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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第三章 失った魔女
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門限、早すぎる

 異世界留学歴五年。この世界で初めて出来た人間の友達とゲームをした。


 私達は友達だと、胸を張って宣言出来るようになるタイミングっていつ頃だろう。その宣言は、簡単なようでとても難しい。その言葉を口にしようとすると、友達だと思っているのが実は自分だけだったらどうしよう、なんて不安が心に生まれる。そもそもこんな事を思ってしまう時点で私は友達を作る才能がないのかも知れないけれど。


 タロウの事は友達だと胸を張って言える。あいつは色々と単純だから、向こうも私の事を友達だと認識してくれているのが手に取るようにわかるんだ。だから私も自信を持ってタロウの友達だと宣言する事が出来る。


 まぁあいつはあいつで最近私と話すようになってから、自我のようなものが薄らと垣間見える事があるけどさ。そんなタロウと違って、アキは感情表現が苦手なだけでずっと昔から自我を持ち続けた普通の人間だ。だから私はアキの友達だと胸を張って言えるようになるのは、もう少し先の話になるだろう。こんな数時間ゲームをしただけで友達になれたと自惚れられる程、私は心の強い子供じゃない。


 でも、少なくともそんなアキと数時間ゲームをする事が出来た事実は間違いなく起きたんだ。気まずさを感じる事なく、居心地の悪さも感じる事なく、気がつけば時刻は午後の十六時半。


「みんなー! ちょっと早いけど夕ご飯出来たよー!」


 そんなサチの声がリビングから聞こえて来なければ、私達はまだまだ無我夢中でゲームを続けていたのかも知れない。本当に楽しいひとときだった。


「腹減ったな?」


 私の問いかけに頷くアキ。


「……でも、そろそろ」


「飯行こうぜ?」


 一瞬、アキが何かを言いかけたような気がしたが、アキが話すよりも先に半ば強引にその手首を掴んでリビングへと向かってしまった為、私はその場でアキの言葉の続きを聞く事が出来なかった。


 リビングは真夏寸前の汗も乾き切る涼しさと、季節にそぐわないすき焼きの香りが充満していた。うちでのエアコン解禁日はもう少し先の筈だけど、気温は例年に比べて若干高めだし、何より初夏にすき焼きを美味しく食べる為のスパイスとしての役割もあるのだろう。心地よい風がゲームに熱中していた私達の体を冷やしてくれる。


「はーい、みんな座って座ってー。今日はいつものように高い和牛を使った」


 サチを睨みつけた。


「……そ、そんな高いわけでもないけどでもスーパーで売ってる中ではそこそこの値段がしないわけでもないような気がしない事もない事もなくはない国産牛のすき焼き……だよぉ……」


 ショートケーキと、和牛と、あと着物。あの着物ってサチが今まで一度も着た事のないやつだったし、きっとあれもレンタルした物なんだろう。いや、高い飯食えるのは嬉しいよ? 嬉しいけどさ。アキが遊びに来る度にこんな事されたらたまったもんじゃねえよ。その結果普段飯が質素になったりしたらそれこそ泣くわ。この浪費癖はなんとしても今日中に矯正させなきゃだな……。


 ……。


 もしかして私の浪費癖ってサチに似たんじゃないかって気がしてきた。そう思うと少しだけ嬉しくなってしまう自分がいて、なんか悔しい。


「何ニヤニヤしてんだよ気持ち悪ぃ」


 いつかこの世界の住人から私の記憶を消す日が来たら、ダイチに関してはダイチの存在そのものを消してやろうと心に誓いながら席に座った。ってかダイチの野郎、なについて来てんだ。ちゃっかり和牛のすき焼き食う気かよ。


「……あの」


「みんな遠慮しないでお腹いっぱい食べてね?」


「おう、ダイチ。出口あっちだぞ」


「だからそっちはベランダじゃねえか!」


「…………あの」


「こら、りいちゃん! お友達に意地悪しないの! ごめんねダイチくん? ダイチくんもお腹いっぱい食べていいから。ところでダイチくんは白米よりぶぶ漬けの方がいいよね?」


