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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第二章 壊れていく少女
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私たちはドラえもんとのび太くん

 ※ここまで第三話ヒロインによる暴行、殺人、拉致監禁、人間を使った動物実験、薬物使用等、様々な犯罪描写を描いて来ましたが、ヒロインにはいずれ、それ相応の報いを受けさせた上で、物語から退場させるつもりです。これらの犯罪行為に手を染めた者の末路もしっかり描いていく予定なので、これらの描写が決して犯罪行為を助長する為の描写でない事は十分にご理解ください。


 また、ここまでの非道徳的描写の中には現実世界でも再現可能な物もいくつかありましたが、ここから先の犯罪行為は全て現実では再現不可能なものとなっております。

 半信半疑の壁を乗り越えた成果は、目に見える形となって私の欲望を満たしてくれた。


「……ザンド。ザンド。ザンド。ザンド」


 それまでは小規模の物しか移せなかった瞬間移動の魔法。今では私の体そのものを、目の届く範囲でならどこへでもテレポートさせる事が出来るようになった。


 平均的な身長を持った場合、人は遮断物が無ければ大体五キロ先の水平線や地平線まで目視する事が可能だと言われている。言ってしまえば私の瞬間移動は、最大で半径五キロまでなら自由自在に移動する事が可能となっているわけだ。


 私は瞬間移動の魔法を500〜1000回程唱え、一時間もしない内に北海道の山中まで辿り着いた。日本列島最強の陸上哺乳類を見つけたのだ。私は森のクマさんを口ずさみながら、歌詞の合間合間に魔法を挟み、ヒグマの成獣に勝負を挑んだ。


「……ザンド」


 最初に私が唱えたのは空中浮遊の魔法だった。私に魔法をかけられたヒグマは、風船のように体がぷかぷかと浮かんだ事でパニックを起こす。とは言え半信半疑を乗り越える前から私の空中浮遊は、全長2.2メートルの金属の塊であるロボットを浮かばせる事に成功している。今更ヒグマを浮かせた所で魔法の強化が実感出来るはずもなく、私はヒグマを空中浮遊から解放した。


 魔法から解放された事で、落下の衝撃にヒグマが怯む。


「……ザンド」


 私はその隙にもう一度空中浮遊の魔法を使い、辺り一面に生い茂る森の木々を数十本程引っこ抜きながら、上空数百メートルまで吹っ飛ばした。


 少しして、ヒグマが冷静さを取り戻す。口から吐き出る呼吸は酷く荒れている事から、私を敵だと認識しているのは明白だ。ヒグマはある瞬間をきっかけに突如距離を詰めて来て、私の頭部目掛けて、凶悪な形をした爪と牙を向けて来たものの。


「……ザンド」


 私は第三の魔法、壁抜けの魔法を使用し、迫り来るヒグマの爪と牙を透かしてみせた。それでもヒグマは諦めず、立体映像とほぼ変わらない私の体に、何度も何度もその爪を叩きつけて来るのだが。


「……はい、終わり」


 しかし数秒後には、私が上空へ吹き飛ばした大量の巨木に押し潰される形で、日本最強の陸上哺乳類は呆気なく絶命した。……まぁ、わざわざこんな回りくどいやり方をしなくても。


「……ザンド」


 身体強化の魔法を一回使いさえすれば、ヒグマくらい簡単に撲殺出来たのだろうけれど。私はヒグマの首を片手で握りしめ、巨木の下敷きとなったその体を、毛を引き抜く程度の力加減で引っこ抜いた。


「……よっと」


 虫の息となったヒグマを地面に敷き、まだ辛うじて血流が残っているその温かい体に腰を下ろす。天然物の生きた本革ソファである。


「……あったかい」


 熊に密着した私のお尻と太ももが温かい。猫バスに乗ったサツキとメイも、こんな心地の良い温もりに包まれながらドライブを楽しんだ事だろう。とは言えこれは野生動物。その皮膚にはダニやノミと言った寄生虫も多く取り憑いているだろうからお世辞にも清潔とは言い難いが。……まぁ、それを加味した上でもだ。たったの一時間で東京から北海道まで辿り着いた現実と、日本最強の陸上哺乳類を簡単に倒せてしまった現実は、圧倒的な満足感で私の心を満たしてくれた。


