第十九話 告白されたい
午後からの勉強も午前中と同じように進んでいたが、やはり一番に梨愛がギブアップして長い休憩を取っていた。
貴之は午前中のような明るさがなく、黙々と一人で練習問題を解いていた。
俺は梨愛が告白を断っていた理由が分かれば少しでも貴之が梨愛の気を引く為の材料にできるかも、という理由で聞いてみたのだがどうやら逆効果になったしまったようだ。
その後はみんなが持参したお菓子を食べるおやつ休憩を挟み、各自休憩を挟みながら夕方まで勉強を続けた。
梨愛は午後はほとんど休憩をしていたような気がする。俺も結構休んでいたり、問題を見ながらぼーっとしていたりもしたので勉強をしていた時間は梨愛とあまり変わりがないような気もする。
だが、望月さんに分からない部分をいろいろと教えてもらえたおかげでこの勉強会が中間テストに向けての役に立っているとは思う。
「今日は本当に助かった。でも望月さんの迷惑になってないかな?」
俺達のせいで望月さんが自分の勉強が出来ず、成績を落としてしまうような事があっては申し訳ない。
「教える事は復習にもなるし、自分の理解も深まるから大丈夫だよ。それに私はみんなと違って普段から勉強してるしね」
そう言って望月さんは笑っていた。
俺達みたいに中間テスト前に詰め込むような勉強をしなくても普段から勉強をしているから直前に必死になって勉強をしなくても大丈夫だという事らしい。今回は真吾に付き合って勉強会に参加しているのだろう。
真吾もそれを理解したのか「来海ちゃんありがとう」と言ってハグをしていた。望月さんはみんなの前で抱き着かれて顔を真っ赤にしていたけど。
それにしても梨愛の好きな人がいる発言がかなりショックだったのか、貴之の様子がおかしい。いつもはどちらかと言うと俺達のムードメーカーでよく喋っているのに昼ご飯の後からほとんど言葉を発していない。
帰りは貴之が梨愛を家まで送っていく予定だったのだが、「悠雅頼む」と言って先に一人で帰ってしまったので俺が送る事になった。
「貴之君何かあったのかな? 大丈夫かな?」
心配そうな梨愛。梨愛も貴之の様子がおかしい事に気付いていたようだ。でもその原因がお前だとは言えない。
「さぁな」
「なんだかゆーくん冷たいね。貴之君はゆーくんの大事な親友なんでしょ? 心配じゃないの?」
立ち止まって語気を強めている梨愛は俺の態度に本気で怒っているようだ。
「心配だけど心配した所でどうにもならない事もあるんだよ」
振り返って梨愛の方を向く。
俺と視線を合わせて全く逸らそうとしない。これは怒っている。怖くはないが、目を合わせているとなんだか恥ずかしくなってしまい、思わず目を逸らしてしまった。
それにしてもこの梨愛が好きなのっていったい誰なんだろう。中学のときからずっと告白を断っているという事は中学の時から好きって事だよな。でも中学時代で思い浮かべる高スペック男子はほぼ全員梨愛に告白して玉砕している。
「なぁ……。一つ聞いてもいいか?」
どうしても気になったので聞いてみる事にした。
「何?」
棘のある返事。梨愛の目は全く笑っていない。そうだな、怒っているときに聞くような事じゃないな……。
「いや、やっぱなんでもない」
「はぁ!?? なにそれ。気になるから言ってよ!!」
「梨愛が今日言ってた中学のときからずっと好きな相手って誰なんだよ」
「……え?」
口を開けたまま固まる梨愛。そりゃそうだ。貴之の話をしていたのにいきなりこんな事を聞かれたら俺でも「は?」ってなる。
でも俺からすると貴之の元気がなくなった事とこの質問は無関係ではない。
梨愛は俺から視線を外して下を向いた。よく見ると耳が赤くなっている。
どれくらいの時間が流れただろうか……。ようやく梨愛が口を開く。
「私は……。私は……。私は告白したいんじゃなくてされたいの!!」
もしかしてこれ……。
地雷踏み抜いた……?
高校に入ってから真吾や貴之に梨愛との関係を揶揄われていた事もあったし、梨愛がやたらと俺に絡んできてたのでもしかして梨愛は俺の事が好きなんじゃないか? と思った事がある。
でもよくよく考えるとそんな訳もないだろうという結論に至り、自分で自分の事をモブのくせに勘違いして気持ち悪いな。と思ったものだ。
ようやく顔を上げた梨愛は涙目だった。今にも涙が溢れ出しそうだ。
「あの……」
「もういい! 私一人で帰れるから!」
そう言って振り向くと梨愛は一人で歩きだす。
俺は梨愛を追いかける事ができなかった。
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