東ハイアルド街道
-東ハイアルド街道-
一歩踏み出すと、いきなり目の前に文字が現れた。
到達ボーナスを獲得した!
レベルアップ! 葉限普林路はレベル2になった。
チャットウインドウに文字が流れ、俺の体は光に包まれた。
レベルアップ時の演出だ。
ようやく、レベル2。
心が安堵感に満たされ、心なしか体も軽くなった。
「我が精神と肉体に穿たれし空洞、今、満たされり……?」
「ああ、そうだなサイハテ。俺も少しはほっとしたよ」
「フリンジ、ちょっとちがう。サイハテが今言ったのは『なんかおなかいっぱいになってない?』ってこと」
サイハテの言葉をフェイトが通訳して、気づいた。
さっきまでの震えと虚脱感がなくなっている。
内臓を掴まれて絞り上げられるような空腹も、だ。
「レベル上がるとHP回復するゲームってあるもんねえ」
桜木の仮説は腑に落ちるものだ。
ゼロトレでも、レベルアップ時にHPが全回復する。
戦闘中にレベルが上がれば、デバフも消える。
レベルカンストがスタート地点みたいなゲームデザインなので、ほとんど意味はないが。
「優しい作りだね。あの女神が考えたのだとすれば、少し意外だな」
ベルカが言った。
ここまで受けてきた仕打ちを考えれば、そんな感想が出てもおかしくはない。
「フェアプレイじゃんね」
相原がとんでもないことを言ったので、俺たちは一斉に睨みつけてやった。
「わ、こわ! いやいやいや! そーじゃないって! オレも次アイツに会った瞬間全力で殺すもん!」
「じゃあ何が言いたいのよ? アタシをイラつかせないでくれる?」
宇多なんか、相原に銃口を向けているほどだ。
「だからさ、あの女神がやりたい放題しようと思ったら、なんでもできるわけじゃん? この辺の敵をレベル100とかにすればオレたち即死するわけだし。でも、そーじゃないっしょ?」
相原は、銃口を突きつけられながら必死で語った。
「ここまでのことって、全部、このゲームの枠内なんじゃない? 葉限くん、どう? なんかおかしなところあった?」
「いや、ない。全て知っている通りだ」
そこは認めざるを得なかった。
東ハイアルド峡谷のMOB生息域は、ゲームと完全に一致していた。
到達ボーナスできっちりレベル2になるのも、計算通りだ。
「でしょ? フェアプレイなんだよ。ちゃんとルール通りにやってんの。服掴んで倒したり、手でボール持ったりはしない。それやったらむちゃくちゃだから」
そういえば相原はサッカー部だったな。
「……なるほど。理解したわ」
宇多が銃を下ろし、相原はほっとした顔になった。
「で、レベル上がったら全回復。これもルール通りじゃんね。腹ぺこまで回復するとは思わなかったけどさ、オレも」
「ゲーム中には、空腹や疲労というデバフもある。確かに、仕様通りだな」
ルールの枠内で、即死しない程度に最大限いやがらせをしているというわけか。
むしろそっちの方がろくでもない気もする。
だが、そうでなければ俺の知識など何の役にも立たない。
「ここからはMOBも少ないし、ほとんどがレベル1だ。そもそも、道なりに進めば会敵しない」
二つの月が照らす丘陵地帯。
刻まれた街道の先にあるのは、ハイアルド。
都市全体が穏やかに輝いているのは、人々が生活しているからだ。
「怯えるのは終わりだ。俺が先を行く。一気に進もう」
ガラにもないことを、口にしてみる。
そして俺たちは、夜を進む。
――“極西”のハイアルド。
テッラ・フェルマを漂う空珊瑚を鎖と橋で繋ぎ止めた沿岸都市、ハイアルド。
何よりも目を惹くのは、地面から佇立する巨大な空珊瑚、“ハイアルド大灯台”であろう。
今では死に、発光機能を失った空珊瑚には、迷路のように通路が張り巡らされ、行政機関が集約されている。
西方蛮族との交易によって集められた知恵を得たければ、“ハイアルド大図書館”を訪ねるべきだろう。
テッラ・フェルマ最大級の蔵書を誇るこの図書館には、一流の賢者が集う。
だが、うかつに都市内をさまようのは厳禁だ。
下層では、錬金術師たちが、西方交易によって流れ込んできた怪しげな文化を弄ぶ。
実験材料になりたくなければ、案内人を雇うべきである。
下層から命からがら逃げ出して、エールを片手に一息つきたいのであれば“跳ねるイワシ”亭がおすすめだ。
荒くれ揃いの海賊が血なまぐさい会話に明け暮れているが、恐れることはない。
酒場の片隅では、用心棒が目を光らせているのだから。
しかし、酒場の片隅で静かに酒を傾ける者がいて、そいつが鎧を着ているのだとすれば、近づかない方が賢明だろう。
彼らこそは逃亡騎士、海外脱出に一縷の望みをかける後ろ暗き者どもだ。
また、金銀輸出入の際の集積地となっており、細工職人の活動も活発だ。
着飾りたいのであれば、西の空珊瑚の職人街をすすめよう。




