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第二十二話 呼びかけて

 初日は3科目の試験があり、昼までで終わったが結局月菜さんは教室には帰ってこなかった。


 帰りのHRが終わったあと月菜さんと仲のいい望月さん達が月菜さんの鞄を持って保健室に向かったようだ。


 結局月菜さんには戻らなかったのだろう。心配ではあるが俺ができる事は何もない。


「ゆーくん、一緒に帰ろ」


 梨愛のその言葉を聞いて教室に残っていた人達がザワついた。


 何も約束をしていない日に梨愛が一緒に帰ろうと誘ってくる事は珍しい。思わず貴之の席を見たが、もう帰ったようで誰もいなかった。真吾もいなかったが真吾はいつものように望月さんと一緒だろう。


 今までなら梨愛からの誘いに対して俺と一緒にいると変な誤解されるぞと言って断る事もできていたが、それもできなくなった。


 テスト期間中で他に用事がある訳もなく結局断る事ができずに一緒に帰る事になった。


「月菜ちゃん体調不良って大丈夫かなぁ? ゆーくん朝話をしてたけど何か聞いてないの?」


「朝から熱っぽくて体調が悪いって言ってたから無理しないほうがいいとは言ったけど」


 梨愛はすぐ左隣を歩いているが、いつもより距離が近い気がする。左手を少し動かすと梨愛に触れそうだ。


「お腹すいたねー。なんか食べて帰ろっか。家帰っても何も食べるものないんでしょ?」


 これは有難いお誘いだ。一人で外食するとなると結構ハードルが高い。ラーメンや牛丼あたりなら問題なく一人で行けるが、ファミレスやカフェとなると一人では入れない。


 梨愛が学校最寄りの駅近くのカフェに行きたいと言うので、そこに行く事になった。


 カフェはうちの高校の生徒達で賑わっており、満席の為少し待たないといけないようだ。


「あれ? 梨愛ちゃん??」


 入口で席が空くのを待っていると梨愛が店内から声をかけられていた。声の主を見ると真吾と望月さんだった。


「一緒に食べようよ」


 望月さん達に誘われて同席させてもらう事になった。望月さんは元々月菜さんと仲がよかったが、


「そういえば月菜ちゃんの様子どうだった?」


 気になっていた事を梨愛が聞き、確認するようにこちらを見る。


「朝よりはよくなったと言ってたけどまだ体調が悪いみたい。先生が家まで送ってくれるって」


 もしかすると睡眠をとった事で聖月さん以外の人格になっているのかもしれないが、月菜さんには戻っていないようだ。


「そういえば貴之の元気がなかったのはあの件が原因か?」


 真吾も貴之の様子がいつもと違っていたのには気づいていたようだ。


「多分な」


 全てが俺の責任という訳ではないが、貴之は常日頃の言動からして梨愛が好きだという相手が俺だと言う事も薄々気付いているはずだ。今思い起こせばファミレスでの会話の時に俺の気持ちを確認したのはそういう事なのだろう。


「俺はどちらの味方でもないけど、貴之と悠雅の仲が壊れてしまうのだけは嫌だからな」


 やれやれと言った様子の真吾。


 今日も貴之と一度も会話をしていないが、テストが終わってからでもちゃんと話をしたほうがいいかもしれない。


「え? 貴之君とゆーくん喧嘩でもしたの?」


 さっきまで望月さんと「望月さんと真吾君ほんとにラブラブだよねー。羨ましい!」というような恋バナで盛り上がっていたはずの梨愛だったが、俺達の話が耳に入ったらしい。


「ちょっとした意見の食い違いだよ、貴之と悠雅は昔からよくあるから気にしなくて大丈夫だよ」


 咄嗟に真吾がフォローしてくれた。こういう機転が利くところは真吾のいい所だ。


「そうなの? 早く仲直りしなよー??」


 他人事のように言っているがお前が原因だからなとは言えないのがもどかしい。


「まぁテスト期間終わったら一度集まって話しようぜ」


 気が重いが真吾の言う通り、貴之とは一度話をしなければならないな。


「えー? なにそれ。中間テストの打ち上げ? 私も行っていい??」


 いやいや、梨愛が来たら余計に話がこじれるから……。


「男子会だからダメ」


 真吾がそう言うと梨愛は渋々と言った感じで諦めた。


 昼食を食べた後は梨愛と帰る事になったが、望月さんや真吾とも話をしたおかげか、いつもの調子に戻っており、昼食前の変な空気にはならなくて安心した。


 家に帰ったものの勉強をする気も起きずベッドに横になり梨愛の事や貴之の事、それに月菜さんの事を考えているといつの間にか寝てしまっていたようだ。


 枕元のスマホが鳴り、その音で目が覚める。アラームかと思ったが月菜さんからだ。


『もしもし、悠雅君? 聖月です』


 電話は聖月さんからだった。


「もしかしてずっと聖月さんが表に出たままなの?」


『そうなんです……。いつもなら表に出てるときは本を好きなだけ読めるので嬉しいのですが、明日もテストがあると思うと本を読んでも集中できないし、今更勉強してもどうにもできないし、かなり困ってます……』


 受話器越しだが聖月さんが困っている姿が目に浮かぶ。だがこればっかりは俺にはどうしようもない。


「何度か寝てみたりはしたんだよね? 明日になっても戻っていない場合は引き続き体調が悪いと言って学校を休むしかないね」


『そうですね、保健室でも家に帰ってからも何度か睡眠をとってみたんですが、起きても時間はほとんど経ってないし、交換日記にも書き込みがないし、ずっと私のままのようです』


 せめて菜月さんが出てきてくれたら……。


「おーい。菜月さーん。出てこーい」


『……』


 無駄だろうとは思っていたが、我に返ると呼びかけた事が少し恥ずかしい。


 聖月さんに変な人と思われていないだろうか?


『悠雅君久しぶり! 私の事呼んだ??』

お読みいただきありがとうございます。

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