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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第三章 失った魔女
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仲の良い他人

「俺もちょっと気味悪く思ってる。そりゃ小さい頃はよく面倒見てやったし、あいつもひょこひょこ俺の後をついて来たもんだけどよ。にしたって七年ぶりの再会で昔みたいに懐くもんか? 親が離婚した時も、さっきも、俺あいつに結構エグい事したと思うんだけど」


「さっき?」


 私がそう問い返すと、ダイチはバツが悪そうに


「……ほら、ゲームで手加減しないでぶちのめしたろ」


 なんて、まるで今取ってつけたような言い訳にも近い口調で答える。言うてこいつ、そんなアキが悲しむレベルでぶちのめしていたようには見えなかったけど。


「んー。私は二人の事よく知らないから絶対にこうだ! って言い切る事は出来ないけど。アキちゃんにとってのダイチくんって、お兄ちゃんじゃなくてお母さんなのかもね」


 意外な事に、そんなダイチの疑問に答えたのはこの中で最もダイチやアキとの関わりが薄いサチだった。……いや、意外な事にって程でもないか。サチは困っている人がいれば、例えそれが憎い相手でも構わず手を差しのべる気がする。例えそれが私達の関係を一時的にズタボロにしたきっかけを作ったアイスだろうと、サチなら迷わず助けるような気がするんだ。それが私の知る、私が好きなサチの人間性だから。


「子供にする話でもないんだけどね。例えば夫婦が離婚したとして、離婚の原因がお母さんにあったとしても、子供はお母さんが引き取る形になる事がほとんどなの。世間じゃ女の人もどんどん働くようになったとは言え、それでもやっぱり子育てをする時間ってパパよりママの方が何倍も長いでしょ? だからどうしても子供はパパよりママを親として認識しちゃう傾向が強いの。動物の子供は親に依存しないと生きていけないから、子供が親に抱く信頼って本当に凄いんだよ? 虐待されても母親離れ出来ない子供だって珍しくないもん」


 そんなサチの説明にはどこか思い当たる所があった。私はあれを虐待だとは思わないけれど。今となっては虐待どころかサチなりの愛情だとしっかり受け止めてはいるけれも。それでも一時的にとは言え、私はサチを心底嫌いになってしまった事があるから。それでも今、こうして私はサチの事をより一層好きになってしまっているけれど。


「ダイチくんがどれだけアキちゃんの面倒を見ていたのかはわからないけど、あり得ない事じゃないと思う。……まぁ」


 サチはいつもと同じ、余裕と慈愛に満ちた大人の笑顔で淡々とダイチの疑問に答えていたものの。


「それはアキちゃんが小さい頃にダイチくんから受けた以上の愛情を、誰からも受けていないのが前提になるけどね」


 その目が笑っていないのは、サチと五年も共に暮らしている私には容易に理解出来た。


「アキちゃんの服、すごいしわくちゃだったね。何日同じ服を着続けたらあーなるんだろ」


「……」


 言われてみればアキの服、昨日と全く同じだったような……。いや、でもそんなまさか。だって私は昨日アキの親父さんを見たじゃないか。確かに貧乏ではあるだろうけど、あの人は自分の娘の為に私みたいな子供相手に頭を下げられるような大人じゃないか。あんな人、私この五年間で一度も見た事がねえよ。


 だからサチ……、その笑顔と目つきが一致しない怖い顔やめて欲しいな。私、サチの事は好きだけどサチのその顔は嫌いだ。アイスの一件があってから、サチのその顔は二度と見たくないって、心の底からそう思っている。


「は、はい! サチもあーん」


 私はサチの表情を無理矢理笑顔に引き戻すべく、さっきサチからして貰ったように、お肉を箸で掴んでサチの口目掛けて差し出した。


「あーん。んー! 美味しい!」


 サチは素直に私からの肉を頬張り、私を抱きしめ頬擦りする形でその美味しさを存分に表現した。


「だから仲良過ぎてキモいっつうの」


「うるせえカス! 仲良くて何が悪いんだよ」


 ダイチのクソ野郎だけは余計だったものの、しかし今のサチの瞳は嘘偽りなくしっかりと笑っている。その事実だけで私の安堵は十分に守られたよ。


「いつまでその仲良しごっこが続くか見ものだな。例えばおばさん、押したら自分が百円貰える代わりに有生が百万円貰えるスイッチと、押したら自分が百円失う代わりに有生が百万円借金するスイッチがあったらどっち押します?」


 私達の仲睦まじい姿によっぽど嫉妬しているんだろう。私達の関係を引き裂こうとしている魂胆が丸見えなくだらないない質問をダイチが投げてきた。そんな事、わざわざ聞かなくてもサチの答えは丸わかりだっての。


