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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第二章 壊れていく少女
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虫は気持ち悪くないと思ってみろ

「……分岐と合流?」


 ザンドから出て来た、到底魔女の強化と関連しているとは思えない単語を思わず繰り返してしまった。


【イェス! まぁ要するに。ウィザードのウィッチ化の事を分岐、ウィッチのウィザード化の事を合流って呼ぶんだよ】


 が、ウィザードとウィッチという単語が出て来た事で、私の脳はヒントの欠片のような物を掴んでしまった。


 ウィザード。男の魔法使い。一つの魔法しか使えない代わりにその出力は絶大。


 ウィッチ。女の魔法使い。言葉で言い表せる無数の現象を引き起こせる代わりに、その出力は脆弱。


 それらの特徴に分岐と合流という言葉を当てはめると……。


「……もしかして。ウィザードは魔法の出力を落とす代わりに、使える魔法が増やせて。……ウィッチは使える魔法を減らす代わりに、その出力を上げられる……みたいな?」


【おー! やるじゃんイヴっち! 流石はうちが育てた自慢の娘よ!】


「そういうの良いから早く続き教えて」


【うぇ……、今のちょっと傷ついた(◞‸◟)】


 だからそういうのがいいんだってば。私達は気を取り直して話を続けた。


【まぁ話の続きっつっても、そこまで理解してるなら話す内容は殆どないよ。今イヴっちが言った通りだもん。ウィザードは魔法の出力が高い分、戦闘の分野では絶大な活躍を見せられるけど、一つの魔法しか使えない都合上、生活力の面ではゴミクズも同然じゃん? だからウィザードは自分の魔法の出力を削って、別の魔法を発現させるんだ。中でも人気なのがゴーレムを作る魔法かな? 生活面がクソ雑魚過ぎるから、お手伝いロボットみたいなのを作って、生涯のパートナーとして一緒に暮らすんだよ】


「……じゃあ、ウィッチは?」


【ウィッチはその真逆。使える魔法を絞る事で、一つ一つの魔法に費やす出力を増加させるの。そしてこの絞りがシンプルで、具体的で、汎用性に欠ける程その出力は莫大に増加する。例えば魔法の種類を火を放つ魔法だけに絞れば、その威力は噴火クラスまで伸びるね】


「……それってウィザードにも匹敵するレベル?」


【条件次第かな。火を放つ魔法から更に汎用性を落として……、んー。例えばAさんだけを燃やす魔法なんかにすれば、ウィザードにも匹敵し得る出力は手に入ると思う。勿論そんな使い道の限られ過ぎた魔法はおススメしないけどね。だって】


 ザンドは悪戯な笑みを浮かべながら、私を脅すように囁いた。


【この契約は生涯に一度しか結べねえもん。それに一度結んだ契約は解約不可能。Aさんを燃やす魔法とか、そんなのAさんが死んだらイヴっちはただの人間に逆戻りなわけだし。……で、どうする?】


「……」


【この契約、結んじゃう? そしたらイヴっち、契約した魔法以外は今後一生使えなくなっちゃうけど】


 ザンドは私を脅すように問いかけるものの、しかし果たしてそれは本当に脅しとしての効果があるのだろうか。契約を結ぶかどうかなんて、そんなの答えは決まっている。


「……するに決まってるじゃん。……むしろ、どこにデメリットがあるの? ……ウィッチの魔法なんて、使わない魔法の方が圧倒的に多いのに」


 ウィッチの魔法は無限だ。言葉で言い表せられるほぼ全ての現象を引き起こすのだから、不老不死の化け物でさえ使わない魔法の方が遥かに多いだろう。極論を言えば、雲をわたあめに変えて食べる魔法とか、ちくわの穴にきゅうりを詰める魔法みたいな、そんな馬鹿みたいな魔法だって扱えるわけだ。


