始まりの章 帝王降臨
町からグローブ森林に行くためには道を逸れて暫く荒地を進まねばならず、わざわざ帝王熊の縄張りに行くには相当の労力がかかる。
カリスタが酒場で聞いてきた限りだと、町民があの森に入るわけ無いと言われたのだが、なるほどと納得ができる。
ましてや帝王熊が凶暴になる繁殖期にそんな事をするわけが無い、と酒場に居た酔っ払いはそう言った様だ。
「あーあれだあれだ、あの樹皮が剥がされてるのが縄張りの印だ」
レイが森に少し入ったところに在る木を指差してそう言った、背伸びをしてようやく届くぐらいの場所の樹皮が剥がされていた。
「確か帝王熊ってのは縄張り意識が強いから、あそこからは出て来ないんだよな」
レオがレイと視線を合わせて縄張りの印を見ながら呟いた、
「そう・・・らしいね、あくまでも本で読んだ知識だけどね」
「頭部の金色の毛が逆立つのが王冠に見えるからだとか、その縄張り意識の強さからだとか、縄張りの中での帝王だとか諸説はあるみたいなんだけど・・・」
「ようやく実物が見れるな」
レオとレイは目を見合わせながらそう言うと笑いだした、それを見ていたカリスタは呆れていた。
すると突然森から鳥たちが一斉に飛び出してきた、ただならぬ気配と獣臭に嫌でも視線が集まる。
その視線の先に前足を地面に着いた状態で頭部高までが成人男性ほども在る帝王熊の姿が遭った。
その威風堂々たる姿はまさに帝王と呼ぶに相応しく、黄金の毛が逆立っている様はまさに冠を被った王の風格を漂わせている。
帝王熊はレオ達一同を見回してそのまま背を向けると悠然と去っていった、背後を見せるということは野性の世界では危険な行為な為、レオ達に背中を見せたところで取るに足らない小物だと認識されたようだ。
「完全に舐めてるわね、なんかムカつくから森ごと私の魔法で燃やし尽くしてやろうかしら」
カリスタがそう言いながら森に入っていこうとするのを、レオとレイが必死に引き止めた。
「私を止めるという事は、あんたたちには打つ手があるって事よね」
レオとレイは困った顔をしながら目を合わせて、
「とりあえず森ごと燃やすのは無しで」
一先ずその場から少し離れることにした。