暇つぶし
三話までしばしの日常回 5/20
右目を閉じる。
「……」
右目を開けて左目を閉じる。
「……」
左目を開けて右目を閉じる。
「……やっぱ視力落ちてる」
その日、私は視力の左右差を認識した。普段片目で生きる事なんてないからだろうか。片方の視力が極端に落ちても、両目で生活していたら片方の視力がもう片方の視力を補完してくれるようで、私はこの数日間特別生活に不便を感じたりはしなかった。でもふとした瞬間に違和感に気づき片目ずつの視力を試してみたら、結果はこの通りだった。私は右目の視力が落ちている。
原因は明白だ。ダイチを治そうとして失敗したんだ。
あの日、私はダイチの怪我は綺麗さっぱり治したつもりだった。打撲も、脱臼も、骨折も。やれる限りの事はやり尽くしたと思う。でもその中に一つ、治し方の知らない怪我が存在していた。それがダイチに右目だ。あいつの右目はクソジジイの猛攻に耐えきれず、弾けてしまっていたんだ。
破裂した眼球の治し方なんて私は知らない。そもそもこの世界の技術でも出来る事じゃないだろう。そんな高度な魔法は私には無理だ。それでも私は一筋の望みをかけて治癒魔法をかけた。自分の実力を超えた魔法を行使した。そんな魔法に失敗した時の代償は魔法の不発か、私の望まない形に魔法が働くか、もしくは私に何らかの不幸が跳ね返るかのどれか。どうやら私は跳ね返った不幸に視力を奪われてしまったらしい。
魔法の精度は魔女のスペックに依存する、か。魔法とは魔法を使わなくても実現可能な事象程成功しやすく、奇跡や魔法に頼らなければならない事象程失敗しやすい。それでも魔法で奇跡を引き起こしたいなら方法は三つ。魔法の質を落とすか、複数の魔法をかけ合わせるか、或いは道具や行動で魔法のサポートをするか。
私はこれまでそれらの方法を使う事で奇跡レベルの魔法を何度も行使してきた。サチと触れている間だけ心が読める魔法、体の一部だけを猫化させる魔法、スマホの地図機能でサポートした探索魔法、などなど。
「……」
でもな、ふと思うんだよ。例えばサチと触れている間だけ心が読める魔法。あれは読心魔法の質を下げたものだ。でも、いくら質を下げたからと言ってテレパシーという奇跡を体現している事に違いはない。相手に触れている間しか作用しなかろうが、それは魔法なしではあり得ない十分過ぎる奇跡だ。
魔法って一体なんなんだろう。上位階級の魔女達なら、その秘密も知っているんだろうか。
◇◆◇◆
「人族のお嬢ちゃんがこんな所に何の用だい? ここには人族に恨みを持った連中がわんさかいるぞ。痛い目見ないうちにとっとと帰んな」
「えぇ、そのようね。ご忠告どうもありがとう」
私は周囲から一斉に向けられる殺気と、その中で唯一私の身を案じてくれた鼠族の彼の好意に甘えて静かにこの街を去る事にした。
「面倒な世界ね。ここって」
「そうですねー。でも優しい人もいっぱいいるんですよ?」
「その人達はあなたが猫族に化けていなくても優しくしてくれるの?」
「あー……、そうですね。ちょっと自信はないです。でもモキチさん達は優しくしてくれますよ?」
「あなたにだけ、でしょ?」
「はい」
ミーはそう言うと、周囲に人の目がないのを確認して猫化の変身魔法を解いた。
「先生は嫌ですか? 私が劣等種のモキチさん達の為に魔法を使うの」
「……一応確認しておくけど、あなたあの馬族のパートナーが好きなのよね?」
「はい! 大好きです! もしもこの世界で暮らし続けられるなら、将来はモキチさんのお嫁さんになりたいなーって何度も思ってるんですよ?」
ミーは恥ずかしそうに頬を赤らめる。彼女がそのモキチという馬族のパートナーに好意を抱いているのは紛れもない事実だろう。事実だろうけれど。
「……そう。それでその馬族の彼は劣等種なの?」
「劣等種です!」
ミーはとても純粋無垢な子供らしい笑顔でそう答えた。
