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第十五話、フェリチータは楽しんでいる


 「さて、この後はどうするのだ?」

 ラノスが問えば、フェリチータはにっこりと笑った。

 「お客様も揃ったみたいですし、余興を始めましょうか」

 ラノスとクレイトンに緊張が走るが、フェリチータは気にした様子もなく、むしろ鼻歌を歌い出しそうな様子でラノスから手を離した。

 「来なさいイリア」

 「はい」

 イリアだけを連れて向かうのは、祝いの品が飾ってある台。

 「まぁ、なんて素敵なのかしら!」

 そこに飾られているのは息を飲むほど美しい宝飾品達。どれもこれもが色麗しい小粒の宝石を並べ、光を反射してキラキラと輝いている。

 「お気に召しましたでしょうか?」

 声をかけるのは宝石商だ。ニコニコと営業スマイルで手もみする彼らが皆、フェリチータの後ろに待機している。

 「ええ、素敵ね。こちらは貴方が?」

 「はい。我が商会に受け継がれる特別な手法を用いております」

 そうして宝石商達から丁寧な説明(えいぎょう)を貰いながら、フェリチータは一つ一つを見て行く。

 ちなみに帝国の台には丁寧に恭しく開封済みの酒瓶が飾られており、誰もが二度見して、信じられない思いで見ぬフリをしていた。

 「どれもとても美しくて素敵だわ。そうだわ、私のとっておきの楽しみ方を教えてあげる」

 酒瓶を除く全てを見終わってからフェリチータは声高く言った。すかさずイリアは用意されていた手の平サイズの手鏡をフェリチータに渡す。

 「こちらの鏡で光を反射させて当てると···ほら、もっと光輝くのよ」

 光源はそこらかしこにあるが、蝋燭の周りを囲う鏡の角度を少し調節している為、実は台の周りだけ幾分明るさが少なくなっている。それが反射した輝きをより際立たせているのだが、それは仕掛けた者にしか分からぬ事。

