王子様に捨てられたラプンツェルは、彼の瞳に囚われる。
ラプンツェルの物語の終幕後。
束縛・ヤンデレ苦手な方は見ない方がいいです!
「あ、あ……。おうじ、さま……」
惨めに這いつくばる私を、彼は鼻を鳴らして見下ろした。
「何故、なぜ、なぜ……私を捨てたのですか……。あのとき、一生私と共に居てくださると、そうおっしゃったのに……」
「なんだ、塔の上での誓いをまだ信じていたのか。あれは一夜の遊び、他愛もない戯言に過ぎない。お前を捨てた? 俺はお前を拾った覚えなんか一度もないよ、哀れな魔女ラプンツェル」
「だって、あんなに情熱的に「そんなものに価値は無い」」
ハッ、と見下すように王子様は鼻を鳴らす。
なんで? なんで? その言葉の意味を、事実を認めたくなくて縋るように王子様を見上げた。
するとそこにはかつての優しくて美しい王子様がいて。ああ、やっぱりさっきのは嫌な幻覚だったんだわ、と思った瞬間に腹部を思いっきり蹴り飛ばされる。
「――っ、ごふっ」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「森に棄ててこい」
「はっ」
気づいたときには知らない森の中にいて。
彷徨っても彷徨っても、あの塔は見えない。
水溜りはあったけれど、新鮮な水は無いし、あの木の実だって食べてお腹が痛くなるかもしれないし……。
それでもお腹が空いて、空いて。
一つだけと思って人生で初めて食した人が用意していない食事は、色鮮やかな美しいきのこ。
そして間もなく……視界が暗くなる。
ああ、私死ぬのかしら……。
「大丈夫かい? ラプンツェル」
「え? 王子様……?」
薄らと視界に入ってきた見覚えのある天井を見て、次に聴き覚えのある声を聞き、涙が零れ落ちる。
「……っあ、あ、あ」
「ラプンツェル? どうしたんだい?」
「いえ、ただ、酷い夢を見たの」
私を心配するその声が嬉しくて。手で涙を拭うとまだぼやけている視界で、私は彼に微笑んだ。
だから、気づかなかった。
「そうかい。……ねえ、ラプンツェル。それ、悪夢じゃないよ?」
彼が鋭い狼のような目をしていることを。
ふんわりと優しさを纏った彼の瞳が、虚ろと愉悦と悲しみに浸っていることを――。
「それは現実だ。覚えているだろう? 俺に踏まれた痛み、空腹、毒キノコの痺れ」
「……ぇ」
「君はこの城を出されて一日と立たず死の縁を彷徨ったんだよ、ラプンツェル。――さて、ラプンツェル。君は一昨日、誰と何処に行っていた?」
「そ、れは……」
言い淀む私の髪を、彼は壊れ物を扱うかのように優しく触る。
「ああ、言わなくて大丈夫だ。何を言おうと僕は君を愛しているし、捨てるなんてことする筈がない」
だから余計にその声が怖くて。
自分が逃げられないことを、一人では生きていけないことを教えられたその瞳が、私を見つめていることが恐ろしくて。
彼の王者の風格を宿した金の瞳が、私だけを見つめていることに――ぞくりとした感情が湧き上がった自分が、心の奥からの高揚が、堪らなく恥ずかしくて。
「可愛い可愛いラプンツェル。君はずっと僕の膝の上で微笑んでればいい」
ああ、だれか彼に、私はりんごを買いに行っただけだと教えて下さい――。
因みにラプンツェルは、王子様が好きだと言っていたアップルパイを作ろうと内緒で城を抜け出しました。
王子様はラプンツェルの不在に気付き自ら探したところ、運悪く男性と談笑しているラプンツェルを見てしまい、この展開になった模様。
このあとラプンツェルは暫く執務の最中も王子の目の届くところに置かれていました。
侍従曰く、「執務のスピードは2倍になるけれど、好きあればいちゃつくのでやめてほしい。特にいちゃいちゃしているときの主のお前出てけよオーラが半端ないので怖い」らしい。
※これはフィクションです。決してこのような行動を推奨するものではありません。
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