第二十九話 学校中の噂
華月ちゃんは友達に囲まれてはいたが、割とギリギリの時間に登校したおかげで、朝のHRまでの時間も短かった為ボロを出さずに乗り切れたようだ。
後は授業が続くし休み時間も短いから大丈夫だとは思うが問題は昼休み。
いつも月菜さんは弁当を持ってきているのだが、二人共弁当なんか作れる訳もなく、華月ちゃんも今日は学食で昼食を取るように言ってある。
「貴之、悠雅! 飯行こうぜ」
昼休みになった途端真吾が声をかけてきた。
最近はいつも彼女になった望月さんと昼食をとっているのに珍しい。
「望月さんと食うんじゃないのか?」
まだ完全に吹っ切れていないようではあるが真吾も少しずつ立ち直ってきたようだ。
「陽向さんが久々に学校に来たから陽向さんと一緒にお昼を食べたいってさ」
華月ちゃんを見るとちょうど望月さんや濱本さん達、いつも月菜さんと一緒にいるグループで教室から出ていく所だった。
華月ちゃんがおかしな言動をしないか心配ではあるが、一緒に行く事もできないので見送る事しかできない。
「こうして三人で昼飯食うの久々じゃね?」
「そうだな」
真吾の言葉に貴之が同意する。確かに最近は三人で集まる事もあまりなかったような気がする。
「お前が彼女なんか作るからだろ」
「彼女なんかって言う言い方はないだろ。いいもんだぞ、リア充ってのも。一緒にいるだけで楽しいというか、落ち着くというか。とにかくいいもんだ」
文句を言ったら惚気のようなものを聞かされた。一緒にいるだけで楽しい、落ち着くねぇ……。
女の子と二人でいるとむしろ落ち着かないんだが。
楽しくない事はないけど。
「真吾くん!」
飯を食い終わって教室に帰る途中で望月さんが真吾を呼び止めていた。まだ休み時間はあるので食堂で話をしていたようだ。
「あれ? はな……じゃない、陽向さんは?」
テーブルには三人が座っていたが、華月ちゃんの姿が見えなかった。たしか教室からはこの三人と一緒に出ていったはずなんだけど。
「え? えーと……。月菜ちゃんはちょっと……」
「うん、ちょっと……ねぇ」
三人は苦笑しながら目を合わせている。あぁ、トイレか? 確かに女の子達からすると友達がトイレに行ったとかは少し言いずらいのかもしれない。
「おい、聞いたか!? あの噂」
「あぁ、聞いた聞いた。相手誰なんだろな」
放課後、何故か教室はザワついていた。特に男子達がソワソワしているような気がする。
華月ちゃんはすでに教室からいなくなっていた。学校が終わったら早く家に帰るように言っておいたからすぐに帰ったようだ。
一人にするのも心配だし俺も早く家に帰らないと。あぁ見えて中身は十歳だからな。
「真吾くん、一緒に帰ろ」
真吾は望月さんと一緒に帰るようだ。貴之と二人だけというのはまだ少し気まずいし一人で帰るか。
「来海、あれって本当なのか?」
「あれって月菜ちゃんの事? 本人に確認した訳じゃないんだけど……」
「何かあったのか?」
少し嫌な予感がしたので思わず聞いてしまった。なんせ今日学校に来ていたのは華月ちゃんだ。何かやらかしたのかもしれない。
「悠雅知らないのかよ。あぁ、友達少ないから知らないか」
貴之にはあまり言われたくないと思ったのだがこう見えて貴之は割と顔が広い。めちゃくちゃ親しいという友達は少ないようだが、たまに話をする程度の友達は他のクラスにも結構いるようだ。
「そうそう、ゆーくんは友達少ないもんね。学校中この噂で持ち切りだよ? 知らないのゆーくんくらいじゃない? 来海ちゃん、詳しい話知らないの?? 私も気になるー」
気がつくと梨愛も俺達のほうにやってきていた。
友達が少ないというのは本当の事だが、実際に言葉にされると割とダメージがある。
「うるさいって! それで? 陽向さんがどうしたんだ?」
自分に友達がいないという事よりも月菜さんの話題のほうが気になって仕方がない。
恐らく教室内がザワついているのも月菜さん絡みなのだろう。よく見るとみんな月菜さんの席のほうをチラチラと見ながら話をしている。
でも学校中に広まるってどんな噂なんだよ。華月ちゃん一体何をやらかしたんだ?
「陽向さん、好きな人がいるらしい」
「え?」
好きな人がいる? 月菜さんに?
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