第九話 部屋で二人
俺の両隣はあまりしゃべった事のない女の子達だったので、会話もあまりなく、食事に集中してしまった為、思わず食べ過ぎてしまった。
他のメンバーも同じような感じだったらしく、ようやく落ち着いた男子組で片付けを行った。ほとんどが使い捨ての食器だった為、片付け自体はそこまで時間はかからなった。余った食べ物は持ち帰るのも難しく、場所を提供したお礼と言うことで、俺がいただくことになった。
時間は14時。これからゲーム大会をするという事で、トランプやボードゲームを部屋に取りにいったついでに、ご飯を食べる間俺の部屋でお留守番をしていた猫の虎之介をリビングに連れて行く。
梨愛が久々に虎之介を見たいと言ったのだ。女子達が全員「かわいー!!!」と歓声を上げて抱っこしたり写真を撮りまくっていた。全身モフモフで人懐っこいのでこういうときには大人気だ。
虎之介もされるがままになっている。女の子達からモテモテで羨ましい。
その後はみんなでゲームをして過ごしていた。11人全員でできるゲームはなかったが、ペアを組んで戦ったりして思っていたよりも盛りあがっていた。
やがて夕方頃から時間の関係で帰る人達がいた為徐々に人数が減って行き、今は俺を含めて4人が残っている状況になった。
メンバーは俺、貴之、梨愛、陽向さんの4人だ。
貴之、梨愛はともかく陽向さんが残っているのは驚いた。帰る人がいて解散になった時点で一番に帰りそうなイメージだ。
貴之は梨愛が残っているから残っているのだろう。昨日ガンガン行くと宣言していたし、梨愛が帰るまではいるつもりに違いない。
梨愛は何故残っているのだろう? 単純に家が近いからかな? そこまで時間をかけずに帰れるし。
やはり陽向さんが残っている事が謎すぎる。
みんなで遊んでいた為また部屋が散らかっている。貴之の提案で4人で片付けを行う事になる。
「梨愛や陽向さんは料理も作ってもらったのに片付けまで手伝わせて悪いな」
「気にしないで。1人で片付けするの大変でしょ。4人で行えば早いし」
「そうね。あ、これはどこに片付けるの?」
陽向さんはボードゲームを片付けていた。
「それは俺の部屋だよ。後でまとめて持って行くからその辺に置いておいて」
「二人で行けば一度で終わるでしょ」
こちらを見て微笑む。陽向さんの微笑みを見るとふいに料理中の出来事を思い出してしまい、顔が熱くなるのがわかる。
確かに遊んでいる途中で漫画なども持って来ている為一度で全てを持っていくのは難しい。お言葉に甘えて一緒に運んでもらう事にした。
漫画等の重い物を俺が持ち、先に立って部屋に向かう。
「入っていい?」
俺が先に入ると入っていいか確認をしている。部屋は綺麗にしており、見られて困る物もしっかりと隠しているので入ってもらっても問題ない。もし部屋に誰かが入ったとしても大丈夫なように昨日部屋の中を掃除しておいてよかった。
「お邪魔しまーす。わぁ、割と綺麗にしてるのね」
陽向さんはキョロキョロと部屋の中を見渡している。それにしても女の子が自分の部屋にいるというのは変な感じだ。中学時代に梨愛も何度か家に遊びに来た事があるが、そのときもリビングでゲームをしていただけで俺の部屋には入った事がない。
陽向さんは持ってきたものを俺に渡すと部屋の中を物色するようにウロウロした後、ベッドに腰かけた。
自分の部屋のベッドに女の子が座っているというシチュエーションはかなりドキドキする。さっきと同じように顔が熱くなっている。顔が赤くなっていると思う。気付かれないように陽向さんのほうを見ないように持って来た物を片付ける。
「ねぇ……」
「ひ……ひゃい」
不意に後ろから耳元に声をかけられて思わず声が裏返ってしまった。耳に息がかかってゾクゾクした。
近くに来た事に全く気付かなかった。
「問題です。私は誰でしょう?」
振り返ると俺の目をまっすぐ見上げる陽向さん。
確かに月菜さんではなく他の人格かもしれないとは思った。だが動物好きの葉月さんにしては虎之介にそこまで関心を示していなかったし、聖月さんは真面目な性格の為味見の時のような事はしない。菜月さんかな? と一瞬思ったが声のトーンとか話し方が全く違う。目の前にいる陽向さんは仕草がいちいち色っぽく、しゃべり方さえも艶やかだ。
「わからない。……5番目の人格?」
「……フフッ、正解よ。これはご褒美」
陽向さんは俺の頬に唇を当てた。何が起こったかよくわからず思わず頬を押さえてしまう。
「反応が可愛いわね。私は紫月。よろしくね。じゃあまたね」
紫月さんは再びベッドに座ると目をしばらく閉じ、再び開けた。時間にして1秒か2秒くらいだろうか。
「はぁー。やっと引っ込んでくれた」
この喋り方は……。
「菜月さん?」
「お、せいかーい。正解のご褒美いる?」
菜月さんが目を閉じて唇を突き出しながらこっちに歩いてくる。
「いや……いらないです……」
「まぁ、冗談だけど。それにしても紫月はいきなり身体を乗っ取ったあげく抜け駆けまでして許せない」
身体を乗っ取る!? あまり穏やかじゃないな。
「あの、乗っ取ったってどういう事ですか?」
「あー、月菜が寝ている間にあの子が無理矢理表に出てずっと身体を使ってたの。それをすると月菜ちゃんに負担がかかるのよ……」
「え? 負担がかかるって陽向さんは大丈夫なんですか?」
「えぇ、何日も表に出てた訳じゃないから大丈夫」
紫月さん、行動もぶっとんでるけど危険人物な予感がする。
「紫月はわたし達の中で一番年上なんだけど、ちょっとアレなのよね……。悪い子じゃないんだけど……」
「え? 年齢がみんな違うんですか?」
「わたしは20歳、紫月は22歳、葉月と聖月は月菜やあなた達と同じ歳よ」
菜月さんも年上のお姉さんって感じはしてたけど、本当に年上だったんだ。実際に生きてる年齢よりも別の人格のほうが年上という状況が理解できないけど。
「それで、この間の話だけど、考えてくれた?」
この間の話というと、菜月さん達と陽向さんの間を取り持ってくれという話だろう。あれは断ろうと思っていた。
「だめかなぁ……? わたし達頼れる人がいないからさぁ。紫月みたいに暴走する奴もいるし……。それにやっぱり月菜の事が心配だから」
菜月さんは今にも泣きそうな顔だ。
「……まぁ、俺にできる範囲であればいいですよ」
陽向さんの為と言われると断り切れなかった。苦手なのは苦手だが、クラスメイトだし、最近何かと絡んでいるような気もするし。
気が付くと指で頬を抑えていた。いやいやいやいや、キスされたから陽向さんの事が気になってるとかでは断じてない…………はず。第一あれをしたのは陽向さんではなくて紫月さんだ。
俺の返事を聞いた菜月さんは満面の笑みで鼻歌を歌いながら部屋から出ていった。