「……これが上級の世界かー。信じる力って凄いや」


【信じる力(物理)】


「……(薬理)の方がしっくり来ない?」


 私はザンドに微笑みかけながら、夜空に浮かぶ小望月を見上げる。


【でもイヴっち、まだ満足はしてないんでしょ?】


「……まぁね。だって魔女にはもう一段階上があるって、知ってるし」


 小望月。満月前夜の、ほぼ満ちかけた月の事。半月は超えたものの、満月まであと一歩及ばない未完成品。半信半疑を乗り越えたばかりの私と似ていて、親近感を覚える。


「……合流には試練ってあるの?」


【ないよ。私に触りながら「私は生涯こう言った魔法しか使いません」って念じればそれで完了。その瞬間、イヴっちの魔法はほぼ完成する】


「……ほぼ? 完全じゃなくて?」


【完全な魔法使いは合流の試練なんて受けないよ。半信半疑を乗り越えて、十信零疑の境地に辿り着いたら全能そのものになる事が出来るもん。その時点でそいつの出力は無限も同然だ。∞を∞+1にした所で意味はないからね。ちなみにイヴっちは薬の力で無理矢理半信半疑を乗り越えたけど、それでもせいぜい六信四疑が関の山だった。十信零疑の境地に辿り着いた魔女元帥がどんだけ化け物染みた存在なのか、よくわかるっしょ?】


「うぇー……。あれだけ良い気分だったのにそれっぽっちしか信じれてなかったの? 凹むなー」


 しかしまぁ、それでも私はこの世界においては唯一の魔法使いなわけだ。魔界の頂点に立つ事は出来なかったけど、少なくとも地球の頂点に立つ事は出来る。一年以内に死んでもおかしくはない私にとって、それは十分身に余る程の力だ。


【それでどうする? 合流の契約、今すぐ結んじゃう?】


「……そりゃあもちろん。今の私には、一分一秒だって時間が惜しいからね」


【オッケー。じゃあ縛りの内容を教えてよ。イヴっちはどんな魔法使いになりたいの?】


「……私がなりたいのは」


 合流の意味を教えて貰ったあの日から、私はずっと考えていた。


 合流。扱う魔法の種類を減らす事で、魔法への出力を増加させる魔書との契約。この契約を果たしたが最後、私は生涯を通して契約した魔法しか使えなくなってしまう。そして魔法にかける縛りはシンプルで、具体的で、汎用性に欠ける程その出力は爆発的に増加するとザンドは言っていた。


 だからと言って本当に限定的過ぎる魔法を選んでしまっては、今後の魔女カツにおいて大きな弊害が生じる事になってしまう。そこでザンドからは、適度な縛りを設けつつも、ある程度の汎用性を兼ね備えた魔法の候補をいくつか提案されているのだ。


 殺傷力を持った魔法のみを扱える魔法使い。視認可能な範囲でのみ魔法を発動できる魔法使い。私に従順なモンスターを生み出せる魔法使い。人間を洗脳して意のままに操る魔法使い。なんだったら『視認可能な範囲でのみ発動出来る殺傷力を持った魔法』のように、複数の縛りを同時に設ける事で更に出力を上げる事も可能なのだとか。


 でも、ザンドには悪いけれどそれらの提案は全部却下させてもらった。別にザンドの案が悪いわけではない。私が考えたこの案だって、ザンドの案とは大して変わらないもん。適度な縛り設けつつも、ある程度の汎用性を兼ね備え使い勝手の良い魔法だと思っている。それに何より……。


