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第十六話 お家デート

 しばらくして駅に着くと手を引かれて電車を降り、そのまま手をひかれてホームを移動する。


「誰?」


「誰ってひどいわね。月菜よ」


 二人並んで電車を待つ間もずっと手は握られたままだ。


 いや、確かに口調は月菜さんだが目覚めた時に俺を見て悠雅って言ってたし、ずっと手を繋がれているという状況。


「いや、絶対月菜さんじゃないよね」


「へぇ、分かるのね」


 目を開いて関心した様子の月菜さん(仮)。


「これ」


 ずっと繋がれたままの手を上げて目の前に見せる。


「月菜さんは俺を手を繋いだりしない」


 自分で言ってて少し虚しくなるような台詞だが、月菜さんとは動物園で足場の悪い所を歩く時でさえ手を繋いでない。


「あぁー、なるほど。あの子奥手だしなぁ。まだ手も繋いでなかったかぁ……。失敗失敗」


「そろそろ手を離してもらえるかな? 紫月さん」


 名前を呼ぶと驚いた表情をする紫月さん。


 でも貴女は行動でかなり分かりやすいですからね……。


「あら、名前まで当てたのね。周り結構人いるけどご褒美欲しいの? 私は構わないわよ」


 ご褒美って前に部屋でされたアレだよな? 紫月さんは握っていた手を離し、俺の腕に自分の腕を絡めると俺に向かって一瞬目を閉じ、唇を突き出す仕草をする。


「え……遠慮しておきます」


「そう? 遠慮なんかしなくてもいいのに。電車来たから乗りましょうか」


 腕を絡めたまま歩き出す紫月さん。腕に柔らかい物が当たっているしさっきまでの状況よりも悪化している気がする。


 電車は割と混みあっていたので二人並んで窓際に立つ。


「今日は月菜とのデート楽しかった?」


 紫月さんは窓際にいて押される事もないのになぜか身体を押し付けてくる。しかもなぜか俺の足の間に自分の足を差し込んでいる。


「そうだね。楽しかった」


「羨ましいなぁ……。葉月ともデートする約束してるんだよね? 私は?」


 さらに身体を寄せて見上げてくる紫月さん。顔が非常に近いし胸は当たってるし足も動かしてるしで非常にまずい。


「いや……。葉月さんは月菜さんに許可をもらってるし」


「許可なんかもらわなくてもバレなきゃ大丈夫じゃない? 私が貴方にキスした事、バレてないでしょ?」


 確かにバレてない。というか一方的にされた事とは言え月菜さん以外の人格が出ているときにそんな事をしたというのがバレると月菜さんの信用もなくなってしまいかねない。


「悠雅にした事交換日記に書いちゃおうっかなぁ」


 ニヤリと悪戯な笑みを浮かべている紫月さん。


「それはやめて欲しい……」


「じゃあ今からデートの続きしてよ」


「今から? でももう割と遅い時間だしどこに行くの?」


 電車が駅に止まり、紫月さんの後ろにあるドアが開くと紫月さんが俺の腕を引っ張り、二人でホームに降りる。


 駅名を確認するとどうやら月菜さんの家近くの駅に着いていたらしい。


「お家デート。今から私の家に行くの」


 俺の手を取り、紫月さんが歩き出す。


「いや、家にいくのは流石に不味いと思うんだけど」


「交換日記」


 もはや完全に脅迫だ。ここは大人しく従うしかない。俺は抵抗を諦めて紫月さんに着いていく事にした。


「お腹空いたでしょ? 何か食べたい物ある?」


「いや、お昼たくさん食べたからまだお腹は空いてないかな」


 どこかに晩御飯を食べに行くとなると帰る時間も遅くなってしまう為ここはお腹は空いていないと言っておいた。


「お腹空いてないなら食材は買わなくてもいっか」


 お店に食べに行くのかと思っていたらどうやら家で晩御飯を作ってくれるつもりだったらしい。


 コンビニに寄り、飲み物とお菓子を購入した後月菜さんの住んでいるマンションに着いた。


「適当に座って」


 目につくものはテーブルとテレビくらいであまり物を置いていないシンプルなリビング。


 キッチンには一人暮らしにしては大き目の冷蔵庫が備え付けられている。


「飲み物はさっきコンビニで買った紅茶でいいわよね?」


「うん」


 紫月さんはわざわざペットボトルの紅茶を氷の入ったグラスに注いで持ってきてくれた。


「どうぞ。多分この家に入ったの、私達以外では悠雅が初めてよ」


 隣に座られると不味いと思い、机の狭いほうに座ったのだが、お構いなしに俺の隣に座る紫月さん。


 落ち着かないので部屋の中をキョロキョロと見渡すが、物があまりなく、見るものもほとんどないのですぐに見る物もなくなってしまう。


「ねぇ、せっかく誰もいない家に2人っきりなのに何もしないの?」


 あぐらをかいて座ってる俺の脚に手を置き、身体を密着させてくる紫月さんが耳元で囁いてくる。紫月さんが言葉を発する度に息が当たって非常にくすぐったい。


「しないでしょ!」


「そう? ざーんねん。じゃあさ、私が悠雅が喜びそうな事してあげよっか?」


 俺の太腿を撫で回す紫月さんの手。


 なんか非常にまずい流れのような気がする。


「そういえばちょっとお腹空いてきたなぁ」


 とりあえずこの状況から逃げないと。


「ん? お腹空いた? じゃあ何か作るね」


 なんとか危険は脱したようだ。


「ご飯できたよ」


 テレビを見ながらしばらく待っているとテーブルの上に親子丼とみそ汁が2人分用意された。


 4つ並べられた食器が全部バラバラなのは一人暮らしで来客がある事を想定していないからだろう。


「簡単なものでごめんね。本当は買い物に行って悠雅の食べたい物を作ってあげたかったんだけど」


 元々紫月さんは俺に晩御飯を作ってくれるつもりで食べたい物を聞いてくれていたのに、俺がお腹空いてないと言ったのが原因だ。


「ありがとう。でも親子丼は好きだから問題ないよ。いただきます」


 やはり紫月さんの料理の腕前はかなりのもので親子丼も味噌汁も非常に美味しかった。


「ごちそうさまでした。とても美味しかった」

 

 あれ? 反応がないなと思って紫月さんを見るとすでにご飯は食べ終わっていて、両手に顎を乗せたまま目を閉じていた。


 まさか、寝ちゃってる?


 これって……。


 すごく嫌な予感がした。今まで月菜さん達が寝たり、目を閉じたりした後はいつも人格が入れ替わる。


 今のうちにお暇しようかと思ったが、ご飯を食べてしまっている以上誰かが家に来たというのはバレる。


 女の子の一人暮らしで、気が付いたら誰かが家に来ていた痕跡があるとしたら恐怖でしかないだろう。そんな怖い思いをさせる訳にはいかない。とりあえず目を覚ますまで待とう。


 そんな事を考えているとどうやら目を覚ましたようだ。


 心の中で菜月さんであってくれと祈る。恐らくこの状況で一番ベストなのは彼女のような気がする。逆に一番最悪なのは月菜さん。別人格にいいように使われて家まで来てるとなれば信用を一気に失ってしまいかねない。


 そんな事を思っていると目の前の美少女はキョロキョロと辺りを確認した後こちらを向いた。

お読みいただきありがとうございます。

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