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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第三章 失った魔女
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一人遊び

「よく来たなアキ! なんつうか、昨日は色々あったけどさ。なんやかんや女友達がうちに来たのって初めてだし嬉しい。まぁ適当に座れよ」


 私の指示に従い、床に置かれた座布団に腰を下ろすアキ。この部屋も例の一件があってから大分片付けるようになって、今では床で大の字になって寝る事も出来るほどだ。


「よぉダイチ。お前もよく来たな。出口あっちだぞ」


「窓じゃねえか殺すぞ」


 むしろ窓から落ちて死んで欲しかったんだけどな。ダイチは私の許可なんか知るかと言わんばかりに勝手にベッドに腰を下ろしやがった。こいつら帰ったらファブリーズしないと。


 まぁいいさ。どうせダイチを家にあげたのはただのお情け。ちょっとした気まぐれで数年ぶりの兄妹の再会に手を貸してやっただけに過ぎない。感動の再会を果たしたならこれ以上構ってやる義理はないはずだ。ダイチなんか無視してアキと二人でゲームでもしてやるさ。


「じゃあアキ! 早速だけど一緒にゲームやろうぜ!」


 私はSwitchを取り出し、コントローラーの片方をアキに渡した。タロウ以外の友達とする二人プレイか。あいつ、実質アンドロイドみたいなもんだからさ。最初こそ下手くそだったくせにやり方を覚えたら途端に上手くなって精密操作で立ち向かって来やがんの。もうあいつとは運ゲー以外やらないって決めたから、久しぶりの対戦ゲーが楽しみで仕方ない。


「……一緒に?」


 なのに何故だろう。アキのやつ、めちゃくちゃ不安そうな表情なんだけど。


「誰と誰が……?」


「私とお前」


「……お兄ちゃんじゃなくて?」


「え?」


 そして。


「違う違う違う! 攻撃でゴリ押すのやめろ! お前一回もシールド使ってないだろ? 防御覚えなきゃいつまでも初心者脱却出来ねえぞ!」


「こ、こう?」


 ……。


 なんで私、こいつらのスマブラを眺めているんだろう。


「おかしくね?」


 傍観に耐えかね、遂に私は兄妹の間に割って入ってしまった。


「いやおかしくね? ここ私の家なのに何で私がハブられてんだよ!」


「しょうがねえだろ。コントローラー二つしかねえし、アキは俺としかやりたくないって言うし。じゃあ何? お前俺とやりてえの?」


「ほざくな。永久歯折るぞてめえ」


「あ? こっちがやってやろうか?」


「上等だよ。こちとらまだ全部乳歯だボケカス」


 指で口を広げ、イーっと虫歯一本ない自慢の乳歯を見せつけながらガチガチ歯を鳴らしてやった。まぁダイチの言う事ももっともなんだけどさ。にしたって納得出来ねえよこの状況。


 と、その時。ダンッ、と。私の部屋の扉が外部から殴打されたような雄叫びをあげる。言わずもがなそんな事する人間、この家にはサチしかいないわけだけど。実際耳を澄ますと部屋の外から「フゥーッ、フゥーッ」と言った、まるで人間に子熊を奪われた母熊のような鼻息が聞こえて来るし。


 そういえば断腸の思いっていう言葉を国語の時間に習ったっけ。小猿を奪われた母猿が我が子を取り戻す為に奮闘するも思い虚しく息絶えて、そんな母猿の腹を切ってみたら自分の腸がズタズタにはち切れていたって話。サチなら平気でやりかねねえや……。


「ダイチ。ここで死にたくなかったら私に危害を加えるような発言は控えろ」


「……了解。お前が俺を心配する程の何かが外にいんだな」


「いやここで死なれたら汚ねえだろ。殺されるなら外で殺されろ」


「そん時はてめえも道連れだ」


 私とダイチの警戒態勢は、外にいる母熊の足音がリビングへ戻って行くまで続いた。


「とにかくゲームは終わり! 次は私をハブらない遊びすっぞ!」


 脅威が去った事で、私は自分がハブられている現状を打破すべく、一旦場を仕切り直す事にした。


「具体的に何すんの?」


「しりとりとか」


 不満そうな顔をするダイチ。殺したい。


「じゃあ他に何があんだよ! 文句あんなら言ってみろよ!」


「他にって……。これとか?」


 ダイチは両手の拳をくっつけながら親指を立てた。


「これか」


 私も同じように両手の拳をくっつけながら親指を立てる。アキも戸惑いつつも私達の行動を真似た。


「指スマー、五」


 ダイチが呟く。しかし立っている親指の合計は二本だった。


「いっせーの、二!」


 私が呟く。しかし立っている親指の合計は三本だった。


「うー……ゼロ」


 アキが呟く。立っている親指の合計はゼロ本。アキは右手の拳を下げた。


「これわざわざ人んち来てまでやる遊びかな」


 そして私は本末転倒な発言をしてしまった。


「これ先生が来るまでの待ち時間とかにやるから楽しい遊びだよな」


 まぁぼっち続けてた私はなんやかんやこれやるの初めてだからさ。楽しいか楽しくないかで言えば楽しいよ。でも他の二人があまりにも無表情だから、これはこれで疎外感があるんだ。精神的にハブられてるよ私。


