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月面荘  作者: 江本紅
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開梱

こうして、入居者巡りの旅(?)をすることになってしまった。これは、なんだろう。一種の交換条件のようなものだったように感じる。


正直、本山田君に対しては、他人の領域にずかずかと入り込むことはやめて欲しい、と一言でも言いたかった。が、そんなことを言う暇もなく、帰ってしまったので致し方がない。


はあ、とため息をつきながら台所に向かう。とりあえず、来た荷物を処理しなければならない。


台所の洗い場には、ご丁寧にコップがそのまま置かれていた。ここまで持ってきたのに洗えばいいのに、と思いながらうっすら残った緑色の粉末を目にしながら水で濯ぐ。


棚の脇に置いた段ボールを開けると、中には新聞紙に包まれた緑色の野菜、よくわからないタッパーに入った茶色い食材、衣服など入っていた。差出人の米山一は、親戚だ。朝日さんは俳優の名前と言っていたが、ただ同姓同名なだけでその俳優とはまったくの別人である。


米山さんは厄介な親戚だと個人的には思っている。母方の叔父なのだが、なぜか甥である僕に異常なほど連絡をとりたがる癖がある。小・中学生の頃はよく家に遊びに来たことから、仲の良いおじさんといった印象を持っていた。高校生になるとなぜか自分の見合い写真を持ってくるようになり、どの子がかわいいかの談義を一人で繰り広げていた。結局、どの人とも結婚せずに田舎に居所をおいている。以前、一応連絡先くらいは交換した方が良いだろうと思い、電話番号を教えたら、その日を境に毎晩のように電話がかかってきた。さすがに、着信拒否したが。とにかく、僕にかまいたがる厄介な親戚なのだ。他にも厄介な出来事があったが、それはまた今度にする。


彼から荷物が届いたのは、実家を出てから始めてのことだった。1年もの間、居場所を悟られずにいたのになぜ今頃になって知られたのか。たぶん、母か祖母が口を滑らしたか、手紙や書類に書いてあった月面荘の住所を米山さんがみたかのどちらかだろう。


どちらにしても、彼に知られてしまったからには何かしら面倒なことが起こるに違いない。ただでさえ、本山田秀策という珍獣がここに舞い込んできたのに、米山さんまで来たらたまったものではない。でも、月面荘は動きたくない。なんというか、干渉されるものがあまりないから居心地がいいのだ。大学も近いし。


はあ。思わずため息をついた。


同時にお腹もなった。


そういえば、もうそろそろ夕飯の時間だ。今夜は朝日さんが作ってくれるといっていたような気がする。ボロボロとはいえど、一応大学公認の山荘だから食事も山荘の人が作ってくれるようになっている。僕自身家事はてんでダメだから有難い。


冷蔵庫を開ける。牛乳とソーセージしか入っていないから、今日送られてきたものは全部入るはずだ。送り返すとまた面倒だから、とりあえず有難く受け取っておくことにする。急いで収納する。


やっと段ボールが殻になったと思ったら、底の方に一枚の手紙が入っていた。差出人は「米山一」となっている。


はあ。またため息が出てしまった。


お腹を満たしてからにしないと、余計なエネルギーを使うような気がする。


手紙をテーブルの上に置き、カーディガンをはおりながら玄関に向かった。

気づいたらもう年の瀬。なんだか1年って早いですね。。。

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