表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

リーダーシップ

 俺とベルカとライカは、生徒たちのところまで戻った。

 すると、早くも面倒ごとが生じていた。


「きっとこっちだ! 俺について来い!」


 ぐったりする生徒たちの中で、一人、元気のいいやつがいるのだ。

 あのイヤミな垂れ目と下まつげは、淵野辺ふちのべ風人ふうと

 2年F組の男子生徒に求心力を持つ、自信過剰のナルシストだ。

 デカい会社の二代目で、人を引っ張っていくのが大好きらしい。


「あっちなのかい?」


 ベルカが俺に聞いてきた。

 俺は首を横に振った。


「レベル17のアクティブMOBがいる。絡まれたら一瞬で終わりだ」


 淵野辺が即死するのを見守るのと、全員を説得して一人残らずハイアルドまで辿り着くのと、どっちが楽だろうか。

 たぶん前者だろうが、そうすれば『見殺しにした』という負債がついて回ることになる。

 それは俺の精神にとっても、周りの俺に対する評価にとっても、ろくな結果を生まないだろう。


 幸い、生徒たちはまだ全員ぐったりしていて、淵野辺についていこうとする者はいない。

 だが、時間の問題だ。

 そして、ここでイニシアチブを取らなければ、先々ものすごく面倒なことになる。


 さあ、意思決定の時間だ。

 この先、どのようにこの連中を育てていくのか。

 その方針を、この場で決めなければならない。


「ベルカ、ちょっといいか」


 俺はベルカにパーティ申請を投げた。

 すぐに承認が返ってくる。

 呑み込みが早くて助かる。


 HUDから周辺地図を開く。

 宙に浮かんだ半透明の地図は、手で掴んで引き寄せることができた。


「見てくれ」


 声をかけると、ベルカは俺に肩を寄せた。


「地図かい? しかし、だいたい伏せられているね」


 地図は殆どが雲みたいなふわっとしたレイヤでマスクされていた。


「到達したところが順次解放される仕組みだ」


 親指と人差し指でピンチアウトして、地図の倍率を変える。

 指でなぞって、ハイアルドまでの道を描く。

 ハイアルドがあるだろう地点には、フラグ――旗の形をしたマーカーを立てた。

 マップは全て暗記しているから、見えなくても問題ない。


「ふむ……ぐるっと回っているように見えるね。なにか意図が?」

「二つある。一つはアクティブMOBの回避。もう一つは到達ボーナスで経験値を入れること。このルートで行くと、東ハイアルド峡谷、東ハイアルド街道の二つを解放できる。それでレベルが2になって、HPも多少は伸びる」

「理解した。死ににくくなるわけだね」


 俺はうなずいた。


「レベル1のDPSだと、レベル5のMOBに絡まれてもオートアタック三回で死ぬからな。レベル2だったら、こっちにも助ける余裕ができる。途中まではレベル1のまま突き進むしかないが」


 生き残りは、21人。

 レイドチームとしては、あまりにも心許ない人数だ。

 ここから先は全員に生存してもらう必要がある。

 

「いいだろう。ボクもできる限り協力する。みんなで生き延びようじゃないか」

「いや、違う。逆だ、委員長」

「逆……?」

「委員長がやるんだ。俺が協力する」


 さすがの委員長も、俺の提案には面食らったようだった。

 だが、ベルカは聡明だ。

 すぐに俺の言わんとしていることに気づいて、重々しく頷いた。


「理解した。ボクがリーダーシップを、キミがマネジメントを。そういうことだね?」

「ああ。俺には友達がいないからな」


 2年F組での俺の立場は、つまはじきとは言わないまでも、まあ、自分で言った通り友達はいない。

 楽姫が誰に対してもあんな感じで接していたから、おこぼれの形で会話に参加することはあったけど。

 そんなヤツが、ちょっと詳しいからってだけの理由でイキって仕切りはじめれば、どうなる?


