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第十一話、動き出した策士達

 

 『諸国の皆様へお知らせ致します。この度帝国の第一皇女殿下を側妃に迎える運びとなりました。つきましては、ささやかですが祝いの場を設けたいと思います。是非ご参加下さいませ』


 そんな旨の親書が周辺各国へと届けられた。

 直接届けたのは宰相たるクレイトン。その恐ろしさもさることながら、宰相直々にという事が各国を慌てふためかせた。

 「これはこれは、宰相様直々にお越しなさるとは···」

 「ああ、失礼。なんせ我が君からキチンとお伝えする様にとの命でしてね」

 対応にやられたハズレくじ引きの担当者は、どれ程重要な案件かと、ビクビクしながら親書を読み話を聞いて、目を点にした。

 「これはおめでたい事ですが、その、陛下はとても長生きされていると記憶しているのですが···」

 「左様。御歳五十を数えております」

 「帝国の第一皇女と言えば、近頃成人したと耳にした事があるのですが···」

 「左様。先月成人したそうです」

 「···」

 少なくとも歳の差四十。この時代を考えれば当然の反応である。

 「先方からの申し出ではありますが、お二人共前向きに賛成されております」

 「そ、そうですか···何はともあれおめでとうございます。お祝い申し上げます」

 担当者は自分が考える事では無いと投げた。

 「ありがとうございます。つきましては、ご参加お願い出来ますでしょうか?」

 「すぐに確認を取らせていただきます」

 「ああ急がせて申し訳無い。皇女は側妃ですので人選は程々で」

 「かの国王陛下の慶事でございます、相応の者を送らさせていただきますよ」

 定番の社交辞令だ。部屋を一度辞そうとした担当者にクレイトンが声をかける。

 「そう言えば、側妃様は小粒の石が沢山散りばめられている様な物がお好きだそうです」

 「ほう、参考にさせていただきましょう」

 「そうそう、そうでした。よろしければ宝石商の方もご一緒にいかがですか?」

 「何ですと?」

 思い出したとクレイトンが手を叩いた。(いぶか)しがる担当者にクレイトンは溜め息をつかんばかりの様子で続ける。

 「陛下はうら若い側妃様がそれはもう可愛くて仕方がないご様子で。側妃様の望む物であれば何でも与えたいそうなのですよ。しかし残念ながら、当方の宝石商はお気に召さなかったらしく、陛下は困っていらっしゃるのです」

 つまり良い宝石商を紹介して欲しいという事だ。

 「話は通しておきましょう」

 国境を跨いでまでか?とも思うが、それくらいであれば特に損などない。むしろ豊かなかの国との繋がりが王家公認で取れるとあればプラスだ。問題なく事が済みそうだと、担当者は息を吐き出した。

 「ほっほっほ、チョロいですねぇ」

 どの国でもほぼ同じ流れであった。クレイトンとてラノスと共にこの界隈を生き抜いてきた、つまり文字通り同じだけの年の功があるのだ。どこへ行っても相手は若造でしかない。

 全ての先を巡ったクレイトンは、疲れよりも計画通りに事が運ぶ予感に口許を緩めているのだった。

 


 「この度はおめでとうございます、皇女殿下」

 「口上はいいわ。早くしてちょうだい」

 一方フェリチータは式のドレスの打ち合わせをしていた。

 「私に相応しいドレスでなければ許さないわよ」

 フェリチータは幾人(いくにん)かの侍女もいる人前だというのに、珍しく我儘に振舞っている。イリアもチラチラと見られているが、ここにいろとの命令なので微動だにしない。

 爵位を持たない腕のみで評価された、王室御用達の針子は震えんばかりの様子だが、流石は芯が職人。権力よりも目の前の素材(びじょ)に打ち震えている様だった。

 帝国でもフェリチータの針子は、毎回目の色を変えてスケッチブックを何十枚とめくっていた。

 ここでも直ぐに紙が飛びペンが(ほとばし)る。

 「こちらはいかがでしょうか?」

 「パッとしないわ」

 「それではこちらを大きく波立たせて」

 「好きじゃないわ」

 「でしたらーー」

 というやり取りを何度も繰り返す。どれもフェリチータの気には召さない様で次から次へとデザインが変わる。

  アイデアがヒートアップし、針子の興奮も増してきた頃だった。

 「派手すぎるわ」

 「そんな事はございません!王妃様になられるのですからこのくらい当然です!」

 「この無礼者!」

 鋭い叱責が熱気を切り裂き、フェリチータ以外の者は何が悪かったのか分からぬまま凍りつく。

 「貴女今、なんと言ったの?」

 「も、申しわけ···」

 「そんな事は聞いていないわ。なんと言ったのかと聞いたのよ?」

 針子は冷水を浴びせられたかの様に真っ青になって震えていた。

 「王妃、様になられるから、と、当然です、と····」

 「貴女、そんな事も分からないの?」

 尊大に、冷たく見下しながらフェリチータは(いか)る。

 「陛下の王妃はかのお方一人だけよ。私がなるのは側妃であって王妃ではないわ」

 さて、王妃と側妃が異なる事は分かる。しかし王妃が不在の今、例え間違えた所で、何故そこまで怒られるのかが分からない。側妃よりも王妃の方が地位が高い事は誰だって分かる。誰だって良い方で呼ばれて気を悪くするはずがない。

