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第三十一話 華月の登校(二日目)

「うん。好きな人いるよ。流石に私の口からは言えないけどね」


 目の前にいる華月ちゃんが頬を朱に染めながらこちらにキラキラとした眼差しを向けているのを見ると流石に好きな相手というのが誰なのかは理解した。


 もしも俺の勘違いなら恥ずかしい事この上ないが、一緒に暮らし始めてからの華月ちゃんの所作や態度を考えると恐らく間違いないと思う。好きな相手というのは俺の事なのだろう。


 今までは俺以外の人と関わる事もなかったはずなのでもしかすると初めて話をした俺に懐いてしまったという、卵から生まれた雛に対する刷り込みのようなものかもしれない。


 懐いてくれているのは嬉しいけど、月菜さんの事を思うとあまりよくない傾向のような気がする。


「そっか……、とりあえず飯にするか」


 見た目は完全な月菜さんである華月ちゃんに好かれていて、上気した顔で見つめられている状況。これ以上見てるとどうにかなりそうだったので夜ご飯を作ると言って逃げた。


「そうだね、華月もお腹すいたー」


「とりあえずいつまでも制服着てないで着替えて来なさい」


「はーい」


 制服姿だとどうしても月菜さんを重ねてしまう。それにしても月菜さんはいつ帰ってくるんだろう。



 今日の夜ご飯はとんかつにしてみた。以前唐揚げを作った事で料理に油を使用する揚げ物に対する苦手意識のようなものがなくなった。少し面倒くさそうだと思っていたのだが、下準備をすればあとは揚げるだけと、思っていたよりも簡単だったからだ。


「どうだ?」


「美味しい!」


 自分も食べてみたが、中までちゃんと火も通ってるし、なかなかの出来だ。


「キャベツはおかわりできるから肉ばっかり食べないで野菜もしっかり食べるんだぞ」


「お肉だけでいいのにぃ」


 そんな事を言いながらキャベツにドレッシングをかけてしぶしぶ食べる所は素直でいい子だなと思う。ただ、月菜さんの見た目のままで口を尖らせて拗ねるという光景は流石に俺しか見た事がないのではなかろうか。


「そういえば、おにーちゃん、追試はどうしよう?」


「あー、忘れてた!」


 今一番重要な事なのに告白云々の話ですっかり忘れてしまっていた。


 来週の月曜日との事なので日曜日までになんとか月菜さんに戻ってきてもらわなければ詰む。



 その日の夜も当然のように華月ちゃんは俺と寝ると宣言し、ベッドにもぐりこんできた。


 前日と同じように抱き着かれるような格好になってしまったが、昨日寝不足だったせいか、すぐに寝てしまったようだ。起きるとすでに華月ちゃんはベッドにはいなかった。


「おはよう」


「あ、おにーちゃんおはよ」


 リビングにはすでに制服に着替えた華月ちゃんがいた。どうやら今日も学校に行くようだ。


 昨日の放課後の騒ぎを思い出すと不安しかない。


「もしかすると……いや、確実に友達にいろいろと聞かれると思う」


「ん?」


 何の事かわかっていない華月ちゃんはトーストを齧りながら首を傾げる。


「昨日華月が告白をされたときに好きな人がいるって言ったことが学校で話題になってるって言ったよね」


「うんうん」


「きっとその件を友達とかが聞いてくると思うんだよ」


「そうなの?」


「うん、でも友達にも好きな人の事を教えたらだめだよ。絶対に」


 華月ちゃんが俺の事を好きだとして、友達に聞かれて俺の事を好きと言ってしまうといろいろと問題になる。


 俺は知らない人にどう思われようが別に構わないが、月菜さんに迷惑がかかってしまう。


「うん、わかった。恥ずかしいから誰にも言うつもりもなかったし大丈夫だよ」



 学校には昨日と同じく、HRギリギリに登校してもらう事にする。放課後のさっさと帰ってもらうとしてやっぱり問題は昼休みか。昨日も昼休みにあった告白が問題になった訳だし。


 登校時間をずらす為に俺は華月ちゃんよりも早く学校に来ていた。


 昨日の放課後と変わらずクラスでは月菜さんの話題で盛り上がっているようだった。本人がいない所で噂をしているのを見ると少しイライラする。別に悪口という訳ではないんだろうけど、本人もあまりいい気分はしないんじゃないかな?


 昼休みになると昨日と同じように華月ちゃんは望月さん達と一緒に教室を出ていった。


 真吾達と食堂に行くと朝の教室よりもひどい光景が広がっていた。


 ほとんどの人がご飯を食べている華月ちゃん達のほうを見ながらヒソヒソと話をしている。


 華月ちゃん本人はあまり気にしていないようだが、周りの望月さん達は注目されていて落ち着かないようだ。


「これはひどいな」


 学校一の美少女に好きな人がいるという事が与える影響は予想以上だった。


「いこうぜ」


 料理を受け取った真吾は迷う事なく華月ちゃん達のグループのほうに歩いていくので俺と貴之も料理を持って慌てて後を追った。


「ここ空いてるよな」


「真吾君……。うん、空いてるよ。座って座って!」


 真吾は望月さんに話しかけると、華月ちゃんグループが座っている隣のスペースに座っていた。


 真吾が来てどこかほっとした様子の望月さん。


 こういう事がサラッとできる真吾ってイケメンすぎだろ。


 俺もそのスペースに座ると華月ちゃんがこちらを見ていた。


 とてもニコニコした顔で。


 華月ちゃんに尻尾があればきっとブンブン振ってるんじゃないだろうか。


 なんだか嫌な予感しかしない。

お読みいただきありがとうございます。

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