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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
第一章 魔女になった少女
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私の卵子をあなたに捧ぐ

 私が欲しい子宮の持ち主の特徴。年齢で言えば20〜30歳で、体格は中肉中背。最悪痩せ型でも妊娠中に太らせればいいから問題はない。しかし肥満体型に限っては、出産時のリスクを考えると論外だ。そして出産のリスクと言う面では、やはり初産よりも経産婦の方がいい。とは言え晩婚化だの言われている昨今。この年齢層で経産婦を探すのも大変だし、結局私は目についた女の人の中から条件に当てはまる人物を適当に選んで連れ去る事にした。


 連れ去る事自体は簡単だ。健康そうなターゲットを見つけたら、その人が一人になるまで尾行する。周囲に人目がなく、防犯カメラの設置もないようならすかさず背後から近づき。


『……え。……え⁉︎ な、何⁉︎ ちょっと待って! 何こ』『ザンド』


 背中から抱きしめて上昇する。当然ターゲットは大声を挙げるから、消音の魔法も忘れてはならない。


 今回のお姉さんの体重はとても軽い。私が身体強化の魔法を使っている事を差し引いてもかなりの軽さだ。身長はおよそ160センチ前後と言った所だろうか。ボディラインが強調されるタイトなワンピースを見に纏うも、軽めのライラックカラーが清楚さを際立たせ、艶かしさや色気が全く感じられない。首元は緩めながらも胸の谷間はしっかり隠れている為、それも彼女が醸し出す雰囲気から色気を隠していた。いかにもお金を持っている中年男性に好まれそうな服装である。


『どうだった? パパ活。すっごい高そうなレストランで食事してたけど』


 私は空中を浮遊しながら彼女に訊ねてみた。


『健康的で良い体だなーって思って、ずっと尾けてたの。お姉さん、普段からあんな食事奢って貰ってるの? やっぱりお金持ちの食べ物ってビタミン豊富で良質なタンパク質も摂れるから綺麗な体になるよねー。炭水化物がメインの庶民とは肌の張りが違うもん』


 私は彼女を背中から抱き締めながら彼女の首筋に鼻先をくっつけた。とても良い香りだ。主張し過ぎない程度の香水の香りもさることながら、健康的な食事を続けているであろう彼女からは体臭も全く感じない。これはようやく当たりを引き当てたのかもしれない。


『良い香り……』


 が、しかし。私に抱き締められながら空を飛ぶ彼女が、その華奢な体から想像もつかない勢いで暴れ出した。まぁ、気持ちはわかる。いきなり背後から抱きつかれ、宙を舞い、そして眼球諸共体が透明化した事で視力も失い、おまけに声まで出なくなっている。そりゃあ常人ならパニックの一つや二つ起こすだろう。……でも。


『大人しくしなよ』


 私は彼女を抱きしめる腕に力を込めた。身体強化を施した私の腕がギリギリと彼女のお腹に食い込んで行き、文字通りの意味で彼女のお腹と背中はくっつきそうになる。また、私の腕に生暖かい液体が纏わりつく感触もした。この臭いは……、胃酸の臭い。強く腹部を圧迫されたせいで、先程の食事を吐き出してしまったようだ。


『いいよ。緩めてあげる。でもまた暴れたら今度は脊椎を折るからね?』


 腕の力を緩めてあげた。お姉さんは抵抗する気配がない。私は彼女が無抵抗を選んでくれた事に感謝して、この辺で最も背の高い雑居ビルの屋上まで彼女を運び入れた。


 雑居ビルの屋上に着地し、すぐに彼女をその辺の床に投げ捨てた。彼女と私にかけた透明化の魔法を解除する事で、私達は初めてお互いの姿を向かい合って見る事になった。本当に綺麗な女性だ。自分の容姿の良さを存分に理解した上で、男性の需要を満たす適切な服選びをしている。


 彼女は私から解放されてすぐにパクパクと口を動かした。しかし自分の喉から声が出ない現状に動揺し、自分の唇や喉に手を当てた。私はそんな彼女に、今自分が置かれている立場について懇切丁寧に教えて……、あげるその前に。


『ごめんね、いきなりこんな事して。びっくりしたよね? 安心して。お姉さんの知りたい事はちゃんと全部教えるから。……でもその前に』


 次の瞬間。お姉さんの体が宙を舞う。それは空を飛ぶ魔法による物でない事は、彼女を蹴り飛ばした私自身がよく知っている。


 屋上にフェンスに叩きつけられるお姉さんの体。フェンスからは重い物と衝突した金属音が鳴るものの、お姉さんの口からは悲鳴一つ漏れやしない。その表情からして、突然の痛みに泣き喚いているのは間違いない。けれど魔法によって声を消された彼女に、助けを呼ぶ術などあるはずもなかった。


