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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第1.5話 魔女と日常の話]
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報告会 ②

「私の留学した世界は獣人さん達が支配する世界でした」


 円形のテーブルを五人で囲みながら座る。発表の順番はミーから時計回りだから、私は三番目になりそうだ。


 私達の頭上には白いモヤがかかっていて、そこにはミーが五年間暮らしていた世界の映像が映し出されていた。その風景はミーの言う通り、確かに私の知る浅草の風景そのものだった。唯一違いをあげるとすれば、道を行き交う人々が多種多様な種族で構成されている事。二足歩行で道を行く犬、猫、豚、馬。人間の姿もちらほらあるものの、彼らの中のほんの一部に過ぎない。


「この人は馬族のモキチさん。五年間私を育ててくれたパートナーで、とても優しい人なんです」


 次に映されたのは、モキチという黒い馬とミーの生活風景。草食動物と雑食動物の差で食事内容にこそ違いはあれど、その他の生活様式に目を見張るような違いは見られない。寝食を共にし、たまの休みには遊びにも連れて行って貰える、種族が違うだけのとても理想的な関係に思えた。


「この世界には義務教育というのがあって、本当なら私は学校に通わなければいけないんだと言われました。でもこの世界は人類の発展に一番貢献している人族と、それ以外の種族では身分差があります。人族専用の学校はとてもお金がかかる上に、両親共に人族の実親でないと受け入れて貰えません。多種族の学校なら通えますが、人族の私が通えばとても目立ってしまいます。なので私は猫族に化けて学校に通ったり」


 次に映されたのは変身魔法で猫に姿を変えたミーの学校生活。ミーはよっぽど変身魔法の練習をしたのだろう。私では体の一部を猫化させるのが精一杯なのに、ミーは見事に二足歩行する猫として不自然なく周囲に溶け込めていた。そして。


「あとはモキチさんのお仕事を手伝ったりして毎日を過ごす事にしました。みんな優しい人達なんですよ?」


 ただならぬ殺気を放った事務所の風景が一瞬だけ映し出されたかと思うと、すぐさまミーとモキチの幸せそうな家族生活の様式に切り替わった。


「はい、先生」


「何でしょう、ホリーさん」


「お仕事の様子をもう一回見てみたいです」


「許可します」


 映像が少し前の事務所の映像まで戻される。


「ミー。モキチって奴の仕事って何?」


「シンジュクだよ」


「場所じゃなくて職種」


「金融業だよ」


「光? 闇?」


「闇」


 ミーの奴、一度も笑顔を崩さない。


「え、何。もしかして借金返せない奴とか殺して臓器売ったりしてんの……?」


「もーう、ホリーちゃんってばドラマの見過ぎだよー。殺したりなんかするわけないでしょ?」


「だ、だよな……」


「あのね? 仮に臓器目当てで殺したとしても、全身くまなく売った所で手に入るお金は八千万円くらいなの。心臓、肝臓、腎臓なんかは特に高く売れるけど、でもお金が貰えるのはそれ一回きり。うちは長期的なプランを見据える方針だから、一度に貰えるお金は少なくても、残りの余生全部を労働に費やして稼がせるかな? あ、でも腎臓なら片方売る事はあるよ。強制じゃなくてもちろん善意の寄付で。肝臓も再生する臓器だから、健康な人のなら一部だけチョキンって切って売ったりするかも」


「……」


 ミーの奴、一度も笑顔を崩さない。


「なぁ、ミー。一応確認するけど、そいつらは本当に優しい奴らなのか?」


「うん! 私にはとっても優しい人達だよ?」


「……あ、そ」


 私はそれ以上の詮索はやめた。


「そういうわけで私は学校に通う為の変身魔法、蒸発したお客さんを探す為の探索魔法、お金を借りにきたお客さんが嘘をついていないか調べる為の読心魔法がとても得意になりました」


 こうしてミーの発表は、ミーの笑顔をもって終了した。


「次はあたしね!」


 続いて立ち上がったのはガッキー。よっぽど満足の行く結果を出しているのだろう。不安さを一ミリも感じさせない自信に満ち溢れた表情だ。


「あたしが留学した世界は錬金術が発達した世界だったわ!」


 頭上の白いモヤにガッキーが五年間過ごした世界が映し出された。そこは現代の面影を残しつつも、細部はどこか中世ヨーロッパを思わせる装飾が施された摩訶不思議な街並みだ。


「あたしはそこの錬金術師育成学校に通っているの! それも首席よ首席! 入学試験の結果は断トツで一位だったし、この五年間の成績も独走状態! 卒業までこの地位が揺らぐ事はないはずだわ!」