 でも、そんな魔法を扱う機会なんて一生ない。そんなゴミみたいな魔法を封じる代わりに出力に変えられるのなら、それはむしろメリットにしかない得ない。


【了解。じゃあ決まりだね】


 私はザンドを見つめ、その契約が交わされる瞬間を今か今かと待ち侘びる。……が。


【でもまだダメー】


 ザンドはそんな私を揶揄った。


【ごめんごめん! そんな顔しないでよ?】


 よっぽど今の心情が顔に出ていたのだろう。ザンドは苦笑いを浮かべながら謝って来た。


【ちゃんと理由があんの! ほら、うち言ったっしょ? 異世界留学を完遂した魔女の子が受ける試練は二つあるって。これは二つ目の試練だよ。使う魔法に縛りをかける事で、今後の魔女としての在り方を決定する試練。で、この試練を受けるには一つ目の試練を突破しなきゃなんねえわけ】


「……じゃあ最初からそっちを教えてくれればいいのに」


【しゃあないっしょ? だってこの一つ目の試練が一番の難関だもん。魔法の仕組みの根幹に触れる試練で、これを突破出来ずに挫折しちゃう魔女だっているんだ。いい? イヴっち。もう一度だけ確認するよ。イヴっちは魔法を強化する為にこの話に乗った。でも、魔法の仕組みを知ったが最後、イヴっちは今使えている魔法の99%を……ううん。下手したら100%を失う可能性だってある。そんなリスクを背負ってでも、本当に話の続きを聞きたいと思う?】


 その脅しは、合流の試練よりも更に明確な脅しだった。合流の試練が使える魔法の制限を示唆する脅しなら、こっちの脅しはただの人間に逆戻りしてしまうリスクを示唆する脅し。脅しとしての効果はより高い。……でも。


「……聞くよ。ていうか魔法を使えなくなったら、何? ……私、どうせすぐに死ぬもん。ただの人間に戻ったら戻ったで……、大人しくニートしながら、余生を過ごすだけだし」


 私の決意を目の当たりにし、ザンドは私の覚悟を聞き入れた。そしてザンドは語り出す。ザンドが私に隠し続けた魔法の真実を。数多の魔女を挫折へ追いやったと言われる、魔法の本当の仕組みの根幹を。


【自分の力で成し遂げられる事程成功しやすくて、超常的な力に頼らなければ成し遂げられない事程失敗しやすい。万能そうに見えて、万能には至らない神秘の力。魔法の基本だよね?】


「……うん」


【でもさ、それって大嘘なんだ。魔法って言うのは正真正銘、この世の全てを体現する万能の力なの】


「……だよね」


【驚かないんだね】


 ザンドは逆に驚かない私に驚いていた。そりゃそうだ。なんとなくそうなんじゃないかって事くらい、とっくに気づいていたんだもん。超常的な現象を引き起こすには、魔法に制限をかけないといけない。でも、制限をかけた所でそれが超常現象である事に変わりはない。魔法は間違いなく万能なはずなんだ。私が知りたいのは、何故その万能な力を私は使い熟せないのかと言う謎だけ。


【だったら話が早いや。今からイヴっちがやる事はたった一つ。自分を信じる事。自分は全知全能の神だって、自分に不可能な事はこの世に存在しないって、自分自身に信じ込ませるの。それが出来れば、イヴっちの魔法は一つ上の段階に登る事が出来るよ】


「……それだけ?」


 ザンドが提示した呆気ない条件を前に、私は思わず肩透かしを食らってしまった。私はてっきり取り返しのつかないような代償と引き換えに強大な力を手に入れる、みたいな。そういうのを想像していたんだけど。


【言ったでしょ? 信じる力は魔法にとって最大の原動力になる。これはガチガチのガチだよ。必ず成功すると信じて魔法を使えば、魔法は成功するようになっているの。何で難しい魔法を使う時は質を下げればいいのかわかる? 魔法の質を下げれば「あぁ、これだけ妥協した魔法なら、私なんかでも成功出来そう」って思えるからなんだ。この試練は、魔法の質を下げずにこの心理状態を維持する為の試練だよ】


