始まりの章 盗賊行為
レイが後方から騎馬が迫ってくるのに気付いたと同時くらいに、前方に灯りが灯り始めた。
「待ち伏せか・・・」
そう呟き荷台への扉を二回叩く、荷室から返信が有ったのを確認してそのまま馬車を走らせた。
ついでと言っては何だけれど、肩に寄りかかり寝息を立てているカリスタを起した。
「何、何」
カリスタはきょろきょろと辺りを確認した後で涎を拭くと、
「ああ、お客さんか」
大きな欠伸をして溢れた涙を拭った横顔には笑みが零れていた。
明かりに近づいて行くと、男が松明を左右に振りながら停止を促している。
大人しく従えば金品を取られるだけで済む可能性が高いが、逃げ出したら命も取られる恐れが有る。
その国々の治安によっては無条件で戦うべき、といった場合も有るようだ。
レイが男の前で馬車を止めると、しゃがんでいたのだろうか暗闇に人影が現れた、
「こんな時間に交通整理でもやってるのか」
レイが挑発気味に男に話しかける、男はざわつく人影を制してゆっくりと近づいてくる。
男の左腕には布が巻きつけてあった、
「あんたたちはアーロンの手下か」
「ああそうだ、この左腕を見ればわかるだろう」
そう言って男はこれ見よがしに左腕に巻きつけられた布を見せ付けてくる、
「ちょっと荷物を見せて貰おうか、なぁに全部は盗らねえからよ」
レイの横まで来た男が手下に指示して荷室の扉に手をかけた、その瞬間男の首が宙に舞った。
それを合図に荷台からレオとジェラルド達が飛び出して一人残らず切り倒すと、後方から迫る騎馬隊へ向かって行った。
「良かったの、きちんと確認しなくて」
カリスタは眠りを妨げられた溜飲を下げたかったが、みんなのあまりの手際のよさに何も出来ず、不満を杖を振って解消している、
「良いんじゃないか、俺たちからは接触しないって大見得を切ったんだから」
「それにどう言い繕っても盗賊行為だったからね、一応勇者一行には死罪を執行してもいい権限が有るし」
「そういう事だ、盗賊の罪で死罪、一件落着だ」
と言った物の辺りは血の海な上に死体もごろごろとあってはとても一件落着とは言えず、
「仕方ない、野犬に死体を荒らされても困るし今日はここで休むか」
それを聞いてカリスタは真っ先に馬車の荷台に乗り込むと、
「野営のときは男は外、女は馬車の中、って決めてたよね」
レオに向かってそう言うとカリスタは扉を閉めてしまった、レオとレイは顔を見合わせて呆れ顔をすると背中合わせで座り辺りを警戒し始めた。