幸せなレベッカ… 日本政府所属?異世界航空自衛隊です! 外伝
ローマ帝国 ローマ
1100年前
「レベッカ、今後はあなたの番ね。」
「はい、わかっています…。Asia。」
「元気がなさそうね…まあ、確かに気が進まないのはわかってる。」
「いえっ、それもあなたも同じですよね。」
ローマ帝国は、繫栄をした。
そして、ついにこの日が来た。
Live Liberation Force…生命解放軍が定めた実験及び文明の到達地点にたどり着いたからだ。
その為、夢の魔女であるアージアから、火の魔女レベッカへと権限が渡される。
そして、ネロ・クラウディウスがローマ帝国にそれを伝えるのである。
「私は、レベッカ…あなたが羨ましい…だって、昇に会えるのでしょう?」
「はい、ですが…。」
「わかってる、彼がこの世界に来て、1秒よりも短い時間の中に私たちがこうして話しているのは、とても想像できないし、私にはよくわからない。夢の魔女として、記録を記憶として、演算して夢にする能力を持っていても私が、彼と会えるのは数百年後で、それも会えるのかもわからないまま戦場に行くなんて…。」
「私たちは、なんでこんなに報われないんですかね…。」
「そうね…。」
そういうと、アージアさんはどこか悲しげにあきらめたようにため息をついた。
「ねえ、レベッカ…あなたは、どこで昇と出会ったの?」
「私ですか?」
「えぇ…。最後に…っていうのも変ね。私がまた起きた時、あなたに会えるのかもわからないし…。」
「…わかりました。面白くはないかと思いますが…。」
私は、アージアに私と昇君のことについて、話した。
「私と昇君は、幼馴染でした。父が外交官で世界中を飛び回っていましたが、私と母は日本で暮らしていました。母は日本人で、私は日本の学校に通いました。昇さんのお父さんも外交官で、付き合いがあり、とても仲が良かったです。」
「そう…それで、結婚は?」
「結婚!いえ、私は…そこまで…。」
「そっか…あの娘達より、私たちは進んでいないのね…。」
「アージアさんも、なんですか?」
「…えぇ。」
アージアは、なぜかあまり思い出したくはなさそうだった。
「それで、小学校5年生の時に私はイタリアに帰ったんです。その間は、連絡もなくて…高校生の時に日本に戻った私は、昇君と再会しました。それで…付き合ってからまだ1月くらいです。」
「そう…あなたは帰ったら、昇にあえるのね…。」
「はい…。その…アージアさんは?」
アージアは、その言葉にとても悲しそうな顔をした。
レベッカは、触れてはいけないと思ったのだが…彼女は、エメラルドの瞳を歪め、栗色の髪を右手で撫でた。
「私は、帰っても昇には会えないの…。彼は、私も前で交通事故で死んだの…。」
「そんな…。」
「運転手は、酔っぱらっていて勤務態度は偽造されて過労だった…それでいて、心停止して昇と昇が助けようとした園児ともども、トラックのタイヤに飲み込まれて、電柱に…。即死だった…。けれど、それ以上に私は恨みをぶつける相手が居なかった…その会社の社員も警察に連れて行かれて、私には警察しか来なかった…だから、もう…戻って来ない…。」
アージアは、そこまで食いしばって言ったが、涙が溢れて嗚咽を漏らした。
「…昇…昇に会いたい…。死にたかった、夢で逢うだけじゃ嫌だった…。私の作った夢は、先が無い…続くことなく、終わりが来るの…。」
「アージア…。」
「あなたは、昇君と生きて…。ずっと手を繋いで、あなたが満足するまで…。」
「…なら、ずっと離せません…満足なんかしませんから…。」
レベッカは、崩れ落ちるアージアを抱きながら、彼女の背中に手をやり、腰を折った。
絨毯の敷かれた狭い部屋に、窓から夕焼けが差し込む。
(…昇君。)
レベッカは、不安を感じた。
それは、何度もあってそれ以上に忘れたくて、日常を当たり前だと思いたかった。
ただ、彼を失った時…私はどうするのだろうか?
