表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第二章 壊れていく少女
196/369

現実世界のゴブリンスレイヤー

 ◇◆◇◆


 見える。革製の拘束具とガムテープを持った、二人の若い男の姿が見える。


 二人のうち、小太りの男は私の足に拘束具を嵌めて、足が閉じれないようにした。


 二人のうち、背の高い男は私に万歳をさせた後、私のブラウスに手を伸ばした。私はてっきりそのまま服を捲り上げられて、脱がされてしまうのだと思っていた。しかし男は、私の顔の辺りまで服を捲った所でその手を止めた。おかげで私の首から上は、裏返ったブラウスに包み込まれてしまい、視界を遮られた


 聞こえる。ビリビリとガムテープを剥がす音が聞こえる。ガムテープを巻き付けられる音も聞こえる。男は万歳をする私の両腕にガムテープを巻きつけていた。ガムテープはそのままとぐろを巻くように下降して行き、ブラウスに包まれた私の頭ごとキツく締め上げていく。足の自由も、腕の自由も、視界の確保さえも私は彼らに奪われたのだ。


 でも、この感覚は一体何? とても変な感じがする。私は今、自分が何をされているのかをよく理解している。私は拘束された。身動きどころか視界の自由さえも奪われた。私は今から彼らに犯されるのだ。わかる。全部わかる。今起きている事も、これから起きる未来の事も、私の頭はしっかり理解している。何もかもしっかり理解出来ているのに、現実味がないのは一体どうして?


 一体ここはどこ? 五感が働くのに何も感じられない。光があるのに何も見えないし、音があるのに何も聞こえない。この暗闇の世界は一体何なの? そんな暗闇に身を置く私は一体何者なの? わからない。何もかもがわからない。それこそまるで夢を見ているようで……。


 ……夢?


 そうか。夢だ。この不可思議な感覚の正体は、夢を見ている時の感覚に似ている。だとしら凄いや。私今、意識をはっきりさせながら夢を見れているんだ。気持ちいい。頭の中に新しい性感帯が無数に生まれては、一つ一つを優しく撫でられ、そして舐められているような快楽が全身を駆け抜ける。コカインの快感とは比べ物にもならないよ。これがメタンフェタニンの効能。……なるほど。覚醒剤だなんて名前は伊達じゃないんだね。私今、凄いムラムラしている。


 ……あぁ。


「先輩これ大丈夫? この子めっちゃ震えてるけど。かっわいそー」


 ……興奮する。


 私は何か勘違いをしていたんだ。半信半疑の壁を越えられなくても、何も絶望だけが残るわけじゃない。魔法を失う代わりに、ザンドと出会った事で諦めてしまった希望を取り戻す事が出来たのに、魔法を失ったショックからその事を忘れてしまっていた。


『私さ、あいつらを虐めているとすっごい気分が高揚するんだよね。虐めている事実にじゃないよ? 私が同じ目に遭うことを想像してムラムラするの』


 林田を殺し、魔法をある程度扱えるようになったあの日から、私はこの望みを半ば諦めかけていた。


『私があいつらにしている事は、全部私がされたい事だよ。殴られるのも、屈服させられるのも、どこかに監禁されて玩具にされるのも』


 私は魔法を手に入れた。魔法を信じないこの世界で、唯一魔法という別世界の兵器を手に入れてしまったのだ。


『私が泣き叫ぼうがお構いなしに甚振って欲しい。私の全力の抵抗を、絶対的な力でねじ伏せて欲しい。散々虐め抜かれた後に優しくされて、依存させて欲しい』


 それは言ってしまえば、原始人が銃を手に入れたも同然である。石と棒と簡易的な罠でしか戦う事を知らない原始人の中でただ一人、遠距離から安全に敵を殺せる銃という道具を手にしたのだ。


『嬲られて、犯されて、そして孕ませられるとか、もう……っ!』


 きっと、この世界に一対一で私に勝てる人間は存在しない。


『……でも、ザンドのせいでそう言うのは出来なくなっちゃった。私、そんじょそこらの人よりよっぽど強いもん。ザンドを使えば大抵の人間は簡単に返り討ちだよ』


 一対多数ならまだわからないけれど、それでも軍隊レベルの大規模な集団が相手でないのなら、やはり私は負ける気がしない。私は魔法を手に入れた代償として、誰かに犯される弱さを手放してしまったのだから。


『だからと言ってザンドを使わなかったら、それはもう全力の抵抗じゃなくなる。私は手加減しないと誰かに支配して貰えないんだ』


 でも、私は取り戻した。魔法を失う事で、人に勝つ事の出来ない絶対的な非力さを取り戻したんだ。今の私なら、全力の抵抗をする事が出来る。全力の抵抗をした上で、この四人のオスの圧倒的な力量差に屈服する事が出来る。夢にまで見た暴力的なセックスを、死が目の前にまで迫った今になって、ようやく味わう事が出来る。