「それ逆に俺のだけ豪華になってるって気づいてます?」


「そうですよサチ! こんな奴の白飯にお茶をかけるなんてとんでもない! 私の唾液で十分です!」


「………………あの」


「なんて事言うのりいちゃん! ダメだよそんな事したら! こいつ女の子の唾液で興奮しそうな顔してるもん、見ればわかるよ!」


「え……お前マジか?」


「おい」


「あのっ!」


 ……と。もはや何を話しているのか自分らでもわからなくなったその会話は、思いもよらない人物による大声によって中断を余儀なくされた。その雄叫びをあげたのは、他でもないアキだったのだ。まさかアキの口からこんな大声が出るとは思ってもなくて、特に普段のアキを知る私とダイチは軽くパニクってたんじゃないかと思う。


「……帰る。門限、あるから……」


「え? 待って待って! なら夕ご飯食べて来るって親御さんに連絡すれば」


「帰る」


 唯一普段のアキを知らないサチだけは冷静に対話をしようと試みたものの、アキの意見は変わらなかった。その場でぺこりと私達に頭を下げ、そそくさと私の部屋へ立ち寄るアキ。そこに置いて来た自分のお出かけ用リュックを背負って、アキは一目散にこの家を出て行ってしまった。


「……」


「……」


 私とダイチは未だにアキの雄叫びが信じられず、そんなアキの背中を黙って見ている事しか出来なかった。


「はぁ……。厳しいお家の子なんだね」


 いや、昨日の親父さんを見た感じそんな事はないと思うんだけど。……って待てよ? アキが居なくなったって事はそれってつまり。


「じゃあ、三人で食べる?」


 で。


「……」


「……」


 なんで私、こいつと飯食ってんだろ。クッソ、折角の国産和牛だと言うのに箸が進まない。当たり前だ、天敵の眼前で堂々と飯食える動物がこの世にいるかっつうの。 


 最初に数回すき焼きを口に運んだだけですっかり箸が止まってしまった私とは対照的に、ダイチは無言ながらも淡々とすき焼きを食べ続けていて、しかも遠慮なんて欠片も見せずに肉中心で頬張っていくもんだからそれもまた憎たらしくてしょうがない。


「ほらりいちゃん、このままじゃあの棒切れにお肉全部取られちゃうよ! あーんして」


「あーん」


 とは言え流石にサチが食べさせてくれる分までは拒否し切れず、私は素直にサチが差し出してくれた肉に食いついた。うん、まぁ流石国産和牛なだけはあるな。食欲なくても口に入ってさえしまえば暴力的な旨味が食欲を加速させてくれる。宮迫もこういう肉使っとけばヒカルに見捨てられる事もなかったのに。


「美味しい?」


「はい、とっても」


「……いや、仲良過ぎてキモいんだけど」


 そんな私達の仲睦まじい姿に嫉妬したんだろう。ここに来てダイチはようやく食事以外の用途で口を開いた。


「キモい? おめえにだけは言われたくねえよ。大体お前私にもサチにも嫌われてるってわかってて、よくここで飯が食えるよな。どんなメンタルしてんだ?」


「ハッ。嫌いな相手だからこそ堂々と遠慮しないで食えるってもんじゃね?」


「あー、お前自分より弱い奴の前では気が強くなるもんな。ここにタロウがいたら慌てて逃げるくせに」


「……あ?」


「何キレてんだよ? 図星だったか?」


「……っち」


 さっきまで私を差し置いて一人上機嫌に飯を食っていただけに、一気に不機嫌な表情へと転落させる事に成功してとても気分がせいせいした。


「ほんと、なんでアキはお前みたいなクソ兄貴に懐いてんだか」


 なんなら更に追い討ちをかけてもっと晴れやかな気分になろうとさえ思っていたのに。


「……本当にな」


 私の挑発に対し、珍しくダイチは同意を示したもんだから拍子抜けだった。

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