「……そうは言われても」


 それでもやはり納得はいかない。だってそんな、自分は全能だと信じるだけの事が最大の難関だなんて。まるで詐欺師に、十万円振り込んでくれれば一億円にして返してあげるよと唆されている気分にさえなってくる。上位の世界に足を踏み込む代償として、そんな格安な条件があるものなのだろうか。


「……これ、そんなに難しい事?」


【当たり前じゃん。だって気持ちの問題だもん。虫を見ても気持ち悪がるなって言われて、はい分かりましたって従える? 真冬に寒いと思うなって言われて、はい分かりましたって素直に頷ける? それと同じだよ。自分の事を神様だと思えって言われて、誰が二つ返事で信じられるかっつうの。それが出来るやつは常人じゃない。ただの狂人だよ。……でも、それを成し遂げる事こそが上級魔女になる為の条件なんだ。魔法使いって言うのはね、どこまでも自信過剰で傲慢じゃなきゃダメなんだよ】


 私はそんなザンドの説明を受けながら、過去の出来事を思い出していた。それは私がまだ魔法の訓練を始めたばかりの頃。殺しのバリュエーションを増やす為に、解剖の勉強に手をつけようとした時の記憶だ。


[あのね、イヴっち? 魔法に成功率100%はないの。例えテレビのボタンを押す程度の魔法を上級魔女が使ったとしても、小数点以下の確率だけど失敗する事はある。イヴっちはここ最近、魔法の成功が連続で続いているから一時的に興奮して自信がついているだけ。……いや、ここまで来たらそれはもう自信を通り越して過信だ。自信も過信も魔法の原動力になる事に違いはないけど、調子に乗って無茶な魔法を使い続けてみなよ。そのうち絶対取り返しのつかない失敗を見る事になるからね?]


 今のザンドの発言と、あの時のザンドの発言が矛盾している。


「……でも、だったらおかしくない? 魔法の訓練を始めたばかりの頃……、ザンド言ってたよね? 自信は良くても過信はダメだって。……自信過剰で傲慢なのが上級の条件なら……、過信はむしろ魔女にとって必須な感情じゃないの?」


 しかし、ザンドは子供を諭す親のように、一つ一つ私の不信を解消していった。


【しょうがないじゃん。だってそこが下級魔女と上級魔女の決定的な違いだもん。下級魔女はどんなに成功すると信じて魔法を使っても、結局心の奥の奥では半信半疑の壁を乗り越えられていないんだ。あの時のイヴっちは過信で気持ちが麻痺して、魔法を信じ切れていない深層心理に気づけていなかった。あの時に使った記憶力を上げる魔法も、私の見立てじゃ成功率5%もあれば良い方かな。あれ、結構奇跡的な賭けだったんだぞ?】


『……』


 ソシャゲのガシャならSSR5%って相当嬉しいよ。そんな思いが一瞬脳裏を過ったものの、多分この場には相応しくない発言なので言わない事にした。


【気持ちって言うのは反射だよ。意識してコントロール出来るものじゃない。きっとイヴっちはこの試練につまづくと思う。「自分は全能だと思い込まなきゃ」、「不可能は存在しないって信じなきゃ」。そんな強迫観念に囚われて、負のループから抜け出せなくなるんだ。そしてこのループに陥った魔女は、大体が自信を喪失して魔女生命を断つ事になるわけ。お米を数センチ動かす魔法さえ使えなくなるかもね】


 そこまで言われて、ザンドの脅迫がより一層現実味を帯びて来た。言われてみればその通りだ。気持ちは私の意志ではコントロール出来ない。私が障害者を見下しているように。同じく障害者である私をクラスの皆んなが見下しているように。この勝手に湧いて出る気持ちを制御しろと言われても、そんなのどうしようもないもん。

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