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第二十三話 お兄ちゃん

「……菜月さん??」


『うん。悠雅君に呼ばれたから頑張って出てきたよ』


 先ほどまでの悲壮感が漂っていた聖月さんとは違って菜月さんの声は明るい。


『呼んだのは月菜の事だよね』


 状況がわかっているなら話が早くて助かる。


「そう、月菜さんが出てこないみたいなんだけど、どうにかならないかな? 前に一度菜月さんが月菜さんと交代してたよね」


『それがあの時とは状況が違って交代する事ができないの』


 菜月さん曰く、月菜さんは今引きこもりのような状況で表に出ようとしていないらしい。


 月菜さんが表に出たいと思っている場合は比較的簡単に入れ替わる事ができるが、本人にその気がない場合は他の人格が表に出てくるだけだと言う。


「じゃあいったいどうすれば」


『残念ながらどうする事もできないね。このまま月菜が出てこないようなら明日は学校を休むしかないかな』



 結局テスト二日目の今日、月菜さんは学校には来なかった。


 少し心配になったので電話をしてみる事にした。


『もしもーし。悠雅君?』


「菜月さん?」


『そうだよー』


「学校に来なかったって事は相変わらず月菜さんは出てこないって事だよね」


『うん……。あ、そうだ。帰りにちょっとうちに寄れないかな?』


 家に? 何か話でもあるのかな? とりあえず月菜さんの家に向かう事にした。


 少し迷ったがなんとか無事に月菜さんの家に着いた。


 少し緊張しながらインターホンを鳴らす。


『はい、どちら様でしょうか?』


「夏目です」


『なつめ? なつめ……』


 ん? もしかして菜月さん俺の苗字知らなかったっけ?


「悠雅です」


『あー。もしかしてゆうがお兄ちゃん!』


 ゆうがお兄ちゃん??


 バタバタと玄関に走ってくる足音がして玄関が開けられた。


「こんにちは。いらっしゃいませ」


 丁寧にお辞儀をする菜月さん。半袖ショートパンツの部屋着のような服を着ている。


「あ、はい。いらっしゃいました。それで何か用事があったんですか?」


 とりあえず用件を聞こうとすると菜月さんは唇に指を当ててこてりと首を傾げている。


「とりあえず上がって!」


 一人暮らしなのであまり部屋に上がりたくはなかったのだが、仕方なく部屋にあがる事にした。


「少し待っててね!」


 リビングに座って待っていると菜月さんは自分の部屋からノートを持って帰ってきた。


「これは? 交換日記?」


 俺の隣に座り、交換日記を開いて机の上に置く。


「うんうん、ここ読んでみて」


 菜月さんが指差した部分を読む。後にもいろいろと書かれてるので少し前に書かれた箇所のようだ。


華月(かづき)


 家に知らない人が来ても絶対に家の鍵を開けない事。

 華月が一人で生活するのは危ないし、ご飯とかも困ると思うからゆうが君を頼りなさい。

 ゆうが君のお家にお世話になるか家に泊まってもらう事。

 ゆうが君は優しいお兄さんだから華月もきっと気に入ると思うよ。


 菜月お姉ちゃんより』


 は? 何これ。


「菜月さんじゃなかったの?」


「うん、華月だよ。今日の夜はゆうがお兄ちゃんの家とこの家どちらにする?」


 どちらにって。交換日記に書いてた泊まる云々の話?


 それにさっきも言ってたけどゆうが()()()()()って……。


「あのさ、華月ちゃんって何歳なの?」


「華月は10歳だよ」


 まさかの小学生だった。確かに小学生が一人暮らしをするというのは心配だ。


 しかしいくら心配だと言っても小学生が赤の他人の俺と一緒の家に泊まるというのは完全にアウトだろう。


 それに中身は小学生かもしれないが見た目は完全に月菜さん。


 月菜さんと同じ屋根の下二人っきりで一晩を過ごすとか考えただけでも心臓の鼓動が早まる。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん、どっちにするの?? 華月はお兄ちゃんの家がいいかも。お家って猫がいるんだよね!?」


 月菜さんの中の人達って猫好きが多くない? 犬派の人はいないのだろうか?


「やっぱり泊まるってのはまずいと思うんだけど……」


「それは華月はこの家で一人寂しく過ごせって事ですか?」


 華月ちゃんは涙目になってる。


 今にも泣きそうだ。


 見た目は完全に月菜さんの小学生がお兄ちゃんと呼んできたり寂しくて泣きそうになっていたり、仕草や言葉使いも幼いしで華月ちゃんと話をしていると脳がバグっているような感覚になる。


「わかったわかった!! じゃあ俺の家に行こう」


 このままだと泣かれてしまうと思い咄嗟にそんな事を口走ってしまった。


「はい! じゃあ準備してくる。ぴょん太も連れていかなきゃ!」


 急に元気になった華月ちゃんはスキップをしそうな勢いで自分の部屋に入っていった。


 はぁ……。勢いで家に来る? って言ってしまったものの一体どうすればいいんだ。


 そんな事を考えながらリビングで準備が終わるのを待っていると……。


「おにーちゃーん! ちょっと部屋に来てもらっていーい??」


 呼ばれたので部屋に行くと、部屋の真ん中にキャリーケースを広げて荷造りをしている華月ちゃんがいた。


 部屋の中は少しいい匂いがした。


 あ、これって月菜さんの私室だ。勝手に見たり入ったりしていいのかな……。


 そんな事を思いつつも好奇心には勝てず、部屋の中を見渡すとベッドの上には動物のぬいぐるみが綺麗に並べられている。


 机の上は綺麗に整理されていて、机の隣にある大き目の本棚に並んでいるのはライトノベルが多い。部屋の端にあるドレッサーの上には化粧品がたくさん並べられていた。


「お兄ちゃーん! おーい……」


 俺の中の月菜さんのイメージとは少し違うなぁなんて事を思いながら部屋の中をじっくりと観察してしまっていた。


「お兄ちゃん!!!」


「はい!!」


 目の前に両腰に手を当てて仁王立ちしている華月ちゃんがいた。華月ちゃんに呼ばれたという事をすっかり忘れていた。


「持っていくものこれでいいかな??」


 キャリーケースの上に服が並べられている。リラックスできる部屋着、パジャマ、外に出かける用の服がそれぞれ3セットに念の為の制服もある。


 何日うちに滞在するつもりなんだろう……。


 女の子のお泊りの荷物って言われても何が必要なのかわからない。部屋の端にあるドレッサーを見ながらスキンケア用品とか化粧品とかはいらないのかな? ドライヤーはあってもヘアアイロンとかはないぞなんて事を思っていた。


「あとは下着かなぁ。どれがいいかな? あんまりわからないからおにーちゃん選んで?」


 そういえばさっき下着はなかったな。


 ……って下着!? 俺が選ぶ!?


 ベッドの上を見るといろんなカラー、いろんなデザインの下着の上下セットが並べられていた。


 一瞬ではあったが月菜さんの下着を見てしまった俺は逃げるように部屋を飛び出して、華月ちゃんの好きな色を選んだらいいよと伝えておいた。

お読みいただきありがとうございます。

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