第十八話 告白されても
長かったGWも終わり、1週間が経った。
学校に行きたくないという五月病の症状がモロに出ていたが、それもようやく収まってきた。
「悠雅、飯行こうぜ」
昼休み、いつものように貴之に誘われて食堂へ向かう。今まではここに真吾を加えて3人で昼飯を食べるのが恒例だったのだが、GW明けからは二人のみでの食事となっている。
「それにしても真吾がねぇ……」
「だよな、未だに信じられないぜ。あいつだけ上手くやりがって! 俺もなんとか梨愛ちゃんとそんな仲になりたいぜ」
真吾はGWの間に好きだと言っていた望月来海と付き合い出したらしい。
GW明けに本人からそれを聞かされた俺と貴之はかなりのダメージを受ける。
友人としては友人が幸せになるとい事は歓迎するべき事柄なのだが、こうして俺達よりも彼女との時間を優先される寂しさと彼女を作りやがってという嫉妬の気持ちが混ざってなんとも言えない感情だ。
だが俺の家で行った例の打ち上げの帰り道で連絡先を聞きだし、GW中にデートに誘い、告白までを行った真吾の行動力と勇気には恐れ入る。
「俺も梨愛ちゃんにアプローチをしないといけない」
いつもの日替わり定食を食べ終わった貴之はかなり真面目な顔だ。
「お、おう……」
「そこで、中間テストに向けて勉強会を開こう。……お前の家で!」
「その勉強会に梨愛を呼ぶって事だな」
「その通り。よく分かったな」
逆に今の話の流れで分からない奴がいるのか? 来週の月曜日から中間テストが始まる。それに向けての勉強会を行うらしい。でもこの勉強会には問題がある。
「けど俺とお前に梨愛が加わっても勉強できない奴ばかりが集まる事になるが、それはテストの点数が上がる事に繋がるのか?」
俺はそんなに頭はよくないし、いつも試験の成績は下から数えたほうが早い。貴之はいつも俺より点数が低いし、梨愛も俺と同じような感じだったと思う。
「言われてみれば確かに……」
ある程度予想はできていたが、勉強会の本来の目的であるテストの点数を上げるという所ではなく、梨愛と一緒に勉強をするという部分しか考えていなかったようだ。
「じゃあ真吾と来海ちゃんを誘ってみるのはどうだ?」
しばらく考えた貴之が真吾達を誘おうと言ってきた。真吾もそこまで頭がいい訳ではないが、望月さんは去年も同じクラスだったがいつも成績はクラスで上位だったと思う。
放課後、貴之が梨愛と真吾達に声をかけ、全員勉強会に参加するという返事を貰ったらしい。
勉強会は今週の土曜と日曜に月曜からの試験に向けて俺の家で行う事になった。
俺の家で行われるというのが少し面倒だが、どうせ一人で家にいてもまともに勉強をしない事は予想できるので、少しでもテストの点数が上がればいいなと思う事にした。
そして土曜日になり、集合予定時刻の10時には勉強会に参加するメンバーが全員俺の家に集まった。
勉強会と言っても基本は自習だ。一人だと黙々と勉強を続ける事ができないが、他のメンバーが勉強をしている為、自分もやらなければいけないという状況を作り、勉強を行う。
どうしてもわからない部分は他のメンバーに教えてもらう。これに関しては望月さん頼みだ。望月さん一人に負担がかかるのだが、望月さんは真吾君の友達なんだから気にしなくていいよと言っていたらしい。なんていい女の子なんだ。
「あー、つかれたー!!」
梨愛が大きく腕を上に上げて伸びた後、後ろに倒れ込む。
まだ勉強を始めて1時間。最初に勉強に飽きたのは予想通り梨愛だった。梨愛は昔から勉強が苦手だ。昔から赤点を取ったり補習にひっかからなければいいというスタンスだ。
梨愛が唯一必死で勉強しているのを見たのは、高校受験のときくらいだ。
ちなみに俺も梨愛と同じような考えの為、今まであまり勉強というものをした事がない。俺の集中力も切れかけてはいたのだが、他のメンバーが真面目に勉強をしているようだったので仕方なく勉強をしていた。
「みんなは勉強を続けてね。私はお昼ご飯を作るから」
しばらく倒れていた梨愛はバッグからエプロンを取り出すとキッチンに向かった。
梨愛は俺の家に来たとき、買い物袋を提げており、「今日と明日のご飯は私に任せなさい」と言っていた。
キッチンからはトントントンという包丁の軽快な音が響き、梨愛の機嫌がよい様子が伺える。本当に料理を作るのが好きなんだな。
俺もキッチンに逃げたかったが、残念ながら料理は全くできないので仕方なく勉強を続けた。
「ごめん、望月さん。ここ教えて欲しいんだけど」
「望月さん、これって合ってる??」
「来海ちゃん、勉強に集中してる所も可愛いよ!」
やはり男子3人組はわからない所も多く、望月さんに聞く事が多くなってきた。望月さんに負担がかかる感じになってしまっている。やはり他にも勉強のできる人を誘っておくべきだった。
「ご飯できたよー!」
「お、ちょうどお腹が減ってきた所だ。運ぶよ」
俺と真吾は集中していた疲れで先ほどの梨愛と同じように仰向けに倒れていたが、貴之は率先してキッチンに向かい、料理や飲み物を運んでいた。
テーブルの上に人数分のパスタとサラダが並べられる。
「今日はパスタにしてみました! 私が食べたかったのでカルボナーラにしたよ。召し上がれ」
「旨そうだな、いただきまーす」
貴之は梨愛の手料理が食べられるとあって非常に嬉しそうだ。
梨愛の作ったカルボナーラは濃厚で美味しかった。気を利かせて男子3人の分は多めにしてくれていたようだが、みんなすぐに平らげていた。
「前のときも思いましたけど梨愛さんは本当に料理上手ですよね。私にも教えて欲しいくらいです」
「家のご飯を作る係だからね。嫌でも上手になるよ」
望月さんは梨愛にカルボナーラの作り方を教えてもらい、レシピをメモしている。その間に男子組は食器の後片付けを行った。
「ねぇねぇ、来海ちゃんは真吾君にどこで告白されたの??」
食後のコーヒーを入れてみんなで飲んでいると梨愛は望月さんにそんな事を聞いていた。
望月さんはもちろんだがその隣に座る真吾も恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。
他の人なら気を使ってなかなか聞けないような事でも聞けるというのは梨愛のキャラも相まってなせる業だろう。
「えっと、公園で……」
恥ずかしがりながらもそのときの事を思い出しながら話す望月さん。
「でも梨愛ちゃんは告白なんか数えきれないほどされてるでしょ? その中に気になる人とかいなかったの?」
彼女の望月さんを困らせたお返しとばかりに真吾がそんな事を梨愛に聞いていた。
「全くいなかったかなぁ」
考える事もなく平然と言ってのける梨愛。
「高校になってからはあまり知らないけど中学のときもサッカー部のキャプテンや、女子の人気集めてたイケメンの先輩とかからも告白されてたよな。それでも気になる人が全くいないってどれだけ理想が高いんだよ」
梨愛がこんな感じだと貴之も大変だなぁなんて事を思いながら俺は前々から思っていた事を梨愛に聞いてみた。
「だって私昔からずっと好きな人がいるし、その人以外に告白なんかされてもなんとも思わないよ」
梨愛は少し驚いたような顔をした後にそんな事を言っていた。貴之の恋は前途多難のようだ。
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