 最初は生き死にがかかっている状況だから、従ってくれるだろう。

 やがて安定するにつれて、不満が出てくるはずだ。

 わけの分からん生意気なぼっちに、なんでいちいち命令されなきゃならないんだ、みたいに。


 だから、ベルカが必要になる。

 ベルカの求心力と高い理解力は、リーダー向きだ。

 現場に入って人を引っ張り、モチベーションを高く保ち、課題を達成する。

 それが、リーダーシップだ。


 俺は人を惹きつけるような性格ではないし、そもそも他人がそんなに好きではない。

 知識ならあるから、課題を設定し、達成のための道筋を引くのが向いているだろう。

 ベルカの言うとおり、これはまさにマネジメントだ。


「頼めるか?」

「もちろん。なにしろボクは委員長だからね。キミも協力してくれるだろう、ライカ」


 ベルカは、小柄でメガネの女子生徒の肩を、ぽんと叩いた。


「ベルカがいいなら」


 ライカは無表情で静かにうなずいた。


「21人生き残っている。ちょうどパーティ三つ分だ。七人ずつでパーティを組んで、タンクを先頭に歩く。アクティブMOBは俺が引きつけるが、タゲを漏らしたら別パーティのタンクに取ってもらう」

「普林路くんとライカ……あと一人はどうしたらいいかな?」

「それについては考えが――」

「ここに留まっていれば、どんな危険があるか分からない! 俺を信じてついてくるんだ!」


 ばかでかい声が、俺の言葉を遮った。

 イヤミな垂れ目と下まつげの淵野辺は、全員を死地に送り込もうと根気強く頑張っている。

 ここを乗り越えたとして、こいつをどうするかは問題になりそうだ。


 このタイミングでイニシアチブを取ることが、今後のリーダーを決める。

 それを理解しているのだから、少なくとも目端が利くヤツではある。

 上手く利用する方法を探す必要があるだろう。


「ここは頼んだ。うまくやってくれ」

「任せたまえ! なにしろボクは」

「信じてるよ、委員長だからな」


 決め台詞を泥棒したら、ベルカはなぜかうれしそうにした。


 俺は、さっきから目を付けていたヤツのところまで歩いた。

 木にもたれてぐったりしている、天パの小太り。

 新横しんよこしゅうは、絵に描いたモチみたいな外見のオタクだ。


 喋ったことはろくにないが、俺は新横のことを個人的に買っている。

 なぜならこいつのリュックに、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』のキャラのラバーチャームが付いているのを見たからだ。


 もう平成すら終わったというのに、小学生の頃にやっていたアニメのキャラと一緒にいる。

 それが、何を意味するのか。

 コイツは初恋を大事にするヤツということだ。


「話がある」


 だが、そんな感傷的な理由で声をかけたわけではない。


「ああ? ああ……葉限はかぎり?」


 新横はきょとんとしていた。

 それはそうだろう。

 今までほとんど喋ったこともないやつが、こんな状況でいきなり話しかけてきたのだから。


「新横、オマエさ――経験者だろ」


 問うと、新横はあからさまに動揺した。


「えっうぇっどゅっ……な、なんで」

「範囲の避け方とスキル回し。死神リーパーはテクニカルジョブだろ? MP切らさずきれいにスキルを回せるのは経験者だけだ。それも、そこそこやりこんでるヤツ」

「見て……みっ見てたのかよ?」

「全員の動きを全部見てた。MTだからな」


 MTの主な仕事は、敵のタゲを取り続けることだ。

 ギミック処理でフィールドのあっちこっちを走り回る機会というのは、案外少ない。

 そのせいか、パーティメンバーの動きをよく観察しVCで細かく指示を出す仕事を押しつけられがちだ。


「パーティを三つ組んで、まずはハイアルドまで行くつもりだ。新横がタンクをやってくれると助かる」


 リーパーは、OT適性を持つタンクだ。

 レベル1でも、MOBの攻撃であっけなく死んだりはしない。

 おまけに経験者なのだ。

 今、新横以上に頼れるヤツはこの場にいないだろう。


「……む、むりだろ。死ぬ」


 だが新横は、俯いたままそう言ったのだ。


「死なない。俺が守る。ベルカとライカもいる」

「げ、ゲームじゃないんだぞ。人が……何人も死んだんだぞ」

「ゲームだろ?」


 適切な入力と、適切な出力。

 絶え間なくやってくる、意思決定の瞬間。

 これはゲームだ。

 ゲームだから、俺はやり遂げてみせる。

 あいつをなんの慈悲もなく殺してみせる。


 しばらく俺は、新横の天パを見下ろしていた。

 だが、説得する方法は思いつかなかった。


「分かった」


 俺はそう言って新横から離れた。

 結局のところ、俺は人と深く関わる方法を知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