「別にパートナーの為に魔法を使う事に文句はないわ。あなたの自由にすればいい。バレなければね?」
「心配してくれてありがとうございます、先生。でもあの人達みんな私より頭が悪いから大丈夫ですよ?」
「……あ、そ」
私はミーの話にため息を漏らした。
この世界はホリーの世界とよく似ている。支配者の種族が複数いるだけで、他はホリーの世界と瓜二つと言っても過言ではない。ただ、この世界だけに存在する独自の要素として、知能を司る遺伝子というものが存在していた。
この遺伝子を優性遺伝(近頃は顕性遺伝と呼ぶのかしら)として引き継いだ動物は二足歩行で歩き、器用に動く指を獲得し、そして呂律の回る舌を手に入れ会話する事が出来る。対してこの遺伝子を劣性遺伝(これも最近だと潜性遺伝と呼ぶらしいわね)で引き継いだ動物は四足歩行で歩き、手足も種族独自の物を持ち、また舌の構造も単純で言葉を発せずに鳴き声を放つ。
故にこの世界では差別が区別のように行われているのだ。同じ牛族でも優性の牛は人としての生活が約束されるものの、劣性の牛は家畜として育てられた後に肉食動物の餌として屠殺される。優性の牛と劣性の牛同士で繁殖する事が出来るにも関わらずだ。
そしてそんな差別の蔓延ったこの世界で種族の頂点に君臨するのが人族である。彼らは最もこの世界を発展させた功労者であり、なおかつ劣性遺伝で生まれても意思疎通が可能な知能を有する種族だからだ。ミーが自分のパートナーでさえ劣等種と呼ぶのは、きっとそんな環境による影響が大部分を占めているのだろう。
……と、その時。ミーのポケットの中からこの世界の通信機器であるスマートフォンが鳴り出した。
「あ、もしもしモキチさん? 今? 魔界の先生とお話してるよー。……え? アパートに行ったら債務者が夜逃げしてた? わわ、大変だ。すぐに追い詰めるから任せて。うん。はーい。……あー、うん。この前はへましちゃってごめんなさい。大丈夫、今度はしっかり五体満足で捕まえておくから」
「……」
本当に環境のせいなのだろうか。この子が人を見下すその素質は生まれ持った才能のような気がして来た。
「あの、先生。そういうわけだから私そろそろ行かなきゃ」
「そう。行ってらっしゃい。まぁほどほどにね? 私もそろそろガッキーの所へ行くわ」
「え? でも先生、ここでビタミンステーキ食べただけですよね?」
「監督役はテストの判定と課題の評価さえしていれば他は基本自由なの。私が監督役でいられるのもあと一年だし、今は最後の思い出作りにあなた達の世界を観光中」
「へー。暇人なんですね」
「……」
やっぱり持って生まれた素質だわね、これ。
食べられる宝石。私がガッキーの世界に来た目的は、そのデザートを食す為だった。ミーの世界で食べたビタミンステーキは、肉を加熱調理しているにも関わらず、肉食動物の為にビタミンを大量に含んだ状態で提供されている。雑食動物の私からしたらそれはサラダとメインディッシュを同時に摂取したにも等しく、そうなって来ると最後の口直しにデザートもいただきたくなるものだ。何よりこの世界特有の食べられる宝石って、魔女スタグラムにアップした時の反応が一番いいのよね。
私は喫茶店のテーブル席に腰を下ろし、この世界の新聞を読みながら宝石のケーキを注文した。さっきはたまたまミーと出会したけど、この世界ではわざわざガッキーと会う必要もなさそうだわ。あの子とホリーは頭が悪いから一緒に会話してるとたまにイラッて来るのよ。……それに。
喫茶店の隅っこに設置されたテレビに視線を向ける。そこでは今世紀最大の発明王へのインタビューが放送されていた。
『あ、あの! その! あの! これはあたしが作った発明! 第百二十号で! そ、その名もステータスオープンモニター! です! これをつ、使うと! 人間の様々な能力を数値化! して見れて! 他にも職業や! 得意な錬金術とか! ……と、得意な! 錬金術……とか! ……う、……おばあちゃーーーーん!』
