表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/34

第六話 苦手な事

 いろいろと考えた結果、陽向さんと関わり合いになるのはやめようという結論に至った。


 普通に考えれば学校で一番の美少女と関わり合いになる事ができるというのは魅力的なのだろうが、それ以上に厄介事を抱え込むような気がする。


 社会科学習の兼ね合いで顔を合わせる事も多いが、4月中には活動を終了するし、その後は特に関わり合いを持つ事もないだろう。なんといっても学校で一番の美少女とモブキャラの自分。普通に考えるとこの二人が接点を持つ事はないのだ。


 俺達が取材をした翌週の日曜日には他の2グループの取材も終わったようで、今日、火曜日の放課後にグループのメンバーが集まり、レポート作成について話し合う事になっている。


 放課後になり、いつもの3人組で集合場所に向かう。


「なんでカラオケボックス集合なんだ?」


「人数が多いからって梨愛ちゃんが提案したらしいぞ」


 真吾と貴之が話をしているように、今日は真面目な話をするというのにも関わらずカラオケボックスに集合するらしい。確かにグループメンバー11人全員が揃うとなると、ファミレスやカフェでは全員が一つのテーブルにつけない可能性がある。


 陽向さんが考えたのかと思っていたのだが貴之が言うにはどうやら梨愛の提案らしい。


 全員が集合し、部屋に入るなり梨愛が「とりあえず一曲だけ歌ってもいい?」と言っていたが、陽向さんに冷たく却下されていた。


 ドリンクバーになっているので各々が飲み物を取ってきた後、陽向さんから取材内容をまとめたレジュメが配られ、説明が始まるが、ほとんど陽向さんが完成させていて特に突っ込むべき所もない。陽向さん優秀すぎない?


 結局陽向さんがまとめていたものを発表したが、他のメンバーからも意見等は出ず、話し合いは30分程度で終わってしまった。陽向さんにおんぶにだっこのような形になってしまい申し訳ない。


 その後は梨愛がせっかくだからカラオケしたい! と言い出し、当然の流れのようにカラオケをする事になった。梨愛が場所をここに指定したのはカラオケをしたかっただけのような気がする……。


 知らない人がほとんどのこの状況で歌う度胸はないので聞き役に徹することにした。


 女の子達は歌い慣れているのか、上手な子が多い。


 一番最初に梨愛が歌っていたのだが、流石に自分からカラオケをしようと言いだしただけはあって、流行のバラードをかなりのクオリティで歌い上げていた。いつものイメージとは違い、儚げなメロディの曲を歌う梨愛は声や表情に妙な色気があった。


 何人かが歌った後、真吾が空気を読めない発言をする。


「まだ歌ってない人ー?? 順番に歌っていこうぜ」


「ゆーくん歌ってないよね、歌って歌ってー」


 梨愛がデンモクを持って隣にやってくる。周りを見るとまだ歌っていなかった人達はデンモクを受け取ると順番に曲を入れていた。


 この流れで俺は歌わなくてもいいよとはなかなか言い出せない。俺からすると完全にカラオケハラスメント、カラハラだ。


 デンモクとにらめっこしていると左手を誰かにチョンチョンと突かれた。見ると陽向さんが隣にいて手招きをしている。


 陽向さんは俺が気付いたのを確認すると手招きをしながら部屋を出て行ったので俺も追いかける事にした。


「あの……、私……」


 目の前の俯き加減で少し恥ずかしそうにしている陽向さんに違和感を覚える。まさか……?


「……私、本屋で会った聖月(みづき)です」


 誰なのかはわからなかったけど、やはり人格が交代していたようだ。


「聖月さんだったのか……。どうしたの?」


「私、あまり曲とか知らなくて……。カラオケとかもしたことないからどうしようって……」


 なるほど……、俺しか相談できる人がいなかったから俺を呼び出したという訳だ。俺も歌わないといけなくなっているあの雰囲気に困っていたから聖月さんの気持ちはよくわかる。


「俺も歌うのが苦手でどうしようか悩んでた所だ」


「どうにかなりませんか?」


 よくも悪くも陽向さんは目立つ存在だ。恐らくみんなは陽向さんがどんな歌を歌うのか期待しているだろう。


「うーん……。逃げるしかないんじゃない? とりあえず一度部屋に戻ってみんなが盛り上がっている間に荷物を取ってそのまま帰るといい。あとは俺が陽向さんは用事があるから帰ったって伝えておく」


「え? でもそれだと悠雅君だけが残って歌わないといけなくなるんじゃ?」


「流石に二人が帰る訳にもいかないし、俺は下手なりに何度か歌った事もあるし、笑われるのも平気だから気にしなくていいよ」


 聖月さんはしばらく腕を組み、考えていたが家に帰る用事が出来たからと言って帰ることにしたようだ。


「悠雅君、私だけごめんね。この借りは必ず返すから」


 両手を合わせて頭を下げる聖月さん。


「あぁ、じゃあ貸し借りはいいからまた本の続き貸してほしいな。直接言うの初めてだけど、結構面白かったから続きが気になってるんだ」


 この間借りた2冊はすでに陽向さんに返却済みだ。そのときに続きを貸して欲しいとは伝えているのだが、まだ持ってきてもらっていない。モブの台詞はきっと忘れられているのだろう。


「そうですか、あの本気に入っていただけましたか! よかったぁ……。わかりました! 必ず続きを持ってきます!」


 聖月さんは盛り上がっている隙に無事に荷物を取ってこれたようで、私だけごめんなさいって何度も言いながら帰っていった。


 部屋に帰った後、曲の合間に陽向さんは用事があって帰ったと皆に伝えるとかなり残念そうだった。特に真吾と貴之は「まじかー!」と次の曲が始まるまでずっと叫んでいた。陽向さんの歌が聴けなかったのがかなり残念だったようだ。


 さて、問題はまだ残っている。俺が何を歌うかだ。ちなみに真吾は人気バンドの曲を歌い、貴之はウケ狙いで古いアニメソングを歌っていた。全然ウケてなかったけど。


「なぁなぁ、何を歌ったらいいと思う?」


 隣に座っている梨愛に耳打ちをする。梨愛とは中学のときに何度か一緒にカラオケに行った事がある。何曲か披露しているのでマシだった歌を教えて欲しい。


 梨愛は少し考えた後俺からデンモクを奪いとると、慣れた手つきで曲を選び、送信していた。ドラマの主題歌としてヒットした曲だ。


 そういえば歌いやすい曲で、中学の時に何度か歌ってたなぁと思いだしたが、梨愛が覚えていた事にびっくりした。


 そしてとうとう10曲目。俺が歌い出すとさっきまでの盛り上がりがなくなり、みんながシーンとした。最初は苦笑しながらもみんなが聴いてくれていたのだが、途中からデンモクに集中したりスマホをいじり出したり。真吾と貴之は笑いながらもなんとか盛り上げようとしてくれていた。持つべきものは親友だね。


 歌う事自体が久々で、知らない人達が多い中歌を歌うのは緊張したが、なんとか歌い切る事ができた。

 

 歌の最初から最後まで隣にいた梨愛が自分の身体を揺らしながら俺の膝を叩き、リズムをとってくれたので、割とマシに歌えたし緊張がほぐれたような気がする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