「マジか! え、じゃあお前錬金術使えんの?」


「……………………。そうよ!」


「……」


 なんだろう、今の間。


「はい、先生」


「何でしょう、ホリーさん」


「入学試験の様子を見てみたいです」


「許可します」


 青ざめるガッキーをよそに、白いモヤにはガッキーの入学試験の様子が映し出された。


『どうしたのかしらガッキーさん? 別に金に変えろと言っているのではないのですよ? この砂粒を鉄に変えるだけ。そんな事も出来ないようでは到底うちではやっていけませんわね』


 映像の中でガッキーは悩んでいた。ガッキーの前には一枚の皿があって、その上には砂粒が一つ置かれている。その砂粒を鉄に変えるのが入学試験という事なんだろう。見るからに意地悪そうなおばさん試験官の態度もガッキーのプレッシャーになっているであろう事は容易に伺えた。


『残り五秒。四、三、二、一』


 すると。


『しゅ、収集魔法! ジェロ・エウツォ・サベーロ!』


 ガッキーの目の前から皿が消え失せる。消え失せたっていうか、突如目の前に現れた鉄塊に押しつぶされたっていうか……。


『そ、そんな……! これは一体……? どういう事⁉︎ ガッキーさん、あなたまさか無から鉄を生み出したとでも言うの⁉︎』


 当時四歳の魔女にそんな高度な魔法が使えるか。周りの鉄を寄せ集めたんだ。


『説明しなさいガッキーさん! これは何なの⁉︎ 魔法⁉︎』


『…………れ、錬金術よ』


 ガッキー、気まずそうに目を逸らしてた。するとそれを見ていた周りの生徒が次々と発言してくるじゃないか。


『先生! 私ガッキーちゃんが空を飛んでるのを見た事あります!』


『そ、それも錬金術よ』


『俺こいつが手を使わずに鉛筆動かしてたの見たぞ!』


『それだって錬金術よ!』


『空からお菓子の山を降らせたあれは⁉︎』


『もちろん錬金術なんだから!』


 ……。


「先生、こいつ殺そうぜ」


「何でよ⁉︎」


「何でもクソもあるかよ! 卑怯だろてめえ! こっちがどんだけ苦労して魔法隠してると思ってんだ⁉︎」


「そんな事言われても……っ! うぅっ……、せ、先生!」


 サイコパスの判定は。


「ギリセーフとします」


 ガッキーは両手をあげて勝利を吠え、私は両手を地につけて敗北を嘆いた。それからもガッキーの異世界チート生活は続いていく。


『ガッキーさん、これは……?』


『え? 鉄を武器の形に錬成しろって言われたから銃を作って……あ! もしかして剣や槍を作れって事⁉︎ ご、ごめんなさい! あたしったらまたやらかしちゃって……』


『ガッキーくん。私は電気を発生させるよう言ったはずだが、この巨大な建造物は何かね……?』


『え? この中ですり潰した石炭を燃やしているの。その炎で水蒸気を発生させて、蒸気の力で歯車を回す事で電気を生み出しているのよ。この国って石炭大国だから役に立つと思って……。あの、もしかしてこの程度の電気じゃ足りなかった……?』


『ガッキーちゃん! このソースすごく美味しい!』


『これはマヨネーズよ! 作り方は簡単。卵と食用油とお酢を用意して』


『ガッキーくん! 君は天才だ! 君は錬金術の母として、遥か先の未来までその名が語り継がれることになるだろう。我が校に君のような生徒が入学してくれて、私はとても誇りに思う……!』


『もーう! 校長先生ったら大袈裟よ! こんなのあたしからすればどうって事ないわ! でもその言葉はありがたく受け取っておくわね!』


 そこで場面は切り替わり、ガッキーのパートナーと思わしきおばあさんとガッキーの食事風景が映し出された。


『ガッキーちゃん。話は聞いてるわよ? 今日も学校で大活躍だったんだってねぇ』


『こんなの大した事じゃないわ! おばあちゃんが美味しいご飯を作ってくれるおかげよ!』


『それにしても、あたしゃ魔法っていうのは徹底的に隠蔽しなきゃいけないもんだと思っていたんだけどねぇ……。魔界の人達も、案外融通の効く人達ばかりなんだねぇ?』


『……』


 ガッキー、視線を逸らしながら口笛吹いてた。上手く吹けてなくて空気の音しかしてないけど。


「……」


 目の前のこいつも視線逸らしながら吹けもしない口笛吹いてるけど。


「と、とにかくそういうわけであたしは物作りの魔法が得意になりました。卒業試験までには砂金一粒くらいでもいいから、無から金を作れたらいいなと思っています。以上」


「以上じゃねえよ」


 私はすかさず茶々を入れた。


「以上じゃねえんだよ! ふざけんなよてめえ!」


「何よ! 魔女だってバレてないんだからいいでしょ⁉︎」


 サイコパスの判定は。


「ギリギリセーフとします」


 もう何も信じられない。私もあっちの世界に留学したかった……。なんて思うのはサチに対して失礼か。


 勝利の鼻息を吹きこぼし、自信に満ちた表情で堂々と着席するガッキー。この異世界留学、こいつにだけは絶対に負けたくない。心の底からそう思った。 


「じゃあ次……」


 私は煮え切らないモヤモヤを抱えつつも腰を上げる。先の二人の異世界留学を見ていると、どうも私の五年間というのはかなり平凡なものだったんだと思い知らされた。でも、私はその事を恥だなんて思わない。この世界で過ごせたお陰でサチという一生の記憶に残るパートナーと出会う事が出来た。


