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第十七話 私の家に夏目君?

 この感覚は……。どうやらまた人格の交代が起こっていたようね。


 一年程前から悩まされているがここ最近は頻繁に起こるようになってきた。


 最初は週に一度あるかないか、記憶がなくなるのは長くて数時間くらいだった。


 最近はほぼ毎日のように起こる。丸一日記憶がなくなる事もある。


 どれくらいの間入れ替わっていたのか確認するため私は意識が戻ったら日時を確認する事にしている。


 辺りを見渡すとどうやら自分の家らしい。


 最後の記憶はたしか……。そうだ。夏目君と一緒に行った動物園の帰りの電車に乗った所までは覚えている。


 ようやく意識もハッキリとしてきたので時間を確認するためにスマホを探していると目の前に誰かがいた。


「きゃっ!?」


 部屋の中に誰かがいるという事に驚き、思わず後退る。


 え!?? 誰!? なんで私の家にいるの!?!!

 

「月菜さん、大丈夫。俺だよ。夏目だよ」


 パニックになる私に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 夏目君……!? でもどうしてここに?


「驚かせてごめんね」


 いまだに鼓動はかなり速いがようやく少し気持ちが落ち着いてきた。


 まだ手が震えている。


 胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸を行い、さらに気持ちを落ち着かせる。


「──やっと落ち着いたわ。それで何故貴方がここにいるのかしら?」


 心臓が止まりそうになるほど驚かされた相手を睨みつける。


「ほんとごめん──」


 机を挟んで向かいに正座をして座っている夏目君はこの家に来るまでの経緯を話してくれた。


 私の記憶通りどうやら帰りの電車で疲れて眠ってしまい、そこで人格交代が起こったという事だ。出てきたのは紫月。


 この紫月という人格は最近になって出てきた人格だ。名前は菜月から聞いてはいるが、日記でもあまり話をしたことがないのでどういう性格かもよくわからない。


 年齢的には22歳だと言っていたので私よりも年上らしい。性格も大人っぽいのだろうか?


 その後、紫月に家に来るように誘われ、断ったが強引に連れて来られたという事だ。


 夏目君は一人暮らしの女性の家に来るという事がどういう事かわかっているのかしら?


 まぁ優しくてお人好しの夏目君だから半ば無理矢理に連れてこられたんだろうけど。


「貴方は別人格が暴走するのを止める役目をしてくれるんじゃなかったかしら? それがミイラ取りがミイラになってしまったって訳? 一応確認しておくけど、()()してないわよね?」


「な……何もしてないし、な…何もなかった!」


 何故かしどろもどろになっている。本当に何もなかったのよね? 心配になってきたわ。


 はぁ……。今日の動物園はとても楽しかったのにどうしてこんな事になっちゃってるんだろう……。


「それにしても部屋に連れ込んだのが()()()()()()()()でよかったわ。他の変な男を連れ込んでたらどうなってたかわからないし。こんな事今まで初めてだけど怖すぎるわね……」


 想像しただけで怖くて思わず自分の身体を両手で抱き締める。


「確かに紫月さんは危険かも……。他の人達は割と常識がある感じなんだけど」


「え? 紫月が危険? どういう事?」


 しまったという顔で口を抑えている。


「えっと……、その……、なんというか……。あ、そうそう。なんかめちゃくちゃ強引なんだよ。グイグイ来るというかなんというか……」


 どうも何か隠してるような気がするのよね。


「それで? 今後このような事がないようにするにはどうすればいいと思う?」


 私が問いかけると夏目君はうーん……と唸りながら真剣な顔で悩んでいる。こうして相手の身になっていろいろと本気で考えてくれる所が彼のいい所よね。


「いっその事一人暮らしをやめるとか?」


「たしかに誰かがいてくれたらそれだけでも安心はできるけど……。私はずっと一人だから」


 私は高校に入ってからずっと一人暮らしをしている。実家に帰れない理由があるのだ。


 両親と一緒にいるのが嫌で中学卒業と共に家を出る事にした。


 実家から遠い高校をわざわざ選んだのは両親や親戚に見つからないようにする為だ。


 今は母方の祖父母が金銭的な援助をしてくれている。


「そうだよね、それができるならすでにしているよね」


「じゃあ貴方が一緒に住んでくれたらいいじゃない。貴方も一人暮らしのようなもんでしょ」


「え?」


 意味がわからないという表情の夏目君。


 言ってからとんでもない事を言った事に気が付いた。


 え? 私が夏目君と一緒に住む? 何てことを言ってるの。


「嘘嘘、本気にしないで。冗談よ。いくら貴方が人畜無害と言っても流石に一緒に住むのは無理だわ」


「だよね、流石に俺もそれは無理だ」


 え? 私と一緒に住むのが無理って事? 私そんなにダメな女の子かな? 別に夏目君と一緒に住みたいとは思わないけど、一緒に住むのは無理とか言われると少しショックを受ける。


 でもやっぱり自分の知らない所で何をされるかわからないのはかなり怖い。


「あとできる事と言えばできるだけ俺が傍にいるようにする事くらいかな。あとは他の人格に会えたときにお願いしておくよ。菜月さんはみんなをまとめているような印象もあるし、お願いすると協力してくれるかも」


「そうね、私も交換日記に書いておくわ」


「そろそろ帰ろうかな。明日から学校だしね」


 時間を見るともう20時になっていた。途中入れ替わりはあったけどなんだかんだで今日は一日夏目君と過ごしてたな。


「そうね。遅くまでごめんね」


「家に誘われて断り切れなかった俺も悪いから。気にしないで」


 玄関まで見送る事にする。


「じゃあ帰るね。今日はありがとう。動物園楽しかったよ」


 そうだ、いろいろあったけど今日の動物園はすごく楽しかった。動物達との触れ合いも楽しかったし夏目君といろいろおしゃべりしたのも楽しかった。サンドウィッチを美味しそうに食べてる夏目君を見てるのも楽しかったなぁ。


「私こそ動物園に連れていってくれてありがとう。すごく楽しかった」


 ベッドに入って目を閉じると再び今日の事を思い出して幸せな気分になり、今度は遊園地や水族館にも行ってみたいなと思いながら眠りについた。

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