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えんぴつを鍵穴にブッ刺す男

 明け方のことだ。夜勤を終えて築30年のボロいアパートに帰ってくるとお隣に住む三浦さんがドアの前で何やらガサゴソと音を立てていた。


「こんばんは」

「どうも」


 俺が声をかけると作業を中断して恥ずかしげに挨拶を返す。もしかしたら俺が自分の部屋に入るまで待っているのだろうか?そう思わせるくらい音を立てずにニコリとこちらを見てくる三浦さんを不気味に思いながらドアを開けて中に入る寸前。チラリと三浦さんのドアの方に視線を向けると消しゴムが後ろについたえんぴつが鍵穴にブッ刺さっていた。

 えー!?っと思ったものの何か見てはいけないものを見たような気がして、そのままスルーして部屋に入った。ガチャリとドアを閉めると、また物音がしだす。

 それから二、三分経っただろうか。急に音が鳴り止むと遠ざかる足音と共に辺りが静かになった。

 あのえんぴつはどうなったんだろうか。そもそも何であんなものが鍵穴に刺さっていたのだろうか。

 鍵を忘れて代わりになりそうなもので開けようとしたのか、でも時間帯的に今帰ってきた感じもしないしな。それか、イタズラか?じゃあ誰が何のために?

 色々な考えが巡る間にあのえんぴつの事が気になってきた俺は周囲の様子を確認してからそろりとドアを開けて顔を外に出した。


「やっぱりまだ刺さってる」


 えんぴつはまだ刺さったままでしかもドアに対して垂直に綺麗に刺さっている。抜けないかなと思って近づこうかとも思ったが、その時階段を駆け上がる音と共に三浦さんの姿が見えた。手には近くのコンビニの袋があり何かを買ってきたようだ。

 どうするのかと思いギリギリ視認出来る位置の物陰に身を潜めると一部始終を見守ることにした。

 袋から肉まんを取り出して食べる三浦さん。その間に音を立てて時折ドアノブを回しながらえんぴつを引っ張り出そうとしている。

 がんばれ、と思って見ていたら袋から細長い何かを取り出した。そのままそれを鍵穴に刺してえんぴつを取りだそうとしている。

 二、三本刺した所でいよいよびくともしなくなったそれに三浦さんは盛大に項垂れるとチラリと腕時計を見て名残惜しそうにその場を去っていった。彼がいなくなったのを確認してドアに近づく。


「いや、またえんぴつかい!!」


 そこには細さの変わったえんぴつが追加で鍵穴の空いたスペースを埋めるようにブッ刺さっていた。

 記念に写真を撮っておいた。



 終

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