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異世界で小学生やってる魔女  作者: ちょもら
[第2.5話 魔女と日常の話]
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生肉はどこ

最後の日常編 6/15

「ドラえもーーーーーーーーん!」


 私は家に帰るや否やりいちゃんに泣きついた。


「あうっ、あぅっ……! う、うぅ……っ! あああああああん……っ!」


 それはそれはもう文字通りの意味で泣きついた。彼女の胸に抱かれながら泣き言を吐き続けた。


「何々。同僚の若い女の子とコスメの話になったんだけど話題に微妙についていけなかった? 先輩のセンスってちょっと古いですよね、一世代前のセンスって言うか、って言われた?」


 りいちゃん、本当にドラえもんみたいだなって思った。


「それで私に何をしろと?」


「どこでもドア的な魔法で韓国連れてって……! 最先端のコスメ買い漁ってみんなにマウント取りたい……!」


「わかりました。でも私の実力だと内臓の一部しか飛ばせないと思うんで、どの内臓を飛ばすか決めてください」


「じゃあいいよ」


 多分、これが最初のきっかけだったと思う。きっかけがしっかりと形を持ち出したのはそれから数日後の出来事。


「ドラえもーーーーーーーーーーん!」


 今度はりいちゃんが私に泣きついて来た。


「えええええんっ……! えうっ、えうっ……ひっ……、おおおおおおおん……!」


 それはそれはもう文字通りの意味で泣きつかれた。私の胸に顔を埋めながら泣き言を吐き続けた。


「うえっ、ゔぇっ……! おうっ……! おえええええっ!」


 泣き方は汚かった。


「何々。ダイチ君と焼肉の話をしていたら看護師さんが話題に入って来た? 牛肉ユッケや牛の生レバーを食べた経験談を聞かされてマウント取られた気分になった?」


 りいちゃんの言っている事はなんとなく理解出来た。正直、その気持ちは何一つ理解出来なかったけれど。


「それで調べてみたんですよ。そしたら牛肉ユッケは探せば提供してくれるお店があるらしいのに、牛の生レバーは日本中どこ探しても提供していないみたいじゃないですか! どこもかしこも低温加熱したものばかり! 憎い……っ、私の知らない美味しい物を知っているあの看護師が憎い……っ!」


 本当に何一つ理解出来なかったけど。


「サチは牛の生レバーとか食べた事あるんですか?」


「んー……、積極的に食べた事はないけど、昔は焼肉屋さんに行く度にお父さんが注文したのをちょくちょくつついていたかも。2011年にかなり世間をざわつかせた食中毒の事件があってね。あれ以来生肉って色々規制されちゃったから……」


 でも、困った事に。本当に困った事に。あの頃はそこまで積極的に食べていたわけじゃないのに、いざ思い出すと急にあの頃の味が恋しくなってしまうのだ。


「それで私にどうして欲しいの?」


「生の牛肉食べれるお店に行ぎだい……っ!」


「日本にない物を私にねだられても……」


 と、その時。私の中で一つの可能性が浮上する。確かにこの時代、牛肉ユッケならまだしも公に牛の生レバーを提供してくれるお店なんてものは存在しない。でも、それって日本に限った話であって……。


 私は即座にスマホを取り出し調べてみた。


「りいちゃん。夏休みに食い倒れ旅行に行くって約束だけど」


 私の欲している情報はすぐに見つかった。


「韓国行ってみる?」


 りいちゃんの答えはシンプルだった。


「えー、やですよ。海外だと起動出来ないソシャゲって多いんですよね。ログボ貰えないじゃないですか」


 そのしょうもなさすぎる答えに一瞬呆れかけてしまったものの、私はめげずに彼女の心を押してみた。


「弾丸旅行っていうのもあるみたいだけど」


「弾丸旅行?」


「うん。要するに日帰り」


「日帰り? 海外にですか?」


「そうそう。韓国なら生の牛肉ユッケも牛の生レバーも普通に提供されてるみたい」


「……」

 




