始まりの章 警戒初日
日が落ちて町の喧騒も遠くなった頃、眠気を覚ますためにレイが身体を動かしているところへ元気いっぱいのレオとカリスタがやってきた。
「レオいい時間だしそろそろ見回りに行くかい」
「ああ出来れば何事も無いのが良いんだがな」
レオもレイを見習い身体を動かし始めた、カリスタも杖を振りながら、
「そうね、何も、無いのが、一番だけど、今日は、何が有っても、大丈夫な、気がするわ」
眠い目を擦りながらレイが黙って聞いていると、
「あらあらだらしないわね、私なんてやる気まんまんでぜんぜん眠たくないわ」
「おお、カリスタもそうなのか、俺もなんだよ」
珍しくレオとカリスタの話しが合い、2人で笑いあっている、
「そりゃあ、あれだけ昼寝をしたらな」
レイのぼやきは2人には聞こえていないようだ。
「馬車は置いてきた方が良かったんじゃないか」
警戒を始めて暫くしてからレオが疑問を投げかける、
「隠して来れたら良かったんだけど、その辺に置いて置くよりは安全じゃないかな、それに、盗賊に対して目立った方が良いだろう」
「ああ、おとりに使うのか、確かにそれは言えるな」
「へー、あんたにしては考えているのね」
馬車の荷室からカリスタが顔を出してからかってきた、荷室にはジェラルドとその部下で埋められており、非常に言い難いが男臭い。
「私もそっちが良いんだけど・・・」
カリスタの上目使いの懇願にも動じず2人は断ったが、仮面の男が2人座っているよりも女の私が居る方が襲われやすいでしょ、の一言に言い返すことが出来ず、話し合いの結果、不意打ちで負傷しては不味い、と言われて言い返せなかったレオがしぶしぶ荷室に入って行った。
「あー夜風が気持ちいいわ、後ろはもう最悪」
「そう言うなよ、いざとなったらカリスタを守るために居るんだから」
「そうね、その時はあんたも私を守ってくれるの」
「もちろん、レオの次にだけどな」
一瞬カリスタの目が曇ったがすぐに表情を変え、
「せいぜい頑張りなさいよ、頼りにしてるから」
レイは小さく頷いた、それから暫くして肩に重みを感じて顔を向けた。
小さな寝息をたてて寝ているカリスタの髪が顔にかかり、紅を引いた唇が微かに動いている。
「あれだけ昼寝をしてたのに」
レイはそう呟いて馬車の速度を少し落とした、月明かりが辺りを照らし暗闇に銀のカーテンを下ろす。
恋を歌う虫たちが遠くに聞こえ、その日はそれ以上何も起こらなかった。