「大体言い方もおかしいんだよ。何だよダイチお前指スマって! バカじゃねえの?」


「はぁ? こっちのセリフだよ。いっせーのとかどこのかっぺだてめえは。何の捻りもねえな。とりあえず黒着れば無難だろとか思ってる陰キャと同じじゃねえか。おいアキ、このチビの方がおかしいだろ?」


「あぁん? おいアキ! 兄貴だからって遠慮する事ねえぞ! こいつの方がおかしいって言ってやれ!」


 私とダイチに同意を求められたアキは、戸惑った表情で私達を交互に見比べながら意を決したように口を開いた。


「アキは……うー、って呼んでる」


「いやそれ一番意味わかんねえんだよくたばれよマジで」


「何がうーだ。お前それで俺の妹名乗ってんじゃねえぞくたばるかこの野郎」


 アキは泣き出した。私達は慌ててアキを慰めた。


「みんなー。ケーキとジュース持って来たよ?」


 アキが泣き止んだ所で部屋の扉がノックされ、お盆に三人分のケーキと缶ジュースを乗せたサチが入ってくる。


「はい、どうぞ!」


 私達の前にケーキと缶ジュースを並べるサチ。ケーキは三つとも無難なショートケーキだけど、たまに買うコージーコーナーや不二家のケーキじゃないな。ホイップクリームや苺の艶がチェーン店のそれではない。普通で良いって言ったのにまた無駄遣いして……。まぁ高価なケーキを食べれる事に関しては私としても嬉しいけど。


「それじゃあごゆっくり。あ、それと夕飯の準備もしておくからよかったら食べて行ってね?」


 しかし今回のサチはそれ以上の事は特にせず、素直にそう言い残して部屋を出て行ってくれた。また何か余計な事して来そうな気がしたけど、どうやら杞憂だったらしい。サチは本当にケーキとジュースを置いていっただけだった。私の前にはショートケーキと大好きな乳酸菌飲料。アキの前にはショートケーキと無難なオレンジジュース。そして。


「何で俺ビール出されたの?」


 ダイチの前にもショートケーキと缶ジュース。うん、本当に余計な事は何もしていない。やれば出来るじゃん、サチ。


「なんだ、アルコール麦サイダー嫌いか?」


「ジュースっぽく言った所でビールなんだよこれは。ったく、俺ビールは飲めねえんだよ……」


「ビールは?」


「……あーいや、なんでも」


 ダイチは気まずそうに視線を逸らしながらケーキに手を伸ばした。変な奴だな。おまけにキモい奴だ。知ってたけど。


「私をハブらない遊び第二弾!」


 さて、こうしてしばしのケーキタイムに突入したわけだけど、いかんせん私達はお世辞にも仲が良いとは言い難い関係だ。そんな私達がおやつを食べながらおしゃべりなんてするはずもなく、終始無言のおやつタイムを味わう事になった。あまりにも居心地が悪過ぎて、一瞬ここが本当に自分の家なのか疑問に思ってしまった程だ。


 このまま無言地獄に身を起き続けるのもあれだし、再び場を仕切り直す。にしても私をハブらない遊びシリーズか。自分で言っておいてあれだけど、なんかめっちゃ虚しいや。


「ほら、なんか出せよアイデア」


「ねえよ。俺はお前と違って友達多いから退屈なんてした事ねえっつの」


「じゃあ死ね。アキは何か良い暇つぶしとか知らないか?」


 ダイチが舌打ちしたような気がしたが、きっと気のせいだろう。


「暇つぶし……? ノリの泡、とか」


「ノリの泡?」


 私が問い返すと、アキはキョロキョロと周囲を見回しながら何かを探す。目当ての物は私の学習机の上にあった液体ノリだった。


「これを、こうして……」


 アキは液体ノリを手に取り、上下反転させて私達の前に置く。すると液体ノリの中にあった泡がゆっくりと。それはもうナメクジや亀のようにゆっくりと上方向に上昇していく。粘度の高い液体ノリならではの泡の動きと言えるだろう。