 鏡からの光を受け燦然(さんぜん)と輝く宝石に、見慣れているはずの宝石商までもがほうっと息をつく。

 その反応に気を良くした様に見せかけて、フェリチータは次から次へと宝飾品を輝かせていく。と、突然、声を上げた。

 「これはどういう事!」

 一転、怒気を(あら)わにするフェリチータに当然周囲は困惑する。いや、わざと大きな声を上げたのだ。会場中がフェリチータに注目している。

 「確かこの首飾りは貴方の作品でしたわよね?一体どういうつもりなの?私を馬鹿にしているのかしら」

 「え、え?こちらがいかがされましたか?私は何の事だか···」

 「とぼけるつもり?この私に贋物(まがいもの)を献上しておいて!」

 「ニセモノ?!」

 宝石商は()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

 「お待ち下さい!こちらは今回のために一からデザインし製作した物でございます。贋作等では···」

 「誰が贋作などと言いまして?私は贋物と言ったのよ。贋物のダイヤを使うだなんて、所詮小娘、騙せると思ったのかしら?」

 「まさか···」

 さぁっと青ざめる顔は不審な色を浮かべている。だが、イリアが探しているのはこれではない。

 「あらぁ、心当たりがあるのかしらぁ?」

 「誓って!私どもはそんなつもりはございません!わざとなど、決して!」

 宝石商は何かを求めて首を回す。

 その間にフェリチータは他の物にも光を当て、声を上げた。

 「まぁっ、こちらも贋物じゃない!」

 さぁ、同じ様な寸劇(パフォーマンス)がいくつか行われ、会場はすっかり混乱し、皆そちらへ駆けつける。

 「どうしたというのだ、フェリチータ」

 「ラノス様、無礼者がこんなにもいらっしゃいますのよ!私の婚姻に贋物の宝石で作った物を贈る無礼者が!」

 フェリチータがとってもノリノリである事にイリアだけが気づいていた。もちろんフェリチータは嘘はついていない。

 「それは真か?」

 「違います陛下!その様なつもりは一切ございません!」

 嫌疑をかけられた宝石商達が泡を食って抗議する。フェリチータが今にも手打ちにしそうな空気を出すからだ。

 もう少し抑えて下さい。無理?仕方がないですね。

 「どうか弁明をさせて下さい、国王陛下」

 囲む輪から声を上げたのは始めに責められた宝石商と来た王子だ。

 「秘匿されていたのですが、実は我が国で宝石がいつの間にか贋物にすり替えられているという事が多く発生しているのです」

 「今回の事もそれだと?」

 「そうならぬよう細心の注意を払わせ、警戒も重ねていたのですが···」

 及ばず、という事だ。

 王子の告白に触発されたのだろう。幾人かが我が国もと声を上げ、残る疑いの者達は驚愕と猜疑で更に混乱しながらそんなつもりは無かった事だけを切に訴えた。

 しかし、そう素直な者ばかりではない訳で。

 「ちょっと見ただけではないか、何故贋物と言い切れるんだ!言いがかりではないのか!」

 と、喚く者が一人いればチラホラと同じ声が上がる。

 それを(あぎと)を開けて待ち構えたるはフェリチータ。

 「まぁ、私をお疑いになるの?」

 「当然だ!国の宝石商でも見抜けなかったのだぞ!」

 くすくすと、フェリチータは笑う。

 「贋物の宝石がガラスで出来ている事はご存知かしら?」

 「そんな事知る訳ないだろう!」

 「あらそう。まぁ、いいですわ。実はこちらの国でも、同じ詐欺が横行しておりまして、色々調べがついているのですよ?」

 笑顔でフェリチータが秘匿していた情報をさっくりとバラす。当然ラノスから許可は得ている。

 「数ある宝石の内いくつかだけを贋物とすり替える。そんな陰湿な手口なんですわ」

 ぐるりと見渡せば、同意を示す者達がいる。

 「本物そっくりに出来たガラスの贋物。経験を重ねた鑑定士すら(あざむ)く代物ですわ。そんな物がこの国だけでなく、各国で流れているだなんて···」

 恐ろしい、と一瞬で瞳を潤ませ(うれ)いて見せる。

 でもね、と次に笑う顔は皇帝(あくま)の嘲笑とよく似ていた。

 「宝石とガラスでは光の屈折率が違うのよ?」

 「は?」

 意味が理解できなかったのはその者だけではない。ほとんどの者が何を言い出すのかと、首を傾げていた。

 「宝石とガラスでは光を当てた時に輝き方に違いがあるんですの」

 そんな場に朗々と響き渡るフェリチータの声。

 「拡大鏡を片手にじっくり一つ一つを見ただけなら、その事には気づけないでしょう。輝き自体は本物顔負けなんですもの。異なるのは輝き方」

 見せつける様に、まるで歌劇の様に両手を大きく広げ、時にドレスの裾を翻し、フェリチータは一つの首飾りを手に取る。

 「何の石なのか、ガラスなのか、もっと別の何かか。細かい見分けはつかずとも輝き方に違いがあれば、少なくともそれが他とは違う事が分かりますわ」

 それはまさに、数ある中のいくつかだけを贋物にすり替える手口を逆手に取った方法。一粒だけでは使えない。均一のはずが不均一である場合だからこそ意味のある方法だった。

 「蝋燭や陽の光では分かりにくい。でも、こうして鏡で反射した光を使うと、とってもよく分かるでしょう?」

 一筋の光を受け、一定の間隔で同じ様に輝くダイヤ。その中にわずかに遅れて光る様な違和感が潜む事に、皆が気づいた。

 「まさかとは思いますが、わざと別の宝石や不良品を並べたりなんて、しませんわよねぇ?」

 その首飾りの宝石商に視線を向ければ、よい勢いで首を振られた。

 「では、これは何なんでしょうね?」

 ぐるりと辺りを見渡す笑顔に、誰もが言葉を失った。

 

 

お読みいただきありがとうございました。

思いつきなトリックなので、現実的にはどうかなぁ。無茶かなぁ・・・。

嘘はついてないですよ。ただ、こう、ファンタジーなら何とかなりそうですよね!

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