 私は背筋を伸ばし、胸を張り、自分が生きた五年間を正々堂々発表した。


「私は科学の発達した世界で小学校に通っています! 終わり!」


 ……。


「はい! 先生!」


「何でしょう、ガッキーさん」


「ホリーさんが意図的にすっ飛ばした学園生活の様子を見てみたいです!」


「許可します」


「やめろおおおおおおおおおおおおおおお!」


 私の抵抗も虚しく、頭上のモヤには未来永劫消し去ってしまいたい私の黒歴史が赤裸々に投影されていった。……まぁ、あれだ。私の黒歴史っていうのは要するに……うん。


 私は頭上を見上げるのをやめた。小学校でいつもしているように、目の前のテーブルに突っ伏せながら寝たフリの姿勢をとった。過去の出来事から目を背けた。それでも頭上で何が起きているのかはわかってしまう。どんなに耳を塞いだ所で音を完全に遮断する事は出来ないからだ。


 同級生にちょっかいを出されては、それを愛想笑いで済まそうとする馬鹿の声がする。迫害行為の数々を冗談で受け流そうとする馬鹿の声がする。そんな馬鹿だから迫害は止まり所を見失ってしまうのだ。


 迫害の日々は次第にエスカレートしていき、そしてある日を境に弾けてしまう。仮の親を笑われて、ようやくその馬鹿は怒りを露わにした。級友の手からスマホを奪い取り、そのスマホを顔に叩きつけ、そして始まる大乱闘。一対一の喧嘩はいつしか一対多数の争いへと切り替わり、馬鹿は完膚なきまで叩きのめされた。そんな過去の音声が、一方的に私の鼓膜を叩きつけた。


 それからどれだけ時間が経っただろう。頭上から音がしなくなった事で、私は自分の半生を洗いざらい曝け出された事を理解した。顔を上げた瞬間、なんとも言えない重苦しい空気が鼻を通って肺へと雪崩れ込むのを感じた。


「あんた、いじめられてたのね」


 最初に声を出したのはガッキーだった。この中で一番弱味を見せたくない相手に弱味を見せてしまった事実に、気分が沈んでいく。


「そうだよ。ハッ、笑えるだろ?」


 私は半ば自暴自棄になりながら己を自虐する。どうせこいつに笑われるのは目に見えてんだ。こいつに笑われるより先に自分を笑った方がまだ気が楽だ。……と、思っていたものの。


「笑えないわよ」


 ガッキーは私の想像を真っ向から否定して来た。


「今はどうなの? あんたの記録を見た感じ、今はあのダイチとかいう男にちょっかい出されてるみたいだけど」


「……別に。あんなんどうって事ねえよ。いじめてた相手が自分より強いってわかった瞬間何もして来なくなった雑魚だ」


「本当に? 強がってない?」


「しつけえな、別に何だっていいだろ?」


「よくないわよ! 友達心配して何が悪いの!」

「……」


 何も言い返せなかった。そりゃそうだ。もしもこれが逆の立場なら、私だって同じ事を言ったと思う。なのに私、どうしてこいつに笑われるって決めつけちまったんだろうな。


「……そうだな。うん、その通りだわ。まぁ今はなんともないってのはマジだから、それだけは信じてくれよ」


「ならいいんだけど……。いい? ホリー。その気になればあたし達の方がずっと強いんだから、何かあったら魔法とっちめなさいよね? 絶対にあんな奴許すんじゃないわよ?」


 両手で拳を構え、シャドウボクシングをしながら忠告してくるガッキー。映像ではいい感じにスキップされていたものの、一度ガチでダイチを魔法でぶっ殺そうとした事は言わないでおこうと思った。


「心配すんなよ。私は根に持つタイプだからな。死んでも許すかあんな奴ら」


「何言ってるのよ? あんたすぐ人の事許すじゃない。あたしと喧嘩した時だっていつもあんたの方から謝ってくる。まぁ、そんなあんただから仲良くやれてるんだと思うけど……」


「けど?」


「あんたをいじめた連中があんたに許される所想像したら、なんかイラってくるわ……」


 心底不機嫌そうにガッキーはそう漏らす。こいつは嘘を吐く奴だけど、内心が簡単に表情に出る正直者なんだ。昔からずっとそうだ。別れて五年経った今になっても全然変わらない。


「ガッキー」


「何?」


「サンキュー」


「……別に?」


 こうして私の発表も無事に終了した。

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