テレビの中でガッキーは多くの視線に耐えかね、大泣きしながら観覧者席に座るパートナーの老婆の元へと駆けて行った。あの子ったらまた魔法を錬金術だと偽って色々と……。
……まぁ。それもあながち間違いでもないのだけれど。
ガッキーの留学先は、科学の発達したホリーやミーの世界とは遠く駆け離れた錬金術の世界。 というわけではない。むしろこの世界はミーの世界よりもよっぽどホリーの世界に近い世界だ。
ホリーの世界は比較的科学技術の進歩が緩やかである。それは何故か? アリストテレスという多大な影響力を秘めた哲学者が原子の存在を否定し、錬金術という夢物語を信じたからだ。彼の影響は遥か後世にまで及び、その結果人類の文明は二千年以上もの間停滞する事になる。存在しない錬金術の為に多大な時間を浪費する事となる。
もちろんその全てが無駄になったわけではない。錬金術を研究する過程で現代科学に用いられる数多くの発見がされたし、何より錬金術が存在しない証明という悪魔の証明にも近い偉業を人類は成し遂げたのだ。あの世界はこれからも加速度的に文明が発達する事だろう。そのまま精霊の存在に気づかず、科学の発展だけに力を注いでくれる事をただただ願うばかりだ。
……が、それはホリーの世界に限った話である。錬金術は存在しない。Aという原子は未来永劫Aであり、決してBという原子にはなり得ない。しかしガッキーのいるこの世界はそれを可能としている。この世界では錬金術が実在しているのだ。それは何故か?
答えは簡単だ。この世界におけるアリストテレスの弟子の中に、精霊の姿を視認出来る霊能力者が存在したからだ。
もしも弟子ではなく、世間へ多大な影響力を持つアリストテレスに霊能力があれば、この世界はきっと魔法の発達した魔界同様の世界になっていたに違いないだろう。しかし不幸中の幸いにも、霊能力を持っていたのは発言力の低い弟子の一人に過ぎなかった。
弟子のおかげでアリストテレスは数度の奇跡と遭遇した事だろう。その数度の奇跡が積み重なった結果がこの世界なのだ。
ガッキーが魔法を使っていた事にホリーは不服気味だったけれど、あれは別にガッキーを贔屓したわけではない。錬金術は紛れもなく魔法なのだ。この世界は謂わば魔法に気づきかけている世界。その奇跡の力が錬金術だけではなく、ありとあらゆる事象に応用出来ると権力者が気付けば……。
私は誇らしげにインタビューに答えるガッキーを見ながらこの世界の将来を憂う。彼女が魔法を錬金術と言い張って行使するのは彼女の自由だ。しかし彼女の功績が目立ち過ぎた結果、もしもこの世界の住人が魔法の存在に気付いたら。魔法が錬金術においてではなく、ありとあらゆる分野に応用可能な万能な力である事に気がついたら。精霊の独占を目論む魔界から使者が派遣され、多くの人々が魔法の記憶諸共命を絶つ事になるだろう。
ノア。魔法の機密維持を目的とした魔界の暗部組織。確かホリーの世界にもかつてノアの執行官が一人派遣されたと聞く。中世の時代だったかしら。神への信仰と悪魔崇拝が渦巻く暗黒の時代。精霊の存在と魔法への流用に気付いた者が多数現れた時代。魔界はそんな世界に危機感を覚え、感染症や毒物の扱いに長けた魔女を一人あの世界へ派遣した。
彼女はペストと呼ばれる、ノミとネズミを媒介した感染症をばら撒く事であの世界の人口を30%程殺し尽くした。また当時の世界情勢にも関与し、宗教戦争や魔女狩りを頻発させる事で魔法の存在を信じる者を徹底的に炙り出し、そしてあの世界からは魔法への信仰が激減したのだ。
ガッキー。あなたが今している事はそう言う事よ。確かに来年の四月になれば、あなたはこの世界から自分の存在した痕跡を消す事になるけれど。もしもそれまでにこの世界の誰かが魔法の存在に気がついたら……。
この世界は変わらず注意が必要ね。
「お待たせしました。ルビーストロベリーのショートケーキです」
