始まりの章 巻かれた布
「これどうしようか」
カリスタがそう言うのも無理は無い、壊れたテーブルに椅子、散乱する皿と倒れた男たち。
「逃げる・・・訳にはいかないよな」
「そりゃあそうだろうね」
いたずらっぽく言うレオにレイが答える、ジェラルドは奥歯に挟まったのか口をもごもごとしている。
店主に壊した物の弁償についてレイが話している間に、レオとカリスタは町民の声に耳を傾けていた。
聞こえてくる話を統合すると、恐らくこの男たちはアーロンと言うこの町の顔役の子分らしい、アーロンは元盗賊らしいが、今では町の治安はアーロンのお陰で小康状態になっているらしい、左腕に巻かれている布がアーロン一味の証らしく、失敗は腕を切り落として償うらしいが、実際は布を切り落とすだけで済むらしい。
「聞こえてくる話からは、こんなくだらない事するようには思えないんだけど」
原因の全てを担っているカリスタの言葉だったが、レオもそれにはほぼほぼ同じ感想だ。
「いやあ高くついたよ、今度からは物を壊さないように暴れないとね」
店主への支払いを終えて、思いがけない出費に頭を抱えながらレイが戻ってきた、
「暴れるなよ」
カリスタの演技が全ての元凶とはいえ、実際に暴れてしまった手前何も言えなくなるレオとレイだった。
「いったいお幾ら払われたのですか」
にこやかに男が話しかけてきた、あくまでも低姿勢だが目には鋭い光を蓄えていた、
「ああ、これぐらいです」
レイが指で金額を示す、男は懐を弄りながら倒れている男たちの顔を見て、
「あー見覚えある顔だが・・・私たちとは無関係でした、いやまったくの無関係では無いのですが、こういう風にいたずらをする輩が沢山居まして」
倒れている男の首根っこを掴み引き起こし、腕に巻かれていた布を引きちぎった。
「こいつらは私が引き取ります、お時間が有りましたら一緒に来て頂けますか」
レオたちは顔を見合わせ全員首を縦に振った、店の外から何人かの男が入ってきて倒れている連中を全部担ぎ上げると、男は再びにこやかに笑い店主に手を振って店を出て行った、その左腕には布が巻かれていた。