失恋ではなく、本当の喪失…二度と立ち上がれず、前に進めなかったら…その時は…。
「…。」
レベッカは、アージアを強く抱いた。
数時間後
ついに、この日が来た。
『人口処理』、それは文明が高度に達した時、兵士と研究者のみしか必要としない、反経済活動の最高地点である。
既存の貧困層を絶滅させることにより、安定的な食糧供給と人口の維持により、経済的搾取を無くす、言わば共産主義であるが、自由経済の致命的な欠陥である、『経済循環の無い競争社会』の構築である。
その為、既存の日本型の社会保障システムの下層にあたる人々を殺すことにより、人々の最低水準を底上げし、切り捨てるシステムである。
搾取型の社会よりは良いが、人を殺す…つまり、労働者をも殺すことでもある。
LLFの実験として、またネロの能力による大量の人形…ロボットによる労働者の代替えにより、スムーズに行うことができ、その後形成された世界がどうなるのかをシュミレーションと比較し、観察を行うものである。
そして、今日…アージアがこの国を去り、LLFの航宙要塞内に格納され銀河へと飛び立った。
「…。」
「レベッカ、大丈夫かい?」
「はい、ネロ様…。」
「今は、ネロでいい。私達は、この世界では生きては無いが、今回はまだ始まりにすぎない…私と君の後にも、この世界の人々は…産まれる…いやっ、産まれはしない…魂がこの世界に囚われ、そして、また死に…エネルギーとして蓄積されるか、また転生する。この世界は、他の世界から生命を持ち込んで、殺して、世界を拡大する地獄だ。だが、それでも、見過ごしてはならずに向き合わなければならない…。」
「何にですか?」
「人々の死だ。」
「…ネロさん、アージアさんはこの世界の人々を殺すことにどう向き合ったんですか?」
「彼女は、最初は無感情に怒りをぶつけるようにナイフで人を刺していた…。おそらく、昇を殺した運転手や、その会社の従業員、その社会の人々に憎悪を抱きながら、何度も身体を刺して…汚く殺していった…。でも、それは仕方がないことだ。」
「ネロさんは、彼女をどう思ったんですか?」
「理解はできても、彼女の気持ちにはより添えないとわかっていた。けれど、彼女は気づいた。…こんなことをしても、昇には会えないと…でも、人を殺し続けた。」
「そんな…何故ですか?」
「昇には会えないから、綺麗に人を殺すようになった。悪夢で起こすのではなく、罪人や悪人…言い方は悪いが『反社会的人物』達にも幸せな夢を与えた上で、彼らを撃ったり、ナイフで刺したり、絞め殺したりした。」
「それは、悪いことでは…。」
「いやっ、この世界で私達の目的である『生命の解放』の答えとしてはとても正しかった。今日、炉に放り込まれた人々も彼女が夢で操りながら死へ導いた。それは、夢という脳内のシナプスや電気信号により非覚醒状態の人々を操る…ゾンビ化とも言える、過去の大規模な破壊ではなく、人を操作する…とても綺麗で…幸福な死を提供したとは言える。…だが、それは客観的なものだ。それは、彼女もわかっていた…。」
「ネロさん…私には、それでもどうしてアージアがそこまで、できたのかがわかりません。」
「簡単に言えば、アージアの場合は昇への愛だ。そして、それは自分が手にできなかった『昇と未来』を愛していたと言える。…彼が愛していたのは、彼女の世界の昇だけだった…それだけの理由だった。」
「ネロさん…私には、荷が重すぎますし、それに…。」
「大丈夫だ…ただ、君が昇のことが好きということだけあればいい、人は仕事で人を殺せるが、君の行動理念はそれでいい…それこそが君が志願してくれた理由じゃないのか
?」
「ネロさん…。」
「式は、明日だ…アージアから、プレゼントがあるかもな…では、また明日。」
「…。」
その夜、レベッカは幸せな夢を見たが、起きた時には覚えて居なかった。
でも、アージアがその夢をくれたのはわかった。
アージア、夢の魔女は数億の人々を最後に殺した悪い魔女ではなかった、他の世界で生きていて、目の前から消えた愛した人をずっと愛している人だった。
そして、私は1000年以上彼を待ち続けた。
それはそれは、とても幸せな千年だった。