『二、三分だけ私に付き合ってね』


 そしてそこから宣言通り、身体強化をかけた私による二、三分間の暴力がお姉さんの身に襲いかかった。


 常識離れする程の身体強化はかけていない。思い切り殴れば骨が折れる程度、思い切り引っ張れば腕が千切れる程度、思い切り蹴れば内臓が破裂する程度の身体強化だ。要するに手加減さえしていれば、一般人が相手でも殺してしまう事はないだろう。


 私は彼女が死なないよう、細心の注意を払いながら殴った。顔も、肩も、胸も、足も、腕も、背中も。お腹は……子宮があるから殴らなかったものの、骨の存在する部位は満遍なく痛めつけた。


 お姉さんに馬乗りになって、その右頬を叩いた。その衝撃で口の中を歯で切ってしまったのだろう。お姉さんは右頬を腫らしながら、口から少量の血液を吐き出した。


 右頬だけ腫れるのもバランスが悪いから、今度は左頬も殴った。すぐに左頬も腫れたものの、しかし右頬の腫れより僅かに大きい気がした。私は両サイドでバランスが取れるまで、何度でも彼女の両頬を殴り続けた。


 ガードされないように、お姉さんの両腕は足で押さえつけていた。しかしお姉さんは私の拘束を掻い潜り、右腕で自分の顔を覆い隠す。


『ガードしたらもっと痛くするね』


 私はその右腕を思い切り引っ張り、親指から順番に関節とは逆の方向に180度曲げて行った。ガードをしたらより強い苦痛を味わう羽目になると、身をもって教え込んだ。


 ある程度顔を殴り続けた後、私は馬乗りにしていたお姉さんのお腹から腰を上げた。今度はお姉さんを抱き抱えたまま数メートル程上昇し、生命維持に支障が出ない程度の高さから落としてみようと思った。しかしその隙を突かれる。お姉さんは決死の力で立ち上がり、この場から逃げ出したのだ。


 勿論その程度で逃げられるはずもなく、私はお姉さんの髪を引っ張って地面へと捩じ伏せた。そして無防備になった足首に手を伸ばし、360度回転させる。これもやはり左右でバランスを取った方がいいと思ったので、両方の足首を回転させた。


 私の暴力が降りかかる度にお姉さんの顔が苦痛と恐怖で歪んでいく。けれど彼女の悲鳴は魔法で消しているせいで、殴っている実感は全くと言っていい程湧かなかった。無音でゲームをプレイしている感覚に近い。剣でモンスターを切るだけではゲームにのめり込めない。剣で叩き切る音もあって、初めて臨場感という気持ちに支配されるのだ。悲鳴を挙げない人を殴る行為は、動くサンドバッグを殴る行為と対して変わらない。


『はい、おしまーい。よく頑張りました』


 約束の時間が訪れ、私はお姉さんを暴力から解放した。暴力と言うのはシンプルだ。私は彼女を解放したのに、彼女は未だに腕で顔を覆い隠す様子がない。防御の姿勢を見せればより強い暴力を浴びせられると学習しているのだろう。


 私の前に素直に顔を晒し続けるその様は、まるで私にもっと殴って欲しいと主張しているようでもあった。それにしても酷い顔だ。折角の整った顔が、怪我による歪みと表情による歪みが合わさって、女の顔はもとより人の顔でさえないように思えてしまった。


『ごめんね? 痛くして。今声を出せるようにしてあげるから』


 私はお姉さんにかけた消音の魔法を解く。それと同時にお姉さんの口からは、恐怖で歪んだその表情とマッチした泣き声がツラツラと溢れ出した。可哀想に。呼吸も過呼吸気味で息が荒れているし、これだと上手く話せるかどうかも不安だ。


『お姉さん』


 私はお姉さんの眼前まで接近し、彼女の前でしゃがんでその顔を覗き込んだ。すると彼女は小さな悲鳴をあげた上で縮こまり、そして謝罪をするのだ。ごめんなさい、もうしないで、助けて、許して。他の四人と同じような事を、打ち合わせでもしたかのように繰り返す物だから、私は思わず笑ってしまった。私はそんなお姉さんの両肩を掴み、鼻先同士が触れ合う数センチの距離まで顔を近づけた。