「……私ね。つい最近まで、私とザンドの関係はデスノートみたいな関係だと思ってた。……ザンドは暇つぶしの為に私に力をくれた死神で、私はその力で思う存分暴れ回るキラだ」


 この魔法には、私なりの思い入れと未練がふんだんに練り込まれているから。


「……でも、今はちょっと違うかなーって思ってるんだ。私達はリュークと月の関係じゃなくて、ドラえもんとのび太くんみたいな関係なんだよ。……ザンドは弱虫な私の人生を変える為に、千年前の世界から遥々タイムマシンに乗ってやって来たんだ。……だから私が選ぶ魔法は」


 私はザンドを抱きしめながら、私が望む魔法使いとしての姿を教えた。


「……ロボットを作る魔法」


 そして静かに魔法を唱えた。


「……ザンド」


 直後、私の体は冷たい機械に覆われた。鉄の人形に抱きしめられているようでもあり、鉄の人間に犯されているようでもあった。金属に触れた顔が冷たい、金属に包まれた手足が冷たい、金属に巻き付かれた体が冷たい。そして何より、金属によって串刺しにされた腰が冷たかった。


 金属が私の体に纏わりついてくる。外側も、内側も、体中に存在するありとあらゆる穴が金属によって蝕まれて行くのを感じた。まるで蠢く水銀の中に身を投げた気分だ。私の体の隅々まで金属で撫で回されるその感覚は、どこか癖になるようでもあり、それと同じくらいに不快でもある。


 やがて金属は私の全身を覆い尽くし、漆黒に染まった楕円形の繭を形成した。液状の金属は次第に私の頭部を覆い隠し、遂には頭のてっぺんに至るまで、私の全てを呑み込んでいく。……そして。


「……わーお」


 金属の繭を内側から破り孵化した私は、半人半機のサイボーグのような姿形を形成していた。



「かっくいいじゃん」


 その姿は、今の私に足りない物を全て補完してくれる天使の姿だった。私の手足に装着された漆黒の義装は、糖尿病性神経障害によって、日に日に衰えて行く私の手足を補う為のもの。頭に装着されたヘルメットも、糖尿病性網膜症の進行によって低下していく私の視力を、120%の形で補ってくれている。そして極め付けは、私の腰から生えた一対の黒い翼だ。


 この翼は私にとって、天使の象徴であると同時に、私の体調を徹底的に管理する為の生命維持装置としての役割も兼ね備えている。目を凝らして右翼を見てみると、至る所に赤いラインが走っているのがわかるだろう。この赤いラインの正体は私の血液だ。


 この右翼は私の背中を貫通し、私の体内で内腸骨動脈と外腸骨静脈に接続されている。要するに透析だ。ここから吸い上げた血液を翼の中で浄化し、再び私の体内へ送り返す、謂わばダイアライザーとしての役割を担っているのだ。そして吸い出された血液は常時血液化学検査や全血球査定にかけられ、その情報は常に左翼と共有される事になる。


 左翼の役割は、薬剤の保管庫だ。左翼に存在する金属の羽根の一つ一つには、私の生命維持に必要な様々な薬剤や、殺人の為に用いる数多の毒性物質が保管されている。左翼では主に私のバイタルサインの分析等が行われ、右翼で算出された血液データを参照しながら、私の体に異常が発生する度に、症状に適した薬剤が常時投与される仕組みなのだ。とんだ高性能医療ロボットと言えるだろう。


 ……まぁ、それらの事を一言で纏めるなら。この魔法を使っている間、私は健常者を超越した超人になる事が出来るというわけだ。


 気分が良い。覚醒剤とはまた別の、自然な爽快感が私の脳を支配する。まるで糖尿病を発症する前の体に戻った気分だ。あまりにも気分が良いものだから。


「ザンド。ちょっと散歩にでも行かない?」


【どこまで?】


「沖縄まで」


 私は北の大地を飛び出し、日本の最南端目掛けて宙を駆けた。

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