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第三十話 好きな人いるよ

 月菜さんに好きな人がいる。


 その言葉を聞いたとき、焦りというか、頭の中が真っ白になるというか……。


「おい悠雅、聞いてるか?」


 真吾の声で我に返った。


「あ、あぁ……。それでなんでそんな話が広まってるんだ?」


「昼休みに一年の男子が陽向さんに告白したらしいんだけど、そのときに好きな人がいるからごめんなさいって断られたらしくてさ……」


 昼休みに告白? あぁ、昼休みに華月ちゃんがいなかったのは告白で呼び出されていたからか。


「でもつ……陽向さんは今までも告白されて断ってたんだろ? なんで今更それが話題になるんだ?」


「今までは誰とも付き合う気はないのでとか言って断ってたらしいんだけどさ、好きな人がいるからという断り文句は初めてらしいのよ」


 梨愛が抜群のコミュ力で築いている自慢のネットワークから得た情報を披露している。きっと一年生にも知り合いがいるのだろう。


「それで、実際の所どうなの? 来海ちゃんは月菜ちゃんから何か聞いてる?」


 梨愛が望月さんに向かって聞くと、教室が少し静かになった。みんながこちらに聞き耳をたてているのがわかる。


「私は聞いた事ないかな。元々月菜ちゃんはそういう話には無関心だし……」


 よくよく考えると告白をされた時は華月ちゃんだから華月ちゃんに好きな人がいるという事か?


 なんだかこの話題が出てから非常にモヤモヤする。本人に問いただしてみるか。


 一番陽向さんと仲がいい望月さんもわからないという事で、これ以上俺達で話をしても何も得るものもないのでその後は自然と解散になった。



「月菜ちゃんの好きな人って誰なんだろうねぇ」


「別に誰でもよくないか?」


 梨愛と約束していたので一緒に帰っているが梨愛の話す事はさっきから月菜さんの話題ばかりだ。


「ゆーくんは気にならないんだ?」


「そこまで気にはならないかな」


「ふぅーん」


 恋バナがしたいのなら女友達と帰ればいいのにななんて事を思った。



「ただいまー」


「あ、おにーちゃんおかえり!」


 家に帰るとTシャツにショートパンツという部屋着に着替えた華月ちゃんに迎えられた。今学校中がこの人の噂でもちきりなのだが、本人はいつも通りだ。


 それにしてもやはり部屋着が目に毒だ。


「学校、どうだった?」


「授業がつまらなかった。月菜ちゃんのお友達は優しかったけどね」


「変わった事はなかったか?」


「んー? 変わった事? あったかなぁ?」


 顎に人差し指をあて、目を閉じて考え込んでいる。いや、考え込まなくても変わった事あったでしょ? 告白されたんじゃないの?


「あ、そうだ! 月菜ちゃんのお友達の誕生日が近いからプレゼント買いに行こうって言ってた。忘れないうちに日記に書いておかないと!」


 鞄から交換日記帳を取り出してカレンダーの部分に予定を書き込んでいる。


「へぇ、そうやっていろいろと予定も書きこんでるんだ?」


「うん。菜月お姉ちゃんが決まった予定は忘れずに書きなさいって」


「いろいろと大変なんだな。他にはどんな事を書くの?」


 何度か交換日記帳を見せてもらった事はあるが、一部分をサラっと読んだだけなのでどんな事を書いてるのかは分からない。


「菜月お姉ちゃんに言われてるのは予定の事くらいかなぁ? あ、あとは出会った人との話の内容で変わった事があったら書いてって言われてるけど華月はよくわからないから……。あ! そうだ。学校で変わった事あった!」


 お? 告白の件かな? 今まで忘れてたのかよ。告白って相手にとっては一大イベントだぞ。


「変わった事?」


「うん、帰り際、先生に来週の月曜日から放課後に追試をするって言われたんだった」


「追試!? それかなりヤバくない!?」


 変わった事というのが告白の事だと思っていたが、まさかの追試を行うという情報だった。


 試験を休んでいたんだから追試があるのは当然か。


 だが流石に何度も体調不良で逃げる訳にもいかない。かといって華月ちゃんが試験を受けても問題なんか解ける訳がない。


 菜月さん達他の人格もあまり自信がないとの事なので月菜さんに出てきてもらうしかないのだが、ずっと表に出てきてない。


「そうだよね、ヤバいよね。どうしようか?」


 まるで他人事のように言ってる華月ちゃん。


 なんとかして来週までに月菜さんに戻ってきてもらうしかない。


「あ、そうだ。忘れてた」


 え? まだ何かあるの?


「今日付き合ってくださいって言われたんだけど、華月好きな人いるし断っちゃった」


 やっと告白された事を思い出したらしい。


 さっきまではその事を聞きたかったんだが、今は追試の事で頭がいっぱいでそれどころではない。


 あれ? どうして俺はそんなに告白された事を聞きたかったんだ?


 それに自分の事でもないのになぜここまで追試の事で焦ってるんだ?


「ねぇ、おにーちゃん! 聞いてる? 華月告白されたんだよ?」


「うん、知ってる」


「えぇー!? どうして知ってるの!?」

 

「放課後には学校中月菜さんが告白されたって話でもちきりだったから。いや、正確には月菜さんに好きな人がいるって噂でもちきりだったから、か?」


そりゃ学校一の超絶美少女で高スペック男子も含めてかなりの人数に告白されてもまったくなびかなかった月菜さんに好きな人がいるとなると学校中の話題にもなる。


 それにしても好きな人がいるというだけで学校中から注目されるというのも大変だよな。これがアイドルとかだと自分からそういうポジションになりたいと思っての事なのだろうが、月菜さんの場合はそんな事はないし、むしろ静かに学校生活を送りたいと思ってそうだし。


「まさか……。もしかしなくても断り方が不味かった?」


 どうやら自分が告白してきた相手に言った言葉を思い出したようだ。


「ちなみに聞くけどどうして好きな人がいるって言ったの?」


 『好きな人がいるからごめんなさい』というのは漫画等ではおなじみのフレーズなのでそれを真似したのかもしれない。


「え? だって今好きな人いるから他の人と付き合うとか絶対ないだろうし。だからそれを伝えたの」


 好きな人がいる? 華月ちゃんに?


 小学校の同級生とかかな?


 なんて事はないよな。華月ちゃんは十歳だけど、月菜さんの人格の一つだから普段は小学校に通ってる訳じゃないし。


 じゃあ華月ちゃんの好きな人っていったい誰なんだ?


「好きな人いるんだ?」


「うん。好きな人いるよ。流石に私の口からは言えないけどね」

お読みいただきありがとうございます。

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