『私の言う通りにすればもう痛い事はしないよ。いい? 今から私が言う事を繰り返してね。私はあなたには敵いません』


『……え?』


 戸惑いの色を見せるお姉さんの肩を強く握りしめる。お姉さんは苦痛に顔を歪ませて小さな悲鳴をあげた。


『え? じゃなくて。私の言った事を繰り返してってば。ほら』


『わ、わた! 私ぃ……っ、はぁ! ……あ、あぁ、あなたには……か、かないま……しぇん』


 悲鳴混じりではあるものの、しかししっかり聞き取れるレベルで私の言葉を復唱してくれた。だったら私も約束通り、彼女に痛い事はしない。私は彼女の肩から力を抜き、また敵意がない事を伝える為に微笑みかけてあげた。


『あなたは私より強いです』


『あな……たは。わ、私……より。……つ。……つ、強い……です』


『あなたに逆らえば私は殺されます』


『あなたに……逆らえ、ば。わた……しは。殺され……ます』


『あなたには決して逆らいません』


『あなたには……け、決し……て、逆らい……ません』


 うん。パニックを起こしかけている割には上出来だ。


『いいね。じゃあ次は今のを一人で言ってみようか』


 私はお姉さんの肩から手を離し、彼女の前でパンと手を叩いた。


『……わ、私はあなたに……敵いません。あなたは……私より……つ、よいです。あなた……に、逆らえば。私は……殺され、ます。……あなたには、決して……逆らいま、せん』


『よし。それをあと三回』


 私に命じられるまま、お姉さんは言われた通りに同じ言葉を三回復唱する。言葉を復唱する内に少しずつ彼女も冷静さを取り戻したのか、最後の一回は平常時と然程変わらないスムーズな口調で言い切る事も出来た。


『はい、よく出来ましたー!』


 お姉さんはしっかり言い切った。私の言う事をちゃんと聞いて、言われた通りに喋ってくれたのだ。だから私はお姉さんを抱き締め、ご褒美にその頭を優しく撫でてあげた。


『もう心配しなくて大丈夫。これ以上は怖い事も痛い事もしないから。……でも』


 そして十分に彼女を慰めた所で。


『今言った事を破っ時は殺すかも。いいね?』


 彼女の耳元で、その警告だけはしっかりと突きつけておいた。折角泣き止んだお姉さんが再び泣き出す姿に、私は並ならぬ興奮を覚えた。


 興奮している。ボロボロに傷ついた彼女を見て興奮している私が、間違いなくここに存在している。おかげで安心してしまった。やっぱり私はマゾヒストで間違いないのだと。ひれ伏し、支配され、嬲られる。そんな妄想を繰り返しながらオナニーを続けていた今までの私は、紛れもなく本物だ。


『……何ぃ? ……なんでぇ……っ? どう、して……こんな事……!』


 遂に耐えきれなくなったのだろう。泣きながらお姉さんが訊ねて来た。ここまでされてまだ問い返す気力があるなんて。私は小さな感動を覚える。この人、凄く強い人だ。今までの人達は動物のように泣き尽くすだけだった。私に逆らえばどうなるのか身をもって知ったのだ。自分の下手な発言のせいで私が怒り、更なる暴力が降り注ぐのを恐れて何も聞いてはこなかった。


 五人目にしてようやく強い心の持ち主を見つけた。妊娠においてホルモンバランスはとても重要な因子となる。これだけ心の強いこの人なら、きっといいお母さんになってくれるだろう。


『それはね。お姉さんに私のお母さんになって欲しいから』


 意味がわからないと言った戸惑いの表情を浮かべながら、お姉さんは涙に塗れた顔を上げた。しかしその視線は私を捉えるよりも先に、私の指に摘まれた一つのカプセルの方に向けられた。不思議そうにカプセルを見つめるお姉さんに、私はこのカプセルの中身について教えてあげる。


『これが気になる? これは私のクローン胚だよ』


『クロー……、な、何?』


『胚だよ胚。赤ちゃんの素。義務教育でも習うでしょ?』


 次の瞬間、お姉さんの顔に絶望が宿った。お母さんになって欲しいと言う私の発言から、これから自分が何をされるのか察したらしい。


『なんとなく察した? 正解。お姉さんは今からある所に連れていかれて監禁されます。そこでこのクローン胚を子宮に移植されて、育ててもらう事になります』


『……』


『十ヶ月後に元気な赤ちゃんが産まれたら解放してあげるから。それまでは頑張って育ててね? お母さん』


 そこでお姉さんは再び泣き出した物だから、私は再び声を消す魔法をお姉さんにかけざるを得なかった。

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