく仰向けで大の字になり寝転んでいた。


無事な右腕を胸元に手を当て、自身の心臓の鼓動を感じていると段々と頭が鮮明になってきた。


「……生きてる」


私の頬をポロリと涙が伝う。


未だダンジョンからの生還は絶望的である状況であることを忘れ、私はひとまず命がまだつながっていることに涙した。


数分ほどそのまま泣いてから、私はようやく身体を起こして周囲を眺めた。


そして気付く。


真っ暗であるはずの地下が視界を確保できるほどにほんのりと明るいことに。


太陽が差し込むことのないこの場所の光源となっているのは大量のヒカリゴケ。


ヒカリゴケとは暗く湿った洞窟に自生する淡い光を放つ植物で、ダンジョンに潜る冒険者にとってみれば非常にありがたい存在だ。


そしてヒカリゴケがあるということは近くに水源があるということ。


ひとまずは水が確保できそうであることを判断する。


「そして、これはなにかしら……」


私は自身が座っている柔らかいものに触れる。


「スライム?

 ……んっ!」


その存在に気付いた私は思わず口を抑えた。


墜落死からの生存も安堵もつかの間、自身の置かれている現状に一気に血の気が引き、背筋が凍る。


この色、この大きさ……これはおそらくエンペラースライム。


文献上でしか見たことのない、かつて一国を滅ぼしたといわれる伝説の魔物の上にあろうことか私は呑気に座り込んでいたのだ。


実際に見たことがないためこの個体がかの伝説の魔物である確証はないが、その柔らかくどこか可愛らしい見た目に反して感じられる圧倒的生物としての格の違い。


私が矮小な存在であるが故か、幸いまだこちらに気付かれていないように思えるが、果たしてここからどうすればいいのか?


まともに動けなくなった私にさらに災難が降りかかる。


背筋が凍るような不気味な視線が向けられているのに私は気付く。


視線の主は音もなく静かにそこに佇んでいた。


私の瞳に映るのは一体の魔物。


スケルトンだった。


群れになるといささか厄介ではあるが、単体では成り立ての冒険者でも苦労なく撃破できる最弱の部類の魔物。


しかし、このスケルトンは例外であることに私の長年の冒険者の勘が嫌でも気付いた。


これまで遭遇したどんな魔物とも比較にならない力の気配をその貧相な姿から感じてしまうのは私の気のせいではないはず。


そんなスケルトンと視線がぶつかる。


ぽっかり空いた穴だけの仄暗い目が私をじっと見ている。


「ウェルカム」


あろうことかスケルトンはそう不気味に私に語り掛けた。


表情が読み取れないはずのスケルトンがにちゃりと笑みを浮かべたような気がした。


ああ、神様……

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