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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
【第3話 魔女と天使の心臓】
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今のプロローグ

 その地では遥か昔、わがままな大名同士の啀み合いというくだらない理由から大合戦が起きた。そんな大名同士のくだらない争いに巻き込まれた死者の数は千を優に超え、無残に散っていった落武者達の魂は二十一世紀の今もまだ彷徨い続けている。





 その地は戦時中、防空壕として使われていた。しかし大空襲による爆撃は想定の遥か上を行っており、防空壕はあっけなく崩壊。多くの避難者が生き埋めにされたそうな。頭巾を被った避難者の霊は、今宵もまた無念の悲鳴を叫んでいる。





 とある電信柱に、一人の少女が左耳をくっつけていた。毎日のようにそんな光景を見ていた一人の青年が、ある日ふと訊ねる。


『君はどうしていつも耳をくっつけているんだい? 電信柱の中から何か聞こえるのかな?』


 すると少女は電信柱から顔を離して答えた。


『ううん、違うよ。これは音を聞いているんじゃなくて、顔の左側を隠してるの。だって私、顔が半分ないもん』


 その場所で昔、一人の少女が電信柱と居眠り運転の車の間に板挟みに合う事故があったと青年が知ったのは、それからしばらく経ってからの話。





 人は死ぬと幽霊になる。合戦の跡地に落武者の霊。崩れてしまったかつての防空壕に頭巾姿の避難者の霊。交通事故の発生場所に被害者の霊。男に裏切られて身を投げた女の霊、虐待の末に衰弱死した子供の霊、家族に借金を残すまいと自殺を選んだ父の霊、医療ミスの隠蔽を企てるヤブ医者に激怒した患者の霊、妊娠と堕胎の繰り返しによって赤子が集合した水子の霊。そして、幸せな人生を全うし、最後は多くの家族に看取られ、その後は子孫を守護する守り神となった老人の霊。


 様々な霊の噂話を聞きながら私が思ったこと。それは霊の姿というものは、人間が死んだ際の姿がそのまま反映されるんだということ。老人が死ねばその霊体は老人のまま。子供が死ねばその霊体は子供のまま。患者が死ねばその霊体は検査衣や病衣を纏い、事故死や他殺などによって死ねば霊体にも相応の傷が宿り、墓地に出てくる霊のほとんどは葬式の際の白装束を身に纏っている。


 霊の姿というのは、即ち人間が死んだ際の姿。人間は死んだ時の姿のまま永遠の幽霊生活を送るんだ。そんな自分なりの答えにたどり着いた時、私の心は一種の満足感に浸された。私はとても幸せ者だ。何故なら私は若い。人生において最も輝かしい姿で死ねるのだ。


 未来への無限の可能性秘めながら、可能性に向かって前進する力も備えている少女という名のこの体。私は死後、こんな輝かしい姿のまま幽霊に……ううん。天使になれる。だから私は世界一の幸せ者なんだ。


「……」


 病室のベットから体を起こし、窓の外に目を向ける。窓の外に広がるのは、院外に広がる都会の夜景。そして窓そのものに写るのは、暗闇に反射した私の姿。こうして手を広げてみると、まるで天の人になった私が街を抱きしめているようだ。一足早い天使の体験に思わず笑みがこぼれた。


 もしも私が病気を患わなかったら。仮に患ったとしても、臓器移植ではなく普通の治療で根治出来る程度の病気だったなら。私は一体どんな大人になっていたんだろう。お医者さんになって沢山の人を救ったのかな。先生になって子供達の笑顔を守っていたのかな。或いは何者にもなれないまま自堕落な生活を送り続け、持ち前の容姿の良さだけで適当な男を捕まえて結婚していた可能性だってある。


 可能性。そう、可能性。私は可能性を残したままこの世を去る。可能性を残したままゼロになって、そして永遠になる。私は永遠になるんだ。


「……今日も天使になれなかったなー」


 私はベットに戻って布団を被った。擬似的な永遠を味わう事が出来る睡眠を求めて。


 私は寝る事が好き。だって寝たらまた起きれるから。私は毎朝起きる度に感じるんだ。あぁ、今日はまた体が衰えているって。一歩一歩着実に近づくその死の感覚だけど、私には天国の階段を上っているように感じられてしまう。


 人は高い山を登り続けると低酸素の影響で体が参ってしまう。私の体が日々弱っていくのも、きっと同じような理屈なんだ。この体の衰弱は私が天に近づいている何よりの証拠。


「……明日は天使になれるかなー」

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