始まりの章 自己紹介
仮面の男が二人で並んで座っているというのはかなり滑稽な事だろう。
給仕がお茶を持ってきた時に2人を見て持ってきたお茶を落としてしまい、片付けと再度のお茶の準備と2度手間3度手間になってしまったほどだ。
今日は2人が共に戦い旅をする仲間と初めて会う日である。
敵を欺くにはまず味方から、といった趣向ではないが見慣れて欲しいという建前上の理由をつけてはいるが、その実若さから来るいたずら心というのが正解だろう。
部屋の扉をノックする音に返事をすると扉を開け入ってきたのは目を見張るほどの赤毛と、人目を引いて離さないほどの美しさを持った女性だった。
部屋に入って2人を見るなり目を見開いて驚き、2歩3歩下がったが身嗜みを整えて再び部屋に入ると、
「カリスタ・クロスビーと言います、魔法使いとして同行させて頂きます」
魔女帽・・・というか三角帽子を取り頭を下げて自己紹介した、レオとレイも椅子から立ち上がり名前を名乗りカリスタに着席を促した。
席に座るなりカリスタは仮面の2人をじろじろと眺めた後でため息を吐くと、
「レオとレイでしょ、その様子だと私を覚えていないようね、変な仮面を着けてそれはなんなの」
立場上は目上であるはずの勇者と、その従者に向かってカリスタは捲くし立てる。
その言葉に驚いた2人だったが思い当たるふしがある、勇者候補として一緒に汗を流していた赤毛の少女、途中から居なくなったが魔法専攻になっていたようだ。
「あんたらみたいな体力馬鹿が居たんじゃ着いていけないと思ってたけど、止めて正解だったわね本当に勇者になるなんてね」
そう言って仮面を被っているレイの方を見ている、その視線に気付いたレイは親指でレオを示唆した。
カリスタは勘違いに気付いて慌ててレオに視線を移した、レオは見間違えてくれたのだと満足げな顔になった。
「すまないカリスタ忘れていたわけではないんだ、ただあんまりにも君が綺麗になっていたから気付かなくて」
レイはカリスタの不満げな顔に気を使い話し掛けた、覚えていない訳ではないが思い出せなかっただけだ。
「ふん、私は昔から綺麗だったと思うけどね」
真っ赤になった顔を見られたくないためにレオとレイから顔を背けたカリスタだったが、耳まで真っ赤になってしまっては隠しようが無かった。
そんなことをしていると再びノックをする音が聞こえ、レオに促されて一人の男が部屋へ入ってきた。
2人と真っ赤なカリスタを一瞥すると男はゆっくりと口を開き、
「ジェラルド・グッド、小隊隊長」
それだけ言うと押し黙ってしまったために、レオたち3人が名前を名乗り着席を促した。
「それじゃあ自己紹介も終わったことだし、最初の依頼の話に移ろうか」
レイが席を立ち依頼の内容を話し始めた、良くある猛獣退治の依頼だ。