始まりの章 その女、カリスタ
明け方まで町の周辺を警備して回ったが何も起こらなかった。
盗賊が襲って来なかった事は喜ぶべきことなのだが、気持ちは複雑である。
「まあ、何事も無かったのは良い事だな」
大きな欠伸をしながらレオが愚痴を言う、何も間違っていないが何か起きてくれないと何も出来ないもどかしさが有る、
「仕方ないね、何日かはこうやって見回るぐらいしかやる事は無いよ」
レオの愚痴ももっともなのだが、盗賊の討伐に来た勇者が、盗賊が襲ってくるまで町で寝ている訳にもいかないのだろう、
「盗賊の隠れ家が見つかるまで・・・か、見つかるかな」
レオの疑問も尤もで、ダグラスの警備兵が手間隙をかけて探しても見つからなかったのだ、
「そうだね、不謹慎では有るけど一回でも襲撃が有れば見つかるかもね」
「それは口が裂けても言えないなぁ」
「そうだね」
眠気が思考力を奪い、2人は大きく欠伸をして部屋へ向かった、ジェラルドは元気いっぱいのカリスタへ部下からの報告を伝えてから部屋へ向かった。
一人残されたカリスタは派手な服に着替えて町に出た。
「あいつらまだ起きて来ないなんてたるんでいるわね」
昼食の時間になっても起きて来ない3人に愚痴を言うと、
「仕方ない、一人で食べるか」
宿屋の主人に言伝を頼んでカリスタは食事に出かけた。
さすがに飲酒は我慢をしてお腹を満たし、再び町の中を散策し始める。
カリスタは店頭の商品を眺めながら人通りの多い本通りを一本外れ、建物に囲まれていて薄暗く閑散とした通りに入って行った。
「これは・・・当たりかな」
行く手を男に阻まれ、後ろを振り返ると退路を絶たれていた、
「派手な格好して、お金持ちちゃんかなぁ」
髭面の男が舌なめずりをしながら近付いてくる、余りにも在り来たりな言動にカリスタは呆れてしまう、
「そりゃああんた達よりはお金は持ってるわ、顔を見れば一目瞭然でしょ」
「どういう意味だ、それは」
腹の底から響くような声を絞り出しながら怒りで肩を震わせ、今にも飛び掛りそうな男に向かってカリスタはさらに続けた、
「あららそのまんまの意味なんだけど、悪いのは顔だけじゃ無かったのね御免なさい、もっとわかりやすく言ってあげれば良かったかしら」
叫び声と同時に男が殴りかかってきたが、カリスタは持っていた杖を突進する男の腹に突き立てた、男は自分の吐瀉物の中に倒れこみうめき声を上げている。
「更に汚くなっちゃった、後で綺麗に掃除しておきなさいよ」
倒れている男に止めの一言を言い放つ、残された男たちは顔を見合わせた後、髭面の男を抱えて逃げていってしまった。
カリスタは拍子抜けした顔をしていたが、直ぐに気持ちを切り替えて杖を肩に担いでその場を去った。