『わざわざ手を抜いて自分より弱い人に支配されるとか……そんなの馬鹿みたいじゃん?』


 だから今、私が口にするべき言葉はこれだ。


「……ま、待って」


 彼らの嗜虐心を刺激し、彼らを人間の男からケダモノのオスへと変貌させる言葉。


「……やだ……やだぁ……っ、離して……か、帰るから……っ!」


 私の弱さを目の当たりにした彼らは、果たして何を感じ、何を思うだろう。きっと、お母さん達をいじめ抜いた時の私と同じ気持ちを抱く筈だ。この弱者はもう自分の物だと。飴を渡すのも、鞭を与えるのも、全てが自分の思い通りだと。


「帰れないよ。今のヒジリちゃんを親御さんのとこに帰すわけにはいかないでしょ?」


 私の予想通り、お兄さんは私の懇願を聞き入れてはくれなかった。予想通りと言うより、期待通りと言った方が正しいだろう。私の体に、星形の熱が宿る。手のひらの感触だ。私は今、お兄さんに体を触られている。これから私は彼らの玩具として、人としての尊厳を一切合切奪ってもらえる。


「つっても今じゃ都内はあちこち監視カメラだらけだし、ヒジリちゃんがこのマンションに来る様子もきっちり撮られているんだろうね。でも大丈夫。この部屋の賃借人は、どこの誰かもわからないベトナム人だ。お金をあげたら、何も疑わずに快く部屋を明け渡してくれたよ。捜索願いを出された所で、容疑がかかるのはそいつだけ。俺達に足がつく事はない」


 その時、私の前方から電子音のような物が聞こえて来た。私にまだ辛うじて正常な判断力が残っているのなら、その電子音の正体は恐らくスマホのムービー撮影だと思われる。私はこれから彼らに犯される様を、映像として記録されるらしい。映像を残すからには、きっとその映像はお金儲けの道具としてばら撒かれてしまうのだろう。最初は信頼のおける顧客層にだけ届けられるのだろうけれど、でもいつかはネットの海に投下されるのだ。私が犯される姿が、世界中のオスの目に届けられる。私の知らない人間は当然として、クラスの連中や学校の先生、下手したら私の家族にだって。……あぁ。


「それでヒジリちゃんはね。今から一二時間くらい撮影会をした後に、車に乗って郊外に連れて行かれんの。防犯カメラが無くなった辺りで車を乗り換えたら、また東京目指してUターンだ。でも、それは家に帰す為じゃない。ヒジリちゃんはもう家には帰れないんだよ」


 ダメだ。顔が歪む。口角が吊り上がって、笑い声が漏れそうになる。それじゃあダメなのに。私が求めているのは必死の抵抗だ。嘆き、抗い、懇願し。それでもお構いなしに、私の人権を踏み躙りながら玩具として扱われたいんだ。ここで笑みを漏らしては、その瞬間、このレイプは私の望んだものになってしまう。私が望んでしまったら、それはもはや犯罪でもなんでもない。ただの愛のある営みに変わり果ててしまうのだ。


「十代のウチは、金には恵まれているけど、容姿には恵まれなかった汚いおじさんの相手をさせる。二十代になったら、貧富の差とか関係なしに、色んなお客さんの相手をさせる」


 ……でも、無理。無理だよこんなの。我慢出来ない。脳から溢れ出る大量のドーパミンが、私の心に根付く理性を根っこの方から燃やしつくしていく。……もうこれ以上、笑う事を我慢するなんて。


「女として価値のある時期は、全部俺達が吸い尽くすから。骨までしゃぶるだなんて勿体ない事は言わないよ。骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。もしヒジリちゃんを解放してあげる日が来るとしたら、それは十年後になるか、十五年後になるか……」


 ……と。そこでお兄さんの声が堰き止められた。室内に広がる、より大きな歓声が彼の声を掻き消したのだ。大きな歓声の正体が、私の発する大爆笑である事は言うまでもない。


「ダメだこいつ。何も聞こえてねえわ」


 男の中で、一際声の高い男が嘲笑うようにそう呟いた。私の足に拘束具を嵌めた小太りの男だろう。何も聞こえてねえわって、何それ? ちゃんと聞こえているよ。さてはあのデブ、薬を売るだけで自分が使った事はないんだろうな。もったいない。これ、こんなに凄いのに。


「おい、いい加減始めるぞ。カメラもう少し近づけろ」


 皆んなの会話はちゃんと聞こえている。信じられないくらい集中出来て、周りの情報が一斉に流れ込んで来るの。


「つうか木谷さん、最近ED気味って悩んでませんでした? ちんこ勃つんすか?」


 朦朧とした意識と覚醒した意識が同時に成り立っているんだ。しっかり聞こえるのにしっかり聞こえない。しっかり聞こえないのにしっかり聞こえる。……ほんと、何だこれ。


「うるせえんだよ。バイアグラなめんな。お前らも飲むか? ほら、半日は治まらなくなるぞ」


 ……あぁ。頭が溶ける……。何もかもが気持ち良い……。この世の存在ではなくなっていくみたい。お坊さんだって真面目に修行なんかしなくても、これを使えば簡単に解脱も出来るのに。もったいない。覚醒剤経験者のエピソードを調べてみると、まるでスーパーマンにでもなったかのような全能感と自信感に脳を支配されると、皆んなが口を揃えて言うんだけどさ。


