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第四話 取材

 グループ分けジャンケンにおいてチョキを出した俺は女子側で同じくチョキを出した梨愛と陽向さんの3人グループになった。


 残りは男子1人、女子3人のグループが2つだ。真吾のグループは交渉に自信がないと言う事で陽向さんがアポを取っていた店に取材に行ってもらい、俺のグループと貴之のグループは新しい店を探す事になる。


 陽向さんの提案で次の日曜日に学校の近くにあるレンタルビデオ屋に3人で取材に行く事になった。陽向さんがアポを取っていたお店とは違うフランチャイズの店舗だ。


「陽向さん、これありがとう。陽向さんが言ってたようにミレーネのキャラがすごくよかったよ」


 放課後の打ち合わせが終わり、別れ際、借りていた本の事を思い出し、陽向さんに返却する。


「ん?」


 陽向さんは本を見て少し首を傾げた後、「あぁ……」と言いながら本を手に取ると鞄に入れた。


「それで昨日も言ったんだけど、続きを貸してもらえたりしないかな?」


 陽向さんは鞄の中を確認している。そういえばいつも何冊か持ち歩いているって言ってたな。


「今日は持ってきてないみたいね。違う本の2巻ならあるみたいだけど」


 陽向さんが取り出した本は知らないラノベだった。陽向さんオススメのラノベは面白かったので興味をそそられるが2巻では意味がない。


「その本も気にはなるけど、借りてた本の続きのほうが気になるかな」


「いいわ、覚えてたら持って来てあげる。……夏目君もそういう本好きなの?」


「割と好きかなぁ」


「そう……。じゃあ私は帰るから。日曜日の待ち合わせ、遅れないでね」


 またぴょん太の事聞こうとしてて忘れてた。



 日曜日、待ち合わせは学校最寄りのいつもの駅だ。


 待ち合わせの時間の15分前に到着するとすでに陽向さんはすでに到着していた。白いニットに薄いグリーンのフレアスカート。春らしい色合いで膝下丈のスカートは清楚でフェミニンな雰囲気を醸し出している。


「ごめん、待たせたかな?」


「あ、悠雅君おはよー。近くでお茶してて今さっき来た所だから大丈夫。そういえば榎本さん来れなくなったって聞いた?」


 今を出る前に梨愛から妹が熱を出してしまい、家の人がいないので看病をしないといけないので今日は行けないと連絡があった。


「みたいだね。朝電話があった」


 それにしても大人の女性っていう感じの服装も影響しているのか、陽向さんはいつもと感じが違う。思えば学校の外で会うときは学校とは雰囲気が全く違う気がする。


 今日の陽向さんは服装も相まってなんだかほわほわとしているし話し方も心地よい。


「せっかく榎本さんと仲良くなれると思ってたのに残念……。でも同じグループだしこれからも一緒にレポート作成したりもするから仲良くなれるよね」


 梨愛と仲良くなる未来を想像しているのか、すごく楽しそうな顔の陽向さん。普段学校ではあまり見せないような笑顔に少しの間見惚れてしまった。


「じゃあ行こっか」


 陽向さんに話しかけられ我に返るとすでに陽向さんはお店に向かって歩きだしていた。目的のレンタルビデオショップは駅から少し離れていて徒歩20分程度の所にある。陽向さんは予め電話をしてアポを取っているようだ。


 スキップでもしそうなくらい軽やかな足取りの陽向さん。ご機嫌な様子が伝わってくる。


 しばらく陽向さんの後について歩いているが、会話が全くなく非常に気まずい……。真吾達や梨愛のように気心の知れた相手なら普通に話せるのだが、こういう時に自分のコミュ力のなさが恨めしい。今日はコミュ力オバケの梨愛も一緒だと思っていたから油断していた。


「あ、そうだ。ぴょん太は元気にしてる?」


 話題は何かないかと必死に考え、前々から気になっていた事を思い出した。


「ぴょん太? あぁ、悠雅君と一緒にいるときに買ったあのうさぎさんね。元気だよー。お家に来たときは少し食欲がなかったんだけど、最近はしっかりご飯も食べてるみたい」


 どうやらぴょん太は元気にしているようだ。


 そして再び訪れる沈黙……。


 あと陽向さんと共通の話題と言えば……。あのラノベの話題くらいか?


「あ、そうそう。申し訳ないんだけど今日の取材、話をするのは悠雅君にお願いしてもいいかな? 取材の内容についてはこのノートにまとめてあるから」


「え? 俺が? でもそういうのは陽向さんのほうが得意なんじゃない? アポとかの交渉もしてもらってるし」


 前を歩いていた陽向さんは歩くスピードを落として隣に並ぶ。


 陽向さんが近づくと爽やかだがどこか甘いような匂いがした。梨愛もそうだけど女の子っていい匂いがするのは何故だろう。


「わたしはそういうのあまり得意じゃないのよ……。だから悠雅君にまかせる! でも一応サポートくらいはできると思うし、どうしようもなくなったら交代するから」


 陽向さんとロクに会話もできない俺が上手く話をできるかどうかは分からないけど最悪交代してもらえるならなんとかなるか。


「でもこうして話をするのは初めてだねぇ。一度キミと話をしてみたかったんだー」


 ペットショップや本屋で話をした事はあると思うんだけど……、もしかして存在感ゼロのモブだからなかった事にされてる??


 その後は特に会話もなく、約束の10分前くらいに店についた。


「桜木高校2年の陽向と申します。10時半に店長さんとお約束をしているのですが……」


 レジにいる店員さんに陽向さんが用件を伝えるとバックヤードの事務所に案内された。


 しばらく待っていると店長らしき人がやって来た。店長は思っていたよりも若く、30歳位の男性だった。


「本日はお忙しい中時間を作っていただきありがとうございます。それで早速ですがいくつか質問よろしいでしょうか?」


「ん? なんだっけ? あぁ、質問ね、どうぞ」


 俺がメインで話をするという話をしていたので挨拶をした後に話を進めようとしたが店長はこちらの話をあまり聞いていない。


 よく見ると店長の視線は陽向さんに向いてしまっていた。これだけの美少女を前にしてしまうとそちらに意識を取られてしまうのは仕方がないのかもしれない。これは学校の男子達を見ていても明らかだ。


 俺は陽向さんに預かったノートを見ながら質問をしていく。質問内容は昨今のサブスク型動画配信サービスについての質問が多い。あくまでフランチャイズ店の店長なので会社やお店としての方針や考えを聞くというのではなく、店長個人の意見を聞くというのがこの取材の目的である。


 だが店長の意識は完全に陽向さんに向いてしまっているようで相変わらず俺の話をまともに聞いていない。これは陽向さんが質問をしたほうがいい回答を引き出せるんじゃないだろうか? いざとなったら交代してくれるって言ってたしお願いしてみようかな?


 そんな事を考えながら隣を見ると心配そうにこちらを見る陽向さんと目が合った。同じ事を考えていたのかもしれない。


 陽向さんは「交代するしかないかぁ……」とつぶやいた後「すみません、少しお手洗いお借りします」と言って離席した。

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