「ありがとう。これはチップよ」
私はデザートを食べながら次の暇つぶしについて考える。
そして次に私がやって来たのは、卒業試験のその日まで二度と足を踏み入れる事はないであろうと思っていた世界一つまらない世界だった。そんな世界に何故私が足を踏み入れたのかと言うと、やはりきっかけは例の報告会。
私はてっきり、リジーは卒業試験のその日まで孤独に生命活動を続けるだけだと思っていた。仮にあの子がその選択をしていれば、きっと友達作りの五次試験も、自分を知る者から自分の記憶を消す卒業試験も免除されていたに違いない。こんなクソみたいな環境で六年も生き続けたなら、それだけで上級魔女の素質は十分にあるのだから。
しかしあの子はそれを選ばなかった。友を作り、卒業までに知的生命体を作るとまで言い放ったのだ。
今、私の目の前を巨大な生物が横切った。私はその生物をミーとホリーの世界で見た事がある。あれは象だ。しかし、私の知る象はもっと体毛が薄く、岩のようなゴツい肌を剥き出しにしていたはず。なのにこの象は全身が体毛に覆われていて……、これはいわゆる。
「……マンモス」
マンモスの巨大な足が私の頭上に迫る。私は魔書を取り出し、残り僅かとなった今月分の魔法の中からそれを選んだ。
「ザロン」
そして。
「おーよしよし……ちゃんと飲んで偉いな……。あ、こら……。お兄ちゃんいじめちゃダメだろ……? めっ、だぞ、めっ……って」
私はリジーの元まで飛んだのだけれど。
「あれ……。先生……? 何してんの……?」
「こっちのセリフよ」
私は二人の赤子の世話をするリジーを見ながらそう尋ね返した。
「その子達は?」
「あぁ……。聞いてくれよ先生……。私、とうとうやり遂げだんだ……。この惑星初の人類だ……。名前は……そうだな……とりあえずイダムとアヴって名付ける事に……」
と、リジーが言いかけたその時。私達の足元に十字型の巨大な影が生まれる。驚いて上空に視線を向けると、巨大な翼竜が獲物を狩りとらんと空から急下降していた。非常にまずい状況だ。なんせ今の私に使える戦闘用の魔法は残りたったの一つ。これを使った上でまた命の危機に晒されてしまえば、その時はもう……。
「ドンタス……」
……なんて心配したのも束の間の事。リジーはすかさず自分の魔書を取り出し、そして精霊の名を呟いた。精霊の名だけを呟いた。その瞬間、何かが起きる。その現象が突風だと気づくのには少しばかりの時間を要した。何故なら突風が吹いているのは私達の頭上、翼竜が存在するごく限られた領域だけだったから。私達が立つ地上は、今までと変わらずとても穏やかな無風状態。翼竜だけが突風に押し負け、遥か彼方へと飛ばされて行った。
「悪いね翼竜くん……。ご飯なら他を当たってくれ……」
余裕の笑みを浮かべるリジーに、私は固唾を飲まざるを得ない。この子は上級魔女が最初に覚える呪文詠唱の省略を、留学生の身でありながらマスターしていた。それにさっきの魔法の威力と応用力……。
月末である今、魔法に特別な縛りを設けている私は魔女界最弱の魔女と言っても差し支えないだろう。けれど仮に私が万全な状態だったとしてもこの子は……。
「マンモスに翼竜に人間。それに周りの植物も多種多様ね。生まれる時代がバラバラ過ぎない?」
私は少しでも大人の威厳を保つ為に、余裕を含んだ表情でそんな強がりを言う他なかった。
「いやーお恥ずかしい……。人族を誕生させるのに集中していてその他生物が疎かになってたよ……。あ、そうだ先生。ここで会えたのも何かの縁だし、一ついいかな……?」
「何?」
「その……なんだ。別に無理なら無理でいいんだけど……もし許してもらえるなら、この二人を私のパートナーって事に出来ないかな……?」
「どういうこと?」