「うん? そうだねー……。貰える方のスイッチを押して、私の百円もりいちゃんにあげるかな?」


「サチ……!」


「りいちゃん」


 いや、そんな事はなかった。何が丸わかりだよ。サチをわかった気でいるとかどんだけ自惚れてんだ私は。サチ、まさか私に百万円くれるどころか自分の百円までくれようとするなんて……。


「「ねー?」」


 私達は互いに同意し合った。そんな私達の清く美しい愛のやり取りを見ながら鳥肌をさすっているダイチは意味不明だった。死ねと思った。


「ダイチくんは押さないの? お母さんに百万円あげられるスイッチがあったら」


 もういっそこのままダイチの事は無視して、サチとイチャイチャしながらすき焼きを食べたい気分だったけど、本当にサチはお節介な人だと思う。二人で楽しく食事を続けておけばいいのに、わざわざダイチに話を振るような事なんかして。


「はぁ? 押すわけないじゃないっすか。押すにしても百万円借金背負わす方のスイッチだっての」


「……ふーん。そっか。ま、そういう家庭もあるのかもね。はい、りいちゃん。お返しのあーん」


 何かを見据えたような目付きで、しかし見据えた内容は口にしないままサチはこの話題を終わらせた。どちらかと言えば、これ以上この話題に触れないようにわざとお返しのあーんをしてくれたように感じたけれど。ま、差し出されたからには食べるけどさ。私は大口を開いてサチからのお肉を頬張った。


「お前らって本当に親子か?」


 吐き出した。それはもう盛大に、アニポケで水タイプのポケモンが水鉄砲でも吐き出すかの如き勢いで、サチの顔面目掛けて吐き出した。


「お、おおおおおお、おま、おま、おまままままままままお前、きゅきゅきゅきゅ急にな、ななななな何言い出すんだよぉ⁉︎ どっからどう見ても親子だろぉ⁉︎」


「いや、ぶっちゃけ全然親子に見えねえからさ。母親を名前呼びしてるし、そもそも顔付きが全く似てない」


「私が整形してるだけかも知んねえだろぉ⁉︎ てめえ私が転校して来る前の顔知ってんのか⁉︎ 知らねえだろ! なぁ⁉︎」


「りいちゃん落ち着いて! 冷静になって!」


「おばさんとかどう見ても十二歳の子供がいる年齢じゃないっすよね。俺のお袋も若い方だけど、おばさんそれよりもっと若いし」


「え⁉︎ じゃあ何? 私が魔法的な何かの影響で老けてないとでも言いたいの? そう言いたいのダイチくん、ねえ⁉︎」


「サチこそ落ち着いて! 冷静になって!」


 興奮する私を宥めるサチと、興奮するサチを宥める私とのやり取りが暫く続いた。こんな体験生まれて初めてだった。出来る事ならもう二度と体験したくはないものだ。

「ご、ごめんね……ついカッとなっちゃった」


「いえいえそんな……私の方こそ」


 お互いの恥を認め、詫びを言い合う私達。しかしそんな私達に茶々を入れてくるクソ野郎がこの部屋には存在しているわけで。


「何そんなムキになってんだよお前ら」


「てめえが急に変な事言うからだろ⁉︎」


「別にそこまで慌てる程の事か……? それに見た目云々抜きにしても実際不自然なんだからしょうがねえだろ」


「不自然って何がだよ」


「何がって、そりゃあ仲の良さとか」


「はぁ?」


「お前らの仲の良さって、なんか不自然だ」


 仲の良さが不自然。生まれて初めて言われたその言葉に、私は思わず戸惑ってしまう。私とサチの仲の良さは不自然なんだろうか? 少なくとも私は自然体で過ごした結果がこれなのであって、サチと仲良くしたいこの気持ちに嘘はない。不自然なんて言われる筋合いなんてないはずだ。


 でも、魔女は正体を隠さないといけないから私達の関係を第三者に見られる機会が少ないのも事実。第三者から見た私達って、そんなに不自然なのだろうか。


「俺、クラスの連中の大半の家に遊びに行った事があるけどさ。普通、俺達くらいの年齢って親を心底ウザく思うか、もしくは親の事は好きでも照れが上回って素直になれないかのどっちかじゃね? お前らみたいに恥ずかしげもなく好きな気持ちを言い合えるのって、親子っていうよりカップルみたいだ。血の繋がらない赤の他人同士の愛情表現を見てる気分なんだよな」


「……赤の、他人」


 思わず、ダイチが私達に抱いた感想をオウムのように復唱してしまった。

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