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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第2.5話 魔女と日常の話]
99/369

怪獣と出会った少年

日常回夏休み編 1/10

ここから先はギャグ回含め全て三話に繋がる大事な話なので、箸休めではなく結構ガチめに読んでくださると嬉しいです

 魚か、肉か。肉か、魚か。新幹線ホームの駅弁屋で二つの弁当を手に持ちながら悩む。もちろんこの二つが全てじゃない。他にも魅力的な駅弁は山のようにある。でもサチに言われたんだ。『駅弁は一個まで』って、そう言われてしまったんだ。カップ麺事件があったあの日から、サチの食事管理がかなり徹底されるようになった気がして私は悲しい。悲しいよ。


「りいちゃんまだ? もう新幹線乗らないと!」


「ま、待ってください! あと一分……いや、三十秒!」


 いよいよタイムリミットが差し迫る。もう泣きそうだ。ドデカイ鮭の切り身が乗っていて、その上にこれでもかとばかりにいくらを散りばめたサーモンハラス弁当。ご飯の上に溢れんばかりの牛スキと牛タン(しかも国産)を敷き詰めた牛ぎゅう詰め弁当。この二つだ。この二つまで絞る事が出来たんだ。……でも、ダメだ。これ以上絞るなんて、そんな残酷な真似、私には出来ない。


 どっちを選べばいいのか悩みつつも、しかしその結果は分かりきっている。どっちを選ぼうが間違いなく私は後悔するんだ。例えばサーモンハラス弁当を選べば、完食した後に牛ぎゅう詰め弁当も食べたかったと私は泣くだろう。そしてそれは牛ぎゅう詰め弁当を選んでも同じ事。


 選択で迷った際は、後悔しない方を選ぶというバカみたいな解決策が世の中には存在する。本当バカみたいな解決策だと思う。じゃあどっちを選んでも後悔するのがわかり切っている選択なら、私はどっちを選べばいいんだっつうの⁉︎


「あと十秒で選ばなかったら買わないからね」


「そんな⁉︎」


 葛藤する私に追い討ちをかけるようにサチからそんな一言が投げつけられた。私は絶望しながらサチの方を振り向く。上半身を大きく捻らせながら振り向いた。するとどうだろう。勢いよく回転した私の肘が、商品棚に積み重ねられた駅弁タワーに衝突してしまったじゃないか。


 駅弁タワーは崩壊した。積み重ねられた弁当のうち、上から六つが地面に落ちる。それと同時に向けられる店員からの冷ややかな視線。サチは目を見開いていた。サチもまた絶望を味わっているらしい。


「あ、え、え、いや、いや、その……! か、買います! 買います買います! 落ちたの全部買います!」


 床に散らばった計六箱の弁当を拾い上げ、サチは突きつけるようにお金を支払った。そして私の手を引いて新幹線の中へと駆け込んだ。どちらかと言うと逃げ込んだという表現の方がぴったりだと思った。


「さ、サチ……ごめんなさい……っ! 私のせいで、私のせいでこんな無駄遣いを……。私、どうやって責任を取ればいいか……! う、うぅ……うっ……うっふっふっふっ……」


「嬉しそうだね」


 新幹線の座席につくや否や、やらかしてしまった罪悪感に打ちのめされる私に、サチは冷ややかな目線を送り続けた。


『お葬式、出るんですか?』


 例の訃報を受け取った日の夜。私はサチにそう問いかけた。


『出ないよ。あの人結婚してるもん。そこに元カノが出るってどうなの? ……まぁ、奥さんも亡くなったみたいだけど』


 サチの元カレとその奥さんの死因は知っている。銃殺だ。その物騒さからサチは二人の死因を隠し続けたけれど、一般人が銃殺なんて、そんな物騒な死に方をすれば当然ニュースで報道される。テレビやスマホに囲まれたこの時代でそのニュースを知らずに生きるのは不可能にも等しいと言えるだろう。


『はい! この話は終わり。明日のパーティーの』


『その人、地元の知り合いなんですよね?  なら元カノもクソもないと思うんですけど』


 サチは無理矢理この話を終わらせて、翌日に迫った私の誕生日に話題を切り替えようとした。まるで私の誕生日を都合の良い言い訳として利用されている気分だった。だから私も意地になっていたんだと思う。サチが変えた話題の矛先を無理矢理引き戻した。


『出ましょうよ。お葬式って一回しかないんですよ? 私の誕生日はこれから先何度もあるのに』


『ないよ』


 が、サチもサチでそんな簡単には引いてはくれなかった。


『そりゃありいちゃんにとっては何回もあるだろうけど、私にとっては最後の一回なんだよ。わかってるでしょ?』


 言葉に詰まった。確かにその通りだ。最後の一回になるこの誕生日を、サチは心の底から祝いたいと思ってくれている。祝ってくれる人がいるって、とても幸せな事だと思う。……でも。


『でも私は生きています』


 それでも私はサチの言葉に甘えるわけにはいかない。


『お葬式と違って、誕生日パーティーは延期するとか、そういう裏技だって使えるじゃないですか』


 ここでサチの好意に甘えたら、それこそ最後の誕生日パーティーが最悪な誕生日パーティーになるはずだど、そう思った。


『パーティーはまた別の日にやればいいんです。そうだ、ダイチが退院タイミングとかであいつも誘ってやりましょうよ! それがいいじゃないですか! ……ていうかまぁ、ぶっちゃけますけど』