「ほら……。私達のパートナーって、別れる時に願いを叶えて貰えるらしいじゃないか……。私にはパートナーになれる相手がいなかったけど、でも今ならいる……。この子達は……その、私が勝手に生み出しちゃった命だろ……? 私がいなくなった後もこの子達が強く生きていけるよう、力になってあげたい……」
リジーは恥ずかしそうにもじもじと視線を逸らしたり合わせたりを繰り返しながら、私にそんなお願いを持ちかけた。私は懐から冊子を取り出し、リジーの前に差し出す。
「パートナー自体は後からでも変更は可能よ。留学中に不仲になったり、パートナーが亡くなったり、不慮の事故は付き物だもの。ただし、パートナーになれるのは魔女の子一人につき一人までっていう決まりもあるわ。どうするの?」
「えーっと……一応神話に擬えて、イダムの肋骨からアヴを作ったんだ……。だからこの二人は同一人物って事で……どうっすか……?」
「……」
「ダメっすか……?」
私はため息を吐きながら冊子を明け渡した。
「ギリセーフとします」
「わ……! ありがと……」
もしかしたら私、ガッキーの魔法の件も彼女を甘やかしたくて不問にしたんじゃないかしら。そう思えて仕方がない。
「あなた、これからどうするつもり?」
「そうだね……。とりあえず今は時間を早送りにしながら進化の行く末を見守っているよ……。でも、この子達がある程度育ったら時間を元に戻すつもりさ……。それまではゆっくりコミュニケーションを取って行こうと思う……」
「ご飯とかはちゃんとあげてるの?」
「勿論ですとも……。栄養面にぬかりはゼロ……。完全栄養食を合成して毎日欠かさず与えてるよ……」
「母乳は?」
「……え?」
「母乳よ母乳。そのくらいの歳の子にとって母乳が大切なのは知ってるでしょ? 赤ちゃんはお母さんの母乳から抗体を受け取るの。栄養だけ与えて育てたら病気にかかりやすくなるんじゃない? それとも一生無菌室で育てるつもり? あなたがこの世界を去った後も?」
私に促され、はっとしたように慌てるリジー。
「私とした事が……。確かにそうだ……。よーし、待ってろよ我が子達……」
するとリジーは何処からともなくレイピアのような長い金属棒を取り出し、それを自分のこめかみと下腹部に突き刺した。突き刺さる位置的にその金属棒は下垂体と視床下部、そして卵巣に直接刺しこまれているのだろう。母乳の分泌に重要な働きを促すのが、卵巣から分泌される妊娠維持ホルモン・プロゲストロンの濃度を下げる事と、下垂体及び視床下部から分泌されるプロラクチンとオキシトシンの濃度を上げる事。こんな直接的なやり方は見た事がないけれど……。
ふと、リジーと目が合う。リジーは血の涙を流す不気味な瞳で私の姿を捉えていた。リジーから流れた血の涙は彼女の頬を伝って顎に溜まり、そして一滴ずつ落下していく。リジーはその雫を哺乳瓶にかき集めていた。血の雫は哺乳瓶に入ると瞬時に乳白色へと染まる。自分の血液から直接母乳成分だけを取り出しているのか。そんな遠回りなやり方で母乳なんか作って。
「もっと普通に母乳は作れないの……?」
「えっえっえっ……、出来るけど私まだ九歳ですよ……? 絵的にまずいでしょ……?」
今の光景も十分すぎる程まずいと思うのだけれど、そう思ってしまう私の方がおかしいのかしら。
「あ……、でも先生は大人だね。元々大人な先生を母乳がでるように改造するなら別に問題ないか……?」
「……」
「えっえっえっえっ……。冗談だよ冗談……お茶目で可愛いだろ……? あれ……? どこ行くの先生……? 待ってくれよ、折角来たんだしせめてお茶だけでも飲んでけって……。待って……、待って先生……! 私寂しいんだ……! こいつらはまだ話せないんだ……! 先生……! 先生ーーーー………っ!」
さて。次の暇つぶしは何処にしようかしら。ミーの世界に行って、ガッキーの世界に行って、リジーの世界にも行って。となると次は……。
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