「泡が上に行くのを見る遊び……」


「……」


 これ授業中に液体ノリ使った時についつい見ちゃう奴だ。つまらない授業中だからこそ見ていて楽しいんであって、少なくとも休日の自宅で見るもんじゃねえな。


「他には?」


「他……? えっと……靴下ドーナツ」


「靴下ドーナツ?」


 私が問い返すと、アキはスカートをたくし上げて靴下を履いた足を前に出した。


「靴下を脱ぐ時、上からぐるぐる巻いて行ったら……」


 そしてふくらはぎからぐるぐると靴下を巻いて行くと次第に大きな輪っかが形成されていき、足首に到達した頃にはドーナツのような太い輪っかにまで成長したではないか。


「ドーナツみたいな形になる……」


「……」


 たまにやるわ、これ。


「他には?」


「ほ、他……? えっと……えっと……。あ、よだれ釣り」


「よだれ釣り?」


「地面に向かってヨダレを垂らして……、ヨダレが落ちる寸前に全部吸い取れたらアキの勝ち」

「地面に落ちたら?」


「アキの負け」


 何と戦ってんだよ。


「やり方はこうして……」


「どうでもいいけどそれこの部屋でやったら殺すぞ」


 アキは涙目になりながらダイチの後ろに隠れてしまった。


「ってかお前いつも一人でこんな事してんのかよ。ぼっち拗らせ過ぎてて怖えよ」


「……友達、いないから」


「……」


 まぁ、そう言われると弱いんだけどさ……。でも言われてみれば、こいつがぼっちなのって家が貧乏なのが一番の原因なんだよな。流行りのゲームも玩具も買って貰えず、流行についていけないから同い年の友達の輪にも入る事が出来ない。


 私はまだいい。自分から望んでぼっちをやっていたし、サチから買ってもらったゲームやスマホのおかげで暇潰しの手段には困らなかった。今の私からゲームやスマホがなくなれば、それこそ私もアキと同じように虚しい暇潰しで退屈を凌いでいたのかもしれなかったわけだ。


 はぁ……、と。思わずため息が漏れてしまった。友達がいないというアキに親近感を覚え、もしかしたら気の合う友人になれるかもと手を差し伸べたはいいのに、今のアキの表情からは楽しさの欠片も見当たらない。


 もしかして私のした事って、余計なお世話ってやつだったのかな。いくら友達がいないからと言って、昨日知り合ったばかりの見ず知らずの他人に馴れ馴れしくして欲しい理由にはならないだろう。そもそも私はこいつを犯罪者として捕らえた身だ。初対面の印象は間違いなく最悪だろうし、気弱なアキにとって私という存在はプレッシャー以外の何者でもないのかな。あのまま他人として別れた方がよかったのかな。


「……アキと遊ぶと。みんなそうやって……ため息、つくから」


 そんな私のマイナス思考は、私の遥か下を行くアキの超マイナス思考によってかき消された。


「勘違いすんな。別に今のため息はお前がウザくて出たんじゃねえよ」


「……そうなの?」


「あぁ。一緒にいてつまんねえから出たんだ」


「……っ」


 またしても目に涙を溜めながらダイチの後ろに隠れてしまった。


「あー、ったく……。わかったわかった。隠れてていいから聞け。あのな? 確かに私は今お前と遊んでてクソつまんねえと思ってる。でも、同じくらいお前が来てくれた事が嬉しいんだ」


 私がそう言うと、アキはダイチの後ろから顔を半分だけ露出させて私の方を覗いて来た。


「昨日も言ったけど、私も友達が多い方じゃない。この部屋に女友達を上げたのだってお前が初めてだ。だから昨日、友達が家に来るってサチに言ったらさ。そしたらサチのやつ、めちゃくちゃ嬉しそうにしてやがんの」


 私に友達が出来たと知って、サチが嬉しそうにしてくれた事は過去にもあった。……でも、結局あれはサチを深く傷つける出来事になっちゃったしな。


「友達がいないせいで、今まで散々サチには心配をかけて来た。そのSwitchだって私が友達と一緒に遊べるようにってサチが買ってくれたんだぜ? だから昨日あんなに喜んでるサチを見て、お前を遊びに誘って本当によかったって思った。今お前と遊んでてつまんねえのはしょうがねえよ。私達昨日知り合ったばっかじゃねえか。だからこれからももっと一緒に遊んでさ。もっとお互いの事を知れるようになったら、きっと十日後くらいには一緒に遊んでて楽しいって思えるようになると思うんだ」


 私にはそう言い切れるだけの根拠があった。現に私は初対面で私の目を潰そうとして来たクソ野郎と仲の良い友人関係を築けている。あれに比べれば、元万引き少女との友情なんかもっと簡単に築けると信じてる。


「ダメ……かな?」


 そう、信じたい。


 そんな私の願いに対するアキの返答はとてもシンプルなものだった。アキは躊躇しながらもゆっくりとダイチの陰から姿を現し、遠慮気味ながらもちょこんと私の隣に座ってくれた。その手にSwitchのコントローラーを握りしめて。


「……ゲーム、する?」


 私は今日一の笑顔で答えた。


「うん!」

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