 しかし現にフェリチータは怒りを呈している。

 その怒りが理解できない者共はどうすれば良いのかも分からず、怯え縮こまる事しか出来なかった。

 「どうかしたのか?」

 そこへ現れたのは通りがかりのラノスだ。

 「部屋の外にまで声が聞こえておったが」

 「まあ陛下、この不届き者は本当に王室御用達ですの?この者は王妃と側妃の違いも分かりませんのよ」

 コロリとした態度でフェリチータはラノスにすり寄る。益々青ざめる針子にラノスは困った表情を向けた。

 「この者は貴族ではない故、知らぬ事は多いであろう。だが、腕は確かだ。儂は信頼しておる」

 「陛下···」

 安堵する針子。フェリチータは眉を寄せながらもその手を下ろした。

 「陛下がそう仰るなら···。でも、次からは別の針子にして下さいませ」

 再び顔に青みの指す針子。ラノスは安心させるようにそちらに視線をやってから、チラリとイリアを見た。

 「それはそうと、お主の従者はずっとそこにいるのかの」

 イリアは部屋の端で気配を消し、空気も同然で立っている。

 「ええ、護衛も兼ねていますもの」

 「あー、安心しなさい。ここに危険はないから、従者は外へ出してはどうかのう」

 ラノスが視線を彷徨わせながら言う。フェリチータは不服そうだったが、イリアはどちらでも良い。

 「分かりましたわ。イリア、部屋の外で待ちなさい」

 「はい、フェリチータ様」

 フェリチータを名前で呼んだイリアに侍女達が目を見張る。一瞬で疑惑の目が行き交う。イリアもフェリチータも気にしない。

 ラノスだけが大層困った顔をして、イリアと一緒に部屋を出た。

 

 扉の脇で直立不動のイリアの隣からラノスは動かない。何やらそわそわしているが、どこかへは行こうとしない。

 「その、お主は姫とそういう仲なのかの···?」

 ようやくラノスが口を開き、流石に国王に話しかけられては無視する訳にはいかない。

 「そういう仲とは?」

 「えーあー、そのだなぁ」

 ハッキリしない返答に、ようやく察する。

 「男女の関係、あるいは体の関係という意味でしょうか?」

 「帝国の人間は皆そんな物言いなのか···?」

 ラノスは手で顔を覆って空を仰ぐ。イリアは国民性では無いとは思った。

 「そういう意味でしたら違います。自分がフェリチータ様となど有り得ません」

 表情も抑揚もなく言い切る。

 「では何故名を?」

 「それがフェリチータ様の望みです」

 イリアは知っている。貴い地位の世界では、名を呼ぶ事を許すのは忠義又は信頼の証。男女の場合は親愛の証ともされている事。サラやアントニーから殺さんばかりの勢いで説かれたが、フェリチータがそれを望んだから人前以外という条件付きで許されていた。今は一人になったフェリチータが常にそう呼ぶ事を望んでいる。

 「自分はフェリチータ様のモノですから」

 でも、そう望む理由は知らない。知る必要は感じなかった。

 深くは読み取れなかったラノスは、それ以上聞く事を諦める。しかし、ついでの様にもう一つだけ尋ねた。

 「そういえば、あの時のカップには何が入っていたのかのぅ」

 『虫』が入っていたというカップ。それについて問うたものの、答えが帰って来るとは思っていなかった。

 「帝国の暗部特製の媚薬です」

 なので返って来た事に驚き、それよりも、何よりも、その内容に顎が外れた。

 「び···」

 「フェリチータ様のご命令でしたので」

 再び空を仰いだラノスは呟く。女コワイと。

 

 

お読みいただきありがとうございました。

現実でも流石に40歳差は目が飛び出ますよね···

書いててちょっと無理あるかなーとは思ったんですが、それくらいの年の差が欲しかったのでやっちゃいました。傍目からすると罰ゲーム位の年の差が欲しかったんです。

個人的には別にリアルでも想像でもアリだと思ってます。ストライクゾーンは広めです。

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