始まりの章 馬車の中
最初の依頼は猛獣退治、勇者として実績を積み重ねていけば国王の使者として各地に派遣されることも出てくるが、勇者になったばかりのレオにはそんな依頼は回ってこない。
目的地であるグローブ森林近くの町であるウェイドまでの移動も飛行船やその他の高速な移動手段ではなくて馬車移動になる、勇者になるより簡単に船に乗れるぞ、という口車に乗せられる漁船の乗員が後をたたない、と小話が出来るほどそこまでの道のりは遠い。
「さすがに退屈になってきたな、これからどれだけ馬車移動するかわからないから、何か馬車に乗りながら出来ることを見つけておかないと」
そう言いながらレオはレイの顔を見る、それですべてを察したのかレイはあきれた顔で、
「それを俺に見つけろと?まあ狭いし揺れるし我慢するのが一番なんだが・・・」
レイが視線を移すと本を抱えたまま虚空を見つめているカリスタの姿があった、その視線にカリスタは気付いて口をぱくぱくとさせたが声にはならなかった、
「ああなりたくなかったら寝るしか無いんじゃないか、ジェラルドを見てみろよ馬車に乗ってから微動だにしてない」
馬車に乗り込み、腕を組み座ったままのジェラルドに2人は感心していた、木剣を使っての模擬戦でも実力があるのはわかったし、今まで埋もれていたのが不思議になる位の人物だが、その寡黙さが仇なのだろう。
3日ほどの馬車旅でウェイドに着くと、町長に招かれ依頼の内容の説明と、小さなパーティーで歓迎して貰った。
帝王熊の生息地であるグローブ森林までは距離も離れているし、発情期の凶暴さは誰もが知っているはずなのに町民に被害が出たというのも考え難い。
だがたとえどんな疑問を持っていようとも、国王の印のある依頼書があればそれに従うのが勇者である為、レオとレイは町で数日分の食料と水と補給品を買い揃えた。
荷物の積み込みを3人で済ませると、後はカリスタ待ちになった。
暫くするとカリスタが上機嫌で戻ってきた、
「おっ待たせー、準備は出来てるみたいねぇ」
「おいおいカリスタ、きちんと言ったことはやってきたんだろうなぁ」
「当ったり前じゃない、酔い覚ましに少し飲んだだけよ、飲まなきゃ怪しまれるっての」
そう言いながらカリスタの眼光が鋭くなる、レオとレイは顔を見合わせた後で、
「じゃあ出発するか、詳しくは馬車の中で聞くよ」
4人は馬車へ乗り込みグローブ森林へ向かった。