 三日後。


「りーいーちゃーん⁉︎」


 尿意を感じ、夢の世界から意識を半分程引き戻される。トイレから戻り布団に入り直した時、ふと目に入った時計のせいで残り半分の意識も現実世界へと引き戻された。


「りいちゃん起きて! もう二十三時過ぎてるよ⁉︎」


 私は同じ布団で寝ていたりいちゃんを叩き起こした。寝坊対策で一緒に寝ていたのだ。


「んー……何ですかこんな夜に……?」


「何ですかじゃないよ! こっちのセリフだよ! 何で⁉︎ りいちゃん、アラームセットしたって言ったよね⁉︎」


「セットしましたよ……。言われた通り一時五十五分にしっかりと……」


「それは飛行機が飛ぶ時間だよーーーーーーっ‼︎」


 私はりいちゃんを洗面台へ運び込み、水圧を最大にして浴びせるように顔を洗った。もう歯磨きも化粧もしている場合じゃない。一分一秒さえも惜しい。りいちゃんは鼻に水が入ってもがき苦しんでいたけど、それさえも気遣っている暇がないのだ。


「着替えて! 四十秒で! 早く!」


「あ、サチずるい! 私もラピュタやりたかっ」


「冗談で言ってるんじゃないんだよ⁉︎ 早く支度して‼︎」


 りいちゃんは恐れ慄きながら着替えに取り掛かった。


「鍵!」


「あります!」


「財布!」


「あります!」


「スマホとパスポート!」


「あります! 全部リュックに入ってます!」


「よし出発!」


 全ての準備が終わったのはそれから十五分が経った頃だ。現在時刻は二十三時二十分。池袋駅まで徒歩十分だから……全速力で走れば五分くらい? いいやダメだ。三分。三分で着いてみせる。


 池袋から羽田空港へ行くには二十三時二十五分の山手線に乗らないといけなくて、それを乗り過ごしたら次の電車は午前四時過ぎ。そうなったら電車は諦めて高い運賃を払ってタクシーを利用する羽目に……。