「はいはい、そう言うのいいからさっさと始めましょ? 捜索願い出される前に撮影済ませてずらからねえと」


 あれって本当なんだよ。何? この無限に湧いて出る自信は。何? この人間の一つ上の存在にでもなれたかのような全能感は。全てが愛おしい。それと同時に、全てがどうでもいい。相反する感情に板挟みにされているのに、その苦痛さえもがもどかしくて心地良い。


 私の胸に、手のひらの形をした熱が宿った。私の太ももにも同じような熱が宿る。私は今、下着を剥ぎ取られているらしい。上の衣も、下の衣も、私の性感帯を守る最後の砦が、彼らの手によりいとも容易く剥ぎ取られていく。……でも、どうでも良い。好きにして欲しい。本能のままに弄んでくれて構わない。私は彼らの罪を全て受け止め、そして快楽と共に抱きしめてあげるのだ。だって私は……。


「それじゃあヒジリちゃん」


 だって私は……。


「神様にでもなった気持ちで、目一杯楽しもっか?」


 神様だから。


 ……。


 神様だから……?


 ……あれ。変だな。神様だから、何? 自分が神である事を自覚した瞬間、妙な違和感が私の脳に芽生えて来た。


「……は?」


 覚醒剤の特徴。互いに相反する二つの感覚に脳を挟まれ、感じた事のない持続的な混乱に魅了される。気持ち良いのに気持ち悪い。愛おしいのに憎らしい。清々しいのにもどかしい。犯されたいのに犯したい。


「何だこれ。……本?」


 故に彼らの罪を許し、抱きしめてあげようと思ったこの気持ちにも、相反する感情が生まれていた。しかしその感情は、私が神であると自覚するに連れて次第に肥大化して行き、彼らの罪を許してしまいたい私の母性を、ズタズタに引き裂いては飲み込んで行く。


「……楽しもっか? じゃなくてさ」


 神様ならどんな罪も許してあげないと。神様ならどんな罪人でも平等に愛してあげないと。


「……私、帰るって言ったじゃん」


 そんな感情、クソ喰らえだ。


「ザンド」


 私はお腹から出て来たザンドに念を込め、囁くように魔法を唱えた。


 直後、私のお腹に妙な圧迫感が宿る。とても重い。重量にして60〜70キロはあるであろう肉の塊が、私の体にもたれかかっている。


「ザンド」


 次に私は、私の頭を包むように巻き付いたブラウスに切れ目を入れた。私の視界に縦一線の光が舞い降りる。頭に纏わりつくブラウスを、ガムテープごと1の字に切り裂いて、まるで卵から孵化するヒヨコのように、私はブラウスの中から頭部を曝け出した。


 数分ぶりに飛び込んで来た室内の光景が酷く美しい。電球の光に魅了された数分前もこんな感じだった。しかし上体を起こすと、私のお腹に顔を埋める醜いハゲ頭の姿が目に写った。さっきの魔法が効いているのだろう。試しにその頭を拳で軽く叩くと、小気味のいい音が室内に反響している。本当に心地の良い音色だったから、私は思わず二度三度、同じようにハゲの頭を叩いてしまうのだ。そして。


「木魚かっ!」


 四発目にして、私はツッコミを入れるようにハゲ頭を激しく叩きつけた。その音色はこれまでの中で最も澄んだ音だったから、私はお腹を抱えて爆笑してしまう。だって、本当に木魚のような音を出すんだもん。中身が空洞になった球体を叩いたようなあの音が。……まぁ実際、このハゲの頭は空っぽになってしまったわけだけれど。


 瞬間移動をさせたのはいいものの、どこに行っちゃったんだろうね。こいつの脳みそ。


「木谷さん⁉︎」


 ハゲ頭の変死に気付いて駆け寄る三人のオス達。こうして彼らを見比べてみると、私を出迎えたお兄さんはまぁまぁ合格圏内だとして、他の三人の顔はダメダメだ。ほんの一瞬でもこんな奴らからのレイプを期待してしまった自分が恥ずかしい。


「……ごめんね? これでも最初は少し、ドキドキしてはいたんだ。……でもほら。……神様の気分になった瞬間、気づいちゃったの」


 次に私は、私の足に拘束具を嵌めた小太りの男に狙いを定めた。


「ゴブリンの分際で女神様を犯そうとか、烏滸がましいんだよって。……ザンド」


 そして最後に生き残った長身の男と、そこそこ顔の良いお兄さんにも狙いを定め。


「どうせレイプされるなら……せめてイケメン冷徹侯爵辺りの奴隷になりたいかな。……ザンド」


 そして私以外の命が、この部屋から跡形もなく消えていった。

少しでも面白いと思っていただけたなら下の方で⭐︎の評価をお願いします!

つまらなければ⭐︎一つでも全然構いません!

ブックマーク、いいね、感想などもいただけるととても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