第十二話 交換日記と動物園
──長い。
何が長いって休みが長い。今日は5月7日。明日まで休みだ。
休みの間にまとめて見ようと思っていたアニメは全て見終わり、積読状態だった漫画や小説も全て読んでしまった。
おまけに食糧も尽きた。3日に行った打ち上げの時に残った食材は二日後には全て平らげてしまい、昨日からは備蓄していたカップラーメンを食べたり出前を取っている。
8日まで家から出ないつもりでいたが、こうなってくると引き篭もるのも楽じゃないなと思う。
コンビニにでも行くかなぁと思っているとスマホにメッセージの着信があった。
『悠雅、何してる? 家にいるなら遊びに行ってもいいか?』
送信者は貴之だった。
「問題ない。どうせなら真吾も誘うか?」
『真吾は裏切り者だからダメだ』
裏切り者? 何の事だ? 家に来たときに聞けばいいか。
「了解。コンビニ弁当でいいから飯を買ってきてくれ。金は後で渡す」
貴之から了承のスタンプが届いていた。
それから約2時間後、俺はなぜか人で溢れているショッピングモールにいる……。
「それで、まずはどこの店に行くんだ? 荷物持ちは俺に任せてくれ! 俺が持ち切れなくなったら悠雅に持たせるし!」
荷物持ちがそんなに嬉しいのか、やたらとテンションの高い貴之。
「持ち切れなくなるほど沢山買い物してみたいけどねぇ……。そんなにお金ないから無理だよねぇ」
「そうね、一度でいいからそれくらい買い物してみたいわね」
隣にいる月菜さんに話しかけているのは梨愛だ。
貴之が家に来た後、梨愛から『何してる?』というメッセージがあったので貴之が家に来ていてゲームをしてると言うと、『暇だから私も遊びに行く』という返事があった。もちろんその後の貴之は梨愛に会えると言って大喜びだった。
その後オートロックのインターホンが鳴ったがゲームが盛り上がっていた為、相手が誰か確認せずに上がってくれと言うと、家に来たのはまさかの月菜さん。
そういえば昨日の夜、近々会って話をしたいとメッセージがあったんだった。用事で近くまで来ていたのでついでに寄ったらしい。
月菜さんが来たときには貴之はかなり驚いており「まさか……お前らまで……」と訳の分からない事を言っていた。
梨愛が家に来た後、貴之が家でゲームばかりするのも勿体ないからどっか出かけようぜと言い出し、梨愛の提案でショッピングモールに来たのだ。
貴之からメッセージがあった時には今日も家から出ずに過ごそうと思っていたのに気が付けばこんなに人で賑わっている場所に……。
貴之と梨愛はやたらとテンションが高く、先を行く梨愛を貴之が追いかけている。後ろにいる俺達は人込みをかき分けてなんとかついて行ってる状況だ。
そして気がついた時には二人とはぐれてしまっていた。
「あの二人はどこに行ったのかしら」
「人が多いのに二人で先に行きすぎなんだよ」
電話をしようとスマホを取り出すと貴之からメッセージが届いていた。
『梨愛ちゃんと二人の時間を楽しみたいから後で合流しようぜ。また後で連絡する』
さてはあいつわざと俺達とはぐれたな。
「貴之から連絡あって後で合流しようってさ」
「そう、貴方と話もしたかったからちょうどいいわ。少し落ち着けるとこに行きましょう」
月菜さんと俺は有名なコーヒーチェーン店に入って話をする事にした。
「それで、話っていうのは??」
月菜さんが話をしたいというのは十中八九菜月さん達の事だろう。
「これを見てもらえる?」
月菜さんは例のノートを取り出し、手渡してきた。菜月さん達と話をする為のノートだ。
「一番最後のページ」
「俺が見てもいいの?」
手渡してきたので問題ないとは思うが、一応確認をする。以前にも言ったが交換日記のようなものなのでプライベートな事も書かれているかもしれない。月菜さんは問題ないと頷いた。
ノートを半分くらいパラパラと進めると一番最後のページがあった。
『月菜ちゃん、こんにちは、あるいはこんばんは。菜月です。
悠雅君とお話してもらえたみたいだね。相談もなく勝手に悠雅君にお願いしてごめんね。
先に言うべきだったとは思うけど、伝える機会がなくて……。
私達も悠雅君の事は信頼できる男の子だと思っているからみんなで話し合ってお願いする事にしました。
いい子だと思うので月菜ちゃんも悠雅君と仲良くなってもらえるといいなぁ。
菜月より
葉月です。月菜ちゃん、いつもぴょん太のお世話してくれてありがと。
実は月菜ちゃんにどうしてもお願いしたい事があるの。
私どうしても一度動物園に行って見たくて、一緒に行きたいってゆーが君にお願いしたら「いいよ」って言ってくれたからゆーが君と動物園に行ってみたいんだけどダメかなぁ??
もちろん月菜ちゃんの身体を使って変な事したりなんかしないし、いろんな動物が見てみたいだけなの。
黙って行くのもなんか嫌なのでお願いする事にしました。どうかお願いします!
葉月』
最後にうさぎのイラストが描かれていた。葉月さんが描いたのだろうか? 割と上手い。
まぁそんな事はどうでもよくて、月菜さんの話というのはこの葉月さんが動物園に行きたいと言ってる件だろう。
顔を上げ、月菜さんの様子を伺うが、こちらをじっと見ているものの無表情で感情が読めない。
「まず確認するけど、この動物園に行く約束をしたっていうのは本当なの?」
「──はい」
たしかあの時は機会があればと答えた気がするが、約束と言えば約束だ。なんだか月菜さん、妙に圧がすごくて説教されている気分だ。
「これは私ではなくて葉月だと分かっていて約束したのよね?」
「そうですね……」
「ふーん……」
相変わらず無表情の月菜さん。
「……ごめん! この前月菜さんと話をする前に約束してしまったんだけど、その時はまだ月菜さんの気持ちも分かってなくて……。よく考えると自分の身体を使われて俺なんかと動物園に行かれるのは嫌だよね。ほんとごめん……。葉月さんには俺から断っておくから」
「はぁ……。まぁ一度だけならいいわ。葉月って動物好きなんでしょ? 私も動物は好きだし、一度でいいから動物園に行ってみたいって気持ちもわかるもの」
少し月菜さんの表情が少し和らいだ。でも一度でいいから行ってみたいって……。
「もしかして……月菜さん自身も動物園に行った事ないの?」
「さぁ? 行ってるかもしれないし行ってないかもしれない。私、中学校くらいまでの記憶がないの」