 私はりいちゃんを背負ってマンションを飛び出した。吼えろ右足、叫べ左足。これでも高校時代は陸上やってたんだ。体験入部だけど。


「サチ! 大変です!」


「え、何⁉︎ どうしたの⁉︎ もしかして鍵を閉め忘れたとか」


「夜中の外出ってなんかめっちゃテンション上がりませんか!」


「ちょっと黙っててくれるかなーっ⁉︎」





「セーーフ……」


 午前一時五十五分。怒涛の二時間半を乗り越えて、私達は今飛行機に搭乗している。


「サチってめちゃくちゃ足速いんですね。ダチョウみたいでかっこよかった」


「あんまり褒められた気しないな……」


 りいちゃんを見てみると、メリムちゃんを広げて一緒に窓の外を眺めている。普段は色々言い合ってる二人だけど本当に仲が良いなー。見ていて微笑ましい。


「おい見ろよメリム。離陸直後に飛行機落ちたらあそこら辺の街壊滅すんじゃね?」


 言うて微笑ましくなかった。


「ほらりいちゃん、そろそろ離陸するからシートベルト閉めて? ゆるゆるじゃん」


 りいちゃんの顔を窓から剥がして前を向かせ、シートベルトに手をかける。


「あ、大丈夫です。機内食食べる時の事を考えてわざと緩めてるんで」


「出ないよ。往復九千八百円の格安便だよ」


 りいちゃんの表情がわかりやすいくらいに曇っていった。


「別に機内食なんて出た所でサンドイッチとかそんなんだよ? だったらお腹を目一杯空かせて現地で沢山食べた方がいいでしょ?」


「まぁ、確かに……」


「今は到着まで寝る事に専念しよ? 頭スッキリさせて食べた方がご飯も美味しいよ」


「それもそうですね。ただでさえ私たち寝不足気味ですし」


 私達はベルトを締めて瞼を閉じた。


 ……。


「サチ。なんか寝れません」


「奇遇だね。私も。座りながら寝るのってあんまり得意じゃないんだ……」


「あ、そうだ。こんな事もあろうかとアマプラで暇潰し用の映画をダウンロードして来たんです。見ている内に眠くなるんじゃないですかね?」


「お、気が利く〜! 一緒に見よっか?」


「はい!」


 私達はワイヤレスイヤホンを片耳ずつ装着しながらりいちゃんのスマホに視線を向けた。りいちゃんがダウンロードして来た映画は2016年に公開された洋画、ハドソン川の奇跡。第40回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞を受賞した、実際にあった飛行機不時着事故を題材にした映画だった。


 二時間半後。


「……」


「……」


 寝れなかった。ゾンビのように背中を丸めながら飛行機を降りる。


「なんであんな映画チョイスしたの……?」


「……でもこれ言ったらサチ怒りそう」


「怒らないから言ってみて」


「悪ノリ」


「……」


 怒ろうかな。


「まぁ、いいや。無事着いたし。でも帰りに何かあったらりいちゃんのせいだと思って怒るから覚悟して」


「そんなご無体なぁ……!」


 涙目になるりいちゃんの手を引きながら入国審査へと赴いた。


「羽田でもやったのにまた持ち物検査。どんだけ慎重なんですか?」


 金属探知機による検査を受けながらりいちゃんが呟く。職員の人が金属探知の機械をりいちゃんのお腹に当てると、モニターには体内の様子が映し出された。


「色んな人がいるからねー。金具のついた服を着て、腸の中に金塊を仕込んで入国したりとか」


「じゃあこれ私のうんこ写ってんですかね。ハハッ、きったねえ」


「こう言う所で働いてる人って大体日本語知ってるからね。下品な事言わないでね」


 そして私達は長い長い障害を乗り越え続け、ようやく仁川国際空港のロビーへと降り立ったのだった。


「わー……、海外の空港って緊張するなぁ……」


 ロビーに設置された椅子に腰を下ろしながらこれからの予定について考える。しかし近代的な建造物の数々に広大な敷地、そして行き交う人の大群に思わず気遅れしてしまいそうだ。


「りいちゃん、前に渡した観光客向けの簡単な韓国語講座はちゃんと読んだ?」


「それは読んでませんが、児童館に置いてあったクレヨンしんちゃん19巻と41巻の韓国旅行編はばっちし読み返したんで自信はあります!」


「オーケー。絶対私から離れないようにね」


 私はこのおバカ……じゃなくて危機感の足りないりいちゃんの腕をがっしりと掴んだ。迷子にでもなられたら一巻の終わりだ……。


「とりあえず何か食べようか。空港だしいい感じのお店もたくさん……」


 と、その時。私の口から無意識に欠伸が漏れて言葉が途切れてしまった。


「たくさん……あるしね。何食べよっか……?」


 りいちゃんの意見も聞いてみる。しかし私の欠伸が移ったのか、りいちゃんも私に負けず劣らずの大きな欠伸をこぼしていた。


「……あの、一ついいですか? 正直私も驚いてるんですよ。こんな気持ち、生まれて初めてなんで……」


 欠伸と共に滲み出た涙を指で拭いながらりいちゃんは答えた。


「睡眠欲が食欲を上回ってます……」


 同感だった。


「うーん……でもなー……。十五時間後には帰りの飛行機に乗る訳だし、寝るのってもったいなくない?」


「じゃあ今から十五時間もこんなフラフラな頭で観光するんですか? それ楽しいですか?」


 一理ある。


 と、その時。大学時代、友達と韓国旅行した時の記憶がふと蘇った。あれは確か韓国旅行三日目の事。あの日、私は友達と……。


「よし! 寝に行こう!」


「え?」


 戸惑うりいちゃんの手を握り、私達は市街地の方へと足を運んだ。

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