第二十六話 手料理
翌日も華月ちゃんのままだった。
起きてすぐにしてもらったのは服を着替えてもらう事だった。どこも出かける予定ないのに着替えるのめんどくさいと言われたが、俺の為に着替えてくれとお願いしたら渋々着替えてくれた。
今日が中間テストの最終日だが、学校に行く訳には行かないので学校に休みを伝える電話をしてもらった。
「それじゃあ俺は学校に行ってくるから、華月ちゃんはお留守番しておいて。誰か来ても無視していいからね。お腹空いたらカウンターの上にあるお菓子やパンは好きに食べてもいいし、冷蔵庫の飲み物も好きに飲んで。冷凍庫にアイスも入ってるからね。寂しかったら虎之介を出して遊んでもいいから。外には絶対出たらダメだよ。もし何か困った事があったら電話かメッセージしてね」
「そんなに心配しなくてもちゃんと出来るから大丈夫だよー」
少し心配ではあったが俺まで学校を休む訳にはいかない。
ようやく全てのテストが終わって重圧から解放された放課後。
「ゆーくん、今日これから何するの?」
帰り支度をしていると、梨愛から声をかけられた。
「あぁ、今日は急いで家に帰らないといけない」
華月ちゃんの様子が気になるのでできるだけ早く帰らないと。
「家に? 何かあるの?」
「今日は来客がある予定なんだ。早く帰らないと時間に間に合わない」
「ふぅーん。そうなんだ? せっかくテストも終わったしパーッと遊びに行きたかったんだけどなぁ」
そのとき視界の端に貴之が見えた。こちらを見てるような気がする。そういえばあれからずっと話をしてないな。少し気まずい。
帰り際、華月ちゃんに「今から帰る」とメッセージを送ると『暇だしお腹すいたから早く帰ってきて』と返事があった。
何か買って帰るかなぁ。と思ったが、毎日弁当や出前ばかりでは身体に悪いような気がする。俺だけなら全く気にしないのだが、華月ちゃんに悪い。
そう思った俺は帰りにスーパーに寄る事にした。
今時インターネットで料理のレシピなんかめちゃくちゃあるし、動画まである。それを見ながらであればなんとか作れるだろうと思ったのだ。
何か食べたい物はあるか? と聞いたら唐揚げという答えが返ってきたので唐揚げを作るつもりだ。
家のキッチンに何があるかわからないのでレシピに書いてある材は油も含めて全てカゴに放り込む。
切るのも大変そうなので添えるキャベツはカットキャベツにした。唐揚げには唐揚げ粉を使うと簡単と書いてあったので市販の唐揚げ粉を使う事にした。
こういう便利な物がいろいろとあるなら頑張れば自炊も出来そうな気がする。
「ただいまー」
「おにーちゃんおかえり」
華月ちゃんはスナック菓子を食べながらソファで漫画を読んでいた。寛げているようでなによりだ。
「じゃあ今からご飯作るから」
「え? おにーちゃんご飯作れるの!? 唐揚げを買って帰ってくるのかと思った」
米を炊いておいてから唐揚げを作る。油を使うのが初めてで少し気を使ったが、袋に入れてまぶすだけ。後は温度と揚げる時間だけ気をつければいいようだ。
出来上がった唐揚げとカットキャベツを皿に盛りつける。
簡単な料理ならこれからも作ってみようと思えるくらいあっけなく完成した。
「出来たぞー」
ご飯が炊きあがったのでテーブルに並べる。おかずが一皿というのは少し寂しいが、店の唐揚げ定食もこれに味噌汁がつくくらいだろう。
「おー、見た目はちゃんと唐揚げだね、さっそくいただきます!」
華月ちゃんは待ちくたびれたとばかりに箸を手に取り唐揚げを口に入れる。
「どうだ?」
一応味見はしているのだが、他人の評価というものは気になるものだ。
「うん、ちゃんと味も唐揚げだね、美味しいと思う」
そう言いながら二つ目の唐揚げを口に運んでいる。
手間はかけてないけど、作った料理を美味しいと言ってくれると嬉しいもんだな。思わず顔がニヤケてしまう。
「おにーちゃん、ごちそうさまでした。美味しかったよ」
少し多く作りすぎたかな? と思っていたが結局二人で全部食べてしまった。
「また華月に手料理作ってね」
可愛らしくウインクをしている華月ちゃんの破壊力はかなり凄まじかった。
ご飯を食べてしばらくすると少し眠くなったと言って華月ちゃんは寝てしまった。
それにしてもいつまで華月ちゃんのままなんだ? 流石にずっと学校を休むのもまずいだろうし……。
そして一番の問題は華月ちゃんでいる間は俺の家に寝泊まりし続けるという点だ。
まだ10歳だからかいろいろと無防備で、そのくせ身体や見た目は完全に月菜さんというのが非常にまずい。
目が覚めたら華月ちゃん、紫月さん以外の人格が出てきますように。
そんな俺の願いも虚しく、夕方頃に目を覚ましたときには華月ちゃんのままだった。
年末まで多忙だと思うので更新頻度が少し落ちると思います。
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