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真夜中の訪問者

作者: しろかげ

 どうもはじめまして。私はしろかげと申します。

 今回書いた話は、私が実際に体験した出来事です。

 物語のようにヤマもなければオチもないです。ただただ肝を冷やした話です。



 あれは夏の季節。私たち家族が新築になった我が家に引っ越して数日後に起こりました。

 簡単に我が家が新築になった経緯を説明しますと、コンクリートの塊が天井をぶち抜いて落下してきたので、新しく建てかえることにしたんです。

 新しい我が家はお洒落な木造住宅で、二階建てなんですが一階と二階が別れていました。アパートを想像すると分かりやすいと思います。

 一階には兄家族が、二階には私と父が住んでいます。


 その時の私は、深夜まで動画サイトを視聴していました。

 イヤホンを着けて、ベッドに寝そべりながら楽しんでいると、イヤホン越しに何か音が聞こえることに気がつきました。


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 それは連続的で、一定の間隔を保ったまま、淡々と、延々と鳴っていました。

 イヤホンを外すと、静かな部屋の中でよく響いています。

 いったい何の音だろうかと思い当たるものを巡らせて、ひとつ見つかりました。

 玄関のドアノブだ、と。

 いつも家を出入りするために掴むそれを動かせば、あの音が鳴ります。ちなみにプッシュプルハンドルという縦長のヤツですね。

 正体が分かった私はイヤホンを着けて視聴を再開しました。あまり気にも留めていなかったからです。きっと、強風に煽られて鳴っているんだろう。そんな風に軽く考えていました。

 あの音が、イヤホン越しにずっと聞こえます。


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 ――あれ? 風ってこんなに吹かないよね?

 はたと思った私は、イヤホンを外して耳をすませます。いつまで経っても鳴り止む気配がありません。

 風ではないと確信した瞬間、心臓がイヤな音を立て、じんわりと汗が滲み出しました。


 誰かが音を鳴らしているのだと気づいたからです。 


 こんな深夜に、他人の玄関のドアノブをカチャカチャさせているなんて、ヤバイ人間に他なりません。その内、玄関を叩き出すんじゃないかと恐怖に震えました。

 枕に突っ伏して、早く去ってくれと祈っていると――音が止みました。

 ああ、飽きてどっかに行ってくれたんだと私はホッとして、またイヤホンを着けます。このイヤな気分を拭いたかったからです。

 ですがしばらくすると――


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 心臓が跳ね上がりました。

 ――うわ、また来た!

 もしかしたら部屋の明かりに惹かれてやって来たんだろうか。明かりを消さなかったことに後悔を覚えました。

 もうこうなったら開き直って動画を視聴しようと、私は集中することにしました。怖いですが、相手にしなければいいんだとそんな結論に至ったからです。

 幸いにも、イヤホンを着ければ音は遠ざかるので、気にしなければどうってことはありません。

 そうしていると、気にしないでおこうと思うほど気にしていたのか、ある疑問が湧きました。


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 疲れすら見えない、動かす力も一定のまま、延々と鳴る音。

 ――果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 さきほどとは違う恐怖が私の中に生まれました。心臓がドクドクと強く鼓動を打ち、身体が震えます。

 それと同時に、好奇心も生まれていました。

 ホラーは苦手だけど好きでしたので、ドアノブを鳴らしている相手の姿を見たくなってきたのです。怖いもの見たさ、と言うヤツです。


 私は静かに部屋を出ました。

 途中にある父の部屋を見て、父を起こした方がいいのではないかとチラと考えましたが、その気にはなれませんでした。後で思い返してみても、なぜ起こさなかったのかよく分かりません。


 忍び足で歩き、離れた場所からそっと玄関を覗き込んでみました。ドアの真ん中の縦部分にガラスが嵌め込まれているので、向こう側が見えるのではないかと思っていたからです。ガラスと言っても透明ではなく、輪郭がぼやける感じに見えます。

 外は街灯に照らされて明るかったためか、思ったよりも見えていました。

 赤茶色のタイルの床、胸まである黒い壁。

 何かが立っている姿はありませんでした。どうやらドアノブ側にいて、ちょうど見えない位置にいるようです。

 視界にインターホンのモニターが入り、これを押して向こう側を映すのはどうかと考えましたが、すぐに却下しました。

 私がここにいることを、絶対に知られたくなかったからです。

 ですが、どうしても見たい。そんな衝動に駆られるまま、私が取った行動は玄関に近づくことでした。角度を変えて覗き込もうと考えたからです。


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 足音を立てないよう、気をつけながら歩を進ませ――後数歩でドアの前に辿り着くというところでピタリと止まりました。

 ――これ以上近づいたら、相手に気づかれそう。

 なぜか、そんな考えが浮かんだからです。その途端、私のあらゆる動きが止まってしまいました。私の意志は歩こうとしているのに、身体がまったく歩こうとしない。そんな変な感じがしました。

 それでも好奇心は健在です。息を殺したまま、私はジッとガラスの向こう側を凝視しつづけました。


カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ


 するとドアノブの方角から、ガラスに何かが映り出しました。

 それはドアの前に立ったわけではなく、下半分のガラスを浸食するようにジワジワと這っていきます。

 不定形で、黒い()()でした。

 その黒い何かが下半分のガラスを覆う――前に、私は静かに後ろに下がりました。

 あれほど動けなかったというのに、実に滑らかな動きでした。

 そのまま無言で自分の部屋に戻り、電気を消してベッドの上で横になり布団を頭まで被りました。

 あれ以上見ていられなくなってしまったのです。

 心臓が痛いくらい鳴っていました。

 窓の外にアレが来ていないだろうかとイヤな想像に身体を震わせていると、どうやら私は眠ってしまったようで気がつくと朝になっていました。


 いつも通りの朝です。

 父も普段通りで、玄関の外を確認してもなんら異変はありませんでした。

 悪夢でも見たような気分でしたが、あれは実際に起こった出来事です。その時に自分がなんの動画を視聴していたか覚えていましたし、静けさの中で鳴り響くあの音も耳に残っていました。

 ですが、その夜以来、あの音が聞こえてくることはありませんでした。


 私の体験した出来事はこれで以上です。

 この夜を何度か振り返っては、なぜか妙に相手に気づかれたくないと強く思っていたなぁとか、インターホンのカメラを起動してみれば良かったとか、そんなことを改めて気づいたり考えたりしています。


 ちなみに、ドアノブを試しに鳴らしてみましたが、人間の私にはムリでした。鳴らすのも難しいですし、別の音が混じってしまいました。

 あの真夜中の訪問者は、どうやって鳴らしていたんでしょうかね?




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