第三話 グループ分け
陽向さんに借りた悪役令嬢のラノベは思っていたよりも面白かった。
主人公のミレーネとメイドの二人のやりとりがとてもコミカルに描かれていて、ミレーネを巡る恋愛模様等もあり、続きが気になる内容ですぐに1巻を読み切ってしまった。いい所で終わってしまったので2巻がとても気になる。
「借りた本面白かったよ。ありがとう。もしよかったら2巻以降も借りれたりしないかな?」
本を貸してくれたお礼と共に続きを借りたいと陽向さんにメッセージを送ってみた。今日の陽向さんは読んで欲しいオーラが出ていたから続きも借してくれそうな気がする。好きな作品を布教したくなるのはオタクあるあるだ。
寝る前にメッセージアプリを確認したが既読はついていたものの陽向さんからの返信はなかった。
ロングホームルームが始まり、グループ分けの相談をする事になった。予定通り真吾と貴之とグループを作り、追加で入ってくれるメンバーを探す。
チラチラとこちらの様子を伺っている梨愛はいつも一緒にいる仲のよい女子3人と一緒に4人組のグループを作っているようだ。
各々が自由にグループを作っていくというこのグループの作り方は、グループに入れてもらえなかった人がいる場合にその人が惨めな思いをするんじゃないかと危惧していたが、開始から10分程で全員がどこかのグループに入れたようで一安心だ。
5人以上のグループも2つ出来ているようで後は俺達のグループみたいに5人未満のグループ同士を合わせて作る作業を行わなければならない。
グループ同士で取材予定先の情報交換等を行い、合意したらグループを一つにまとめるという流れが基本である。学校としてはこういう意見の擦り合わせや話し合いを行う事が社会に出てから必要なスキルとして役に立つという考えなのかもしれない。
俺達のグループは午前中の間に話し合いを行い、俺の提案した本屋への取材を行うという事で意見をまとめている。他のグループの代表者と話し合いを行ってはいるがなかなか意見がまとまらない。
そうこうしているうちに新しいグループが完成したようだ。残りの小さいグループは7つ。
他グループの代表として梨愛と陽向さんがほぼ同時に俺達のグループにやってくる。
「ゆーくんの所はどこに取材に行く予定なの?」
「俺達は本屋に行ってみたいと思ってる。梨愛の所はケーキ屋?」
「夏目君の所は本屋の予定なのね。私の所は今のところ4人グループでレンタルビデオ店を予定しているわ。本屋とレンタルビデオ店だと近いものがあるわね」
梨愛との会話に陽向さんが割り込むように入ってきた。
確かに本屋に行くにあたって電子書籍の影響等の調査が出来たらとは思っていた。レンタルビデオ店もサブスク形式の動画配信サービスの影響があるという点でも似てるし、大手のレンタルビデオ店では本の販売も行っている。
「たしかに共通点は多いな。本を取り扱ってる店もあるし……」
「そうだな、別にレンタルビデオ店でもいいんじゃないか?」
真吾はもっともな事を言ってるがこいつは陽向さんと同じグループになりたいだけのような気がする。なんか鼻の下伸ばしてるし……。
「ちょ、ちょっと待ってよ……! 相談してくるからちょっと待ってて!」
そう言い残した梨愛はグループを組んでいる女子の所に戻り、何かを話し合っているようだ。
「おまたせ」
しばらくして梨愛が戻ってくる。
「梨愛、悪いけど俺と陽向さんのグループはレンタルビデオ店に取材に行く事で合意し、グループを作る事になった」
梨愛がグループメンバーと相談してる間に俺達のグループは陽向さんとグループを統合する事で合意した。
「そう……。もしよかったらそのグループに私達も入れてもらえない? さっきグループのみんなを説得してきたの」
統合したグループのリーダーは陽向さんだという雰囲気なので陽向さんの方を向いて確認を仰ぐ。
「レンタルビデオ店への取材でいいなら私は別に構わないわ」
「陽向さんありがとう」
梨愛は陽向さんの手を取り、両手で握っている。陽向さんは少し困ったような表情をしているが梨愛はお構いなしだ。
こうして総勢11人からなるクラス内最大グループが爆誕した。
残り4つのグループも2グループずつで組んだようで無事に全てのグループができたようだ。
スムーズにグループ分けができたので残りの時間を使ってグループ毎に話し合いをする事になった。
「じゃあ説明を始めるわね」
グループのリーダー的な存在である陽向さんが話を進めていくようだ。
「ちょっといいかな?」
「何?」
恐る恐る手を上げてそれを遮ると陽向さんがこちらに視線を向ける。
「その前に自己紹介をしたほうがいいと思うんだけど……」
陽向さんに名前どころか存在を知られていなかったという前科があるし、こちらも今年から同じクラスになった女子の名前と顔が一致してないので自己紹介をお願いした。
「それもそうね。じゃあ自己紹介をしてから進めましょう」
11人が順番に簡単な自己紹介を行った後本題に入る。当初の予定通りレンタルビデオ店への取材を行う事になった。陽向さんはすでに学校近くのお店にアポを取っているとの事だった。
「優秀賞を取りにいくわよ」
社会科学習は1年生から3年生まで全ての生徒が参加するイベントだが、学年毎にレポート内容が最も優れていたグループが優秀賞として表彰される。陽向さんはその優秀賞を狙っているらしい。
「まじ? 優秀賞!?」
梨愛のグループのメンバーも全員驚いているが陽向さんのグループメンバーは平然としている。グループを作るときに優秀賞狙いという事を聞いているのだろう。
ちなみに俺のグループの真吾と貴之はずっとアホ面で陽向さんを眺めている。時折「眼福眼福」とか「てぇてぇ」と言う声が聞こえてくる。
こいつらがこうなっているという事はもしかして……と思い周囲を見渡すと男子生徒からの視線が痛かった。
女子が8人に男子3人という女子過多で、陽向さんと梨愛という美少女2人と同じグループ。妬みや嫉妬の視線が突き刺さるのはある程度仕方がない。
でもそれならどうして先に陽向さんや梨愛のグループに統合を持ちかけなかったのかと疑問に思う。
その後の話し合いの結果、グループの人数が増えたので1店舗ではなく複数店舗へ取材を行い、比較検証を行いながらレポートにまとめるという話になった。ほとんど陽向さんからの提案で話し合いが進み、特に反対意見もなく纏まった。
グループを3つに分け、追加で2店舗の取材を行うことになった。元々の小グループ毎で3つに分かれたらいいと思っていたのだが、梨愛、真吾、貴之からせっかく同じグループになったのだからシャッフルしたほうがいいと言う意見が上がり、新しく3つのグループを作ることに。
グループ分けはシャッフルしたいと言った3人主導で行われた。作るグループは3つで男子は3人なので1グループに一人ずつ。残りのメンバーをどうするか。ドラフト制度、くじ引き、ジャンケン等の意見が出たが最終的にジャンケンで決める事になった。男子グループ、女子グループ共にグーチョキパーで別れるというものだ。
ホームルームとは言いつつも授業中の教室で突如行われるジャンケン大会。一度で綺麗に分かれる事はもちろんなく、あいこになる度に大きくなる掛け声。梨愛の声と真吾の声がでかい。男子のグループ分けが終わり、女子側は熱戦につぐ熱戦の末ホームルームが終わる直前に決まった。
「じゃあ私と榎本さん、夏目君の3人でグループね」
戦いが終わり、シーンとした教室内に陽向さんの声が響きわたった瞬間、男子生徒全員の殺気の篭った刺すような視線が俺に集まり、背中に冷や汗が流れるのが分かった。