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第十五話 お弁当

 アルパカとは触れ合えないと知って残念そうな月菜さん。


 ぼーっとした雰囲気は可愛いし全身がモフモフで気持ちよさそうだ。


「おーい! こっち向いて!」


 月菜さんは先ほどからアルパカのベストショットを撮る為にアルパカを呼んでいるがなかなかこっちを向いてくれないようだ。


「全くこちらを向いてくれないわね。夏目君もアルパカみたいにぼーっとしてないで呼んでみてよ」


 別にぼーっとしていた訳ではないのだが、どうやら今の俺はアルパカのようにぼーっとしていたようだ。


「アルパカー! こっちだー!」


 どうすればいいかわからないので叫んでみると、その声にびっくりしたアルパカは奥のほうに逃げていった。


 月菜さんに半目で睨まれた。


「ごめん……」


 どうしてもアルパカの写真を撮りたいのか、その後も粘る月菜さん。そんなにアルパカが好きだったのね。ほんとごめん。


 疲れてきたのでベンチで休みながら月菜さんの様子を見ているとようやく納得のいく写真を撮れたのか、月菜さんがこっちに戻ってきた。


「どう? これとかすごく可愛いでしょ」


 隣に座ってスマホの画面を見せてくる月菜さん。少しでも見やすいようにこちらにスマホを近づけてくるので月菜さんの顔がすぐ近くにあった。今日はポニーテールにしているのでいつも隠れている月菜さんの耳や、うなじがすぐ近くに見える。


 スマホの画面にはアルパカと2ショットの自撮りをしている月菜さん。


「そうだね、すごく可愛い」


 正直アルパカなんかよりも月菜さんのほうが何倍も可愛かった。その可愛い月菜さんの顔が俺の顔のすぐ近くにある。なんだかいい匂いもするしこんな状況に平常心でいられる男なんているのだろうか?


 自分の心臓の音が聞こえるくらいドキドキしているとやっと月菜さんが離れてくれた。


「夏目君、なんだか顔赤いけど大丈夫?」


 コテっと首を傾げている月菜さん。


「だ、大丈夫だよ……。それよりもお腹空いてない?」


 なんとか話題を変える事に成功した。時間を確認するともうお昼を過ぎていた。


「そうね。言われてみれば少しお腹が空いたわね。近くにあるかしら」


 園内パンフレットを広げる月菜さん。動物園内には食事ができる施設も何軒か点在している。


 やがて目星をつけたのか月菜さんが立ち上がる。


「こっちね。ついてきて」


 いくつか俺もサイトで下調べをしてはいたが、ここは月菜さんの食べたい物を食べてもらったほうがいいだろう。月菜さんについていく事にした。


「ここね」


「え?」


 食事のできる施設に向かっていると思っていたのだが月菜さんに連れられてきたのは芝生の広場だ。広場の中には家族連れやカップルがレジャーシートを広げて座っているのが見える。遠くのほうでは子供達がボールで遊んだりバドミントンをしたりしているのも見える。


 月菜さんは広場に入り、周りにあまり人のいないエリアで立ち止まると持っている大き目の鞄の中からレジャーシートを広げると靴を脱いでその上に座る。


「どうぞ、夏目君も座って」


「お邪魔します」


 月菜さんと向かいあうように座る。


「園内で食べれるって聞いて簡単な物だけどお弁当を作ってきたの」


 月菜さん手作りのお弁当!? 月菜さんが鞄の中からお弁当を取り出し、俺の前に広げると、中にはサンドウィッチが並べられていた。


 まさかの展開にびっくりして固まってしまった。


「迷惑だった??」


 月菜さんの声のトーンが少し落ちる。


「いやいやいや! 全然! 迷惑とかありえないし! めちゃくちゃ嬉しいよ!!」


 全力で手を振って否定する。


「そう、それならよかった。どうぞ召し上がれ」


 たまごサンド、ハムレタスサンド、ツナサンドにカツサンド。


 どれから食べようか迷い、まずはたまごサンドを手に取り、食べてみる。マヨネーズの和え具合、塩こしょうがいい塩梅で非常に美味しい。


「めちゃくちゃ美味しいよ」


「よかった。夏目君がどれくらい食べるのかわからなかったから多めに作ったの。好きなだけ食べてね」


 この前も月菜さんの料理を食べたけど月菜さんはほんとに料理が上手い。あれ? 前作ってたのは紫月さんだった。でも今回のサンドウィッチも絶品だ。


「ごちそうさまでした。はぁー……幸せ」


「ほんとに全部食べきったのね。無理しなくてよかったのよ?」


 少し驚いた様子の月菜さん。たしかにお腹はかなり膨れているが、無理はしていない。美味しくて思わず手が伸びてしまっていて気がつくと全て食べてしまっていた。


「いや、全く無理はしてないよ。美味しくて全部食べてしまった。月菜さんって料理上手だね」


「そう? 他の人に食べてもらう事なんかないからわからないけれど、毎日作ってれば少しは上手になるんじゃない?」


「毎日作ってるんだ?」


「誰かさんみたいに自炊しないのはお金がかかるから仕方なくよ」


「もしかして月菜さんって一人暮らしなの!?」


「そうよ、言ってなかった?」


 一人暮らしだったのか。ご両親は? と聞こうとしたが聞いてはいけないような気がして聞けなかった。


「でも一人暮らしだと大変なんじゃ?」


 普通に一人暮らしをするだけでも大変なのに、人格の交代なんかがあると自分が意識していない所で何をしているかもわからないし、日時の感覚もおかしくなりそう。月菜さんはそれを一人で管理しないといけないのだ。


「そうね、多分貴方が思っている以上に大変ね。そこは割り切るしかないんだけれど」


「だよね……」


「私を見守ってくれる人が傍にいてくれると違うんでしょうけど。まぁその話はいいわ。そろそろ行きましょ」


 そう言うと月菜さんは空になった弁当箱とシートを片付けていた。


 午後からは午前中に行ってない残りのエリアを回った。猛獣エリアでビビりながら餌やり体験を行ったし、動物とたくさん触れ合えるふれあい広場では月菜さんは乗馬の体験をしたり、小動物にエサをあげながらモフモフを満喫したり。普段は見せないような笑顔をたくさん見ることができた。


 結局閉園時間まで動物園を満喫し、帰路に就く。


 月菜さんの家は俺と同じ路線沿いにあるという事だったので帰りは一緒に帰る事になった。


「夏目君、今日は付き合ってくれてありがとう。動物園、なかなか楽しかったわ」


「楽しかったね、トラに餌をやるのはかなり怖かったけど」


 一日中歩いていたのでなかなか疲れたが、隣に座る月菜さんが満足してくれたのなら疲れた甲斐もある。


 電車に揺られていると視界の端に月菜さんの銀髪が見え、俺の肩に寄りかかってきた。


 何事!? 一瞬で思考がフリーズ。隣を見ると月菜さんは目を閉じて眠っていた。


 今日はたくさん歩いたし疲れたんだろう。なんだかいい匂いはするし心臓はドキドキしてるし……。動くと起こしてしまう可能性もあるので俺はそのまま固まってしまい、動けなくなってしまった。


 そのまま固まっていると乗り換えの駅が近づいてきたので月菜さんを起こす事にする。


「月菜さん、起きて」


「ん……、うーん……」


 月菜さんが俺の肩から顔をあげる、少し名残惜しい。


「そろそろ乗り換えだよ」


「あぁ……おはよう悠雅……」

お読みいただきありがとうございます。

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