 その根拠はサチの表情にある。


『そんな顔したサチに祝われても、ちっとも嬉しくない』


 なんともないように装っているけど、サチが動揺しているのは丸わかりだった。何年一緒に住んでいると思ってるんだ。


 そんなやり取りから二週間が経った。二週間も経ってしまった。というのも、全ての原因はサチの元カレ夫婦の死因にあった。なんせ一般市民が銃で撃たれたわけだ。犯罪性を匂わす遺体は簡単には遺族の元へは戻らない。事件の調査の為に警察に保管され、司法解剖を受け、そして数日を経てようやく遺族の元へと返却されるからだ。それでも本当ならたったの数日で返却されるはずだったけれど、しかしサチの元カレ夫妻の場合はそうはいかなかった。これは悪いと思いつつも、好奇心に打ち負けてサチの通話を魔法で盗み聞きした内容だ。


 二人の遺体には不審な点があったらしい。遺体には銃痕があったものの、銃弾が貫通した痕跡は見当たらなかった。つまり凶器となった銃弾は彼らの体内に存在しなければならないのだ。なのに彼らの体内からは銃弾が検出されなかったらしい。弾丸に抉り取られた穴は確かに残っているのに、肝心の弾丸だけが綺麗さっぱり体内から姿を消していたのだそうだ。それが司法解剖に二週間も時間を要した原因だった。


 おかげで時期は夏休みに突入してしまった。夏場に遺体を二週間も解剖していたわけだ。流石に葬儀の為に防腐処理くらいはされていると思うけど、二週間も切り刻まれた家族の遺体と対面する家族の気持ちを思うとな……。まぁでも。


「サチ」


「何? 新幹線凄い硬いアイスは買わないよ? お弁当そんなに買ったんだから」


「そうじゃなくて……いやそれもあるんですけど今はそっちじゃなくて」


 私はサチの顔色を見ながら呟いた。


「二週間前よりは落ち着いたみたいでよかったです」


「……そうだね。言われてみれば確かに自分でもびっくりするくらい落ち着いているかも。訃報を聞いた時はあんなにショックだったのに。十年も音信不通だとこんなもんなのかな」


「お葬式は出られそうですか?」


「うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」


「ならよかったです」


 私は駅弁一箱目を完食した。


「お葬式の流れ、私にも教えてくださいね? 私こう言うの初めてなんですから」


「え、何で? 別にりいちゃんは出なくていいよ。出るのは私とお父さんとお母さんだけ」


「そうなんですか? 私完全に参加するつもりで着いて来たんですけど」


「違うよ。小学生一人を置いていくわけにはいかないから連れて来たの。りいちゃんはうちでフクと待ってて?」


「フク……」


 私は駅弁二箱目を完食した。


「サチの弟なんですよね?」


「うん。歳の離れた高三の可愛い弟。フクも元カレとは面識がないからね。そう言えば今日って夏祭りとかやってたかも。お通夜の間フクと一緒に行っておいでよ」


「夏祭り!」


「屋台のご飯も東京に比べてすっごく安いよ」


「へー! ヤクザ探しが捗りますね!」


「やめてね」


 私は駅弁三箱目を完食した。


「ちなみにフクってどんな人なんですか?」


「どんな人……か。うーん……。そうだなぁ……。んー……。菩薩? いや、僧侶?」


「何言ってるんですか?」


「りいちゃんも一目見れば分かるよ。いつもニコニコしててさ、私あの子の怒ってる姿とか一度も見た事がないもん」


「へー、サチの実家とか荒らしても怒りませんかね?」


「私が怒るよ」


 私は駅弁四箱目を完食した。……やば、三箱目まで余裕だと思ってたのに急に満腹感が来やがったな。でも上等だ。むしろここからが面白くなって来た所よ。私は五箱目の駅弁に手を伸ばし。


「こら」


 しかしその手をサチに叩かれた。


「りいちゃん! いつの間に四つも食べたの⁉︎ お腹大変な事になってるじゃん!」


「だって……景色を見ながら食べるお弁当が美味しくて……」


「ここまだ東京なんだけど何の景色を楽しんでたの? せめて東京出るまで我慢出来なかったかなぁ……。とにかくもうダメだからね?」


「そんなぁ……! せめて富士山が近づいた時に食べさせてください……」


「近づかないよ。北上してるんだよ。東北新幹線だよこれ。もう、また太ったらどうするの? 向こうに着くまでは何も食べさせません」


「新幹線凄い硬いアイスもですか……?」


「新幹線凄い硬いアイスもです」


 私はガッツリと肩を落とした。そのまま無言の時間がしばらく過ぎ去る。具体的には胃の中で消化が進み、ちょうどアイス一個分の空きが生まれるまでの時間だ。消化が進み、程よい空腹感を覚えた辺りで、コツコツと何者が歩み寄る音と台車を転がす音が同時に近づいて来たのを私の耳は聞き逃さなかった。


 でも、それだけだ。聞き逃さなかっただけ。サチは言った。新幹線凄い硬いアイスは食べさせないと。私はもうそのアイスを口にする事は出来ないんだ。楽しみだったなぁ……。新幹線の中で食べる駅弁と同じくらい、新幹線の中で食べる新幹線凄い硬いアイスが楽しみだったなぁ……。本当に楽しいみだったなぁ……。


「……うっ……うぅ……っ」


「り、りいちゃん⁉︎ ちょっと! 何で泣いてるの⁉︎」


「だって……楽しみだったから……新幹線で食べるアイス……とても楽しみだっだがらぁ……! あーっ……!」


「わかった! わかったから! あのすみません! アイスクリーム一つください! 味は?」


「バニラとストロベリーと抹茶……っ」


「一応聞くけどそれ嘘泣きじゃないよね……?」


「あぁぁぁ……っ、あっ、あっ……! うぅぅ……っ!」


「わかった、わかった、わかった」


 アイスを買った時、何故かサチも半泣きになっていた。やっぱり私達って血が繋がってないだけの似た物親子なんだなと改めて